サザエ(読み)さざえ(英語表記)spiny turban shell

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サザエ」の意味・わかりやすい解説

サザエ
さざえ / 栄螺
拳螺
spiny turban shell
horned turban shell
[学] Batillus cornutus

軟体動物門腹足綱リュウテンサザエ科の巻き貝。太平洋側では茨城県以南、日本海側では北海道南部以南の、潮間帯から水深50メートルぐらいの岩礁にすむ。

[奥谷喬司]

形態

殻高10センチメートル、殻径8センチメートルぐらいで、殻は厚く重く、螺塔(らとう)はやや円錐(えんすい)形にそびえ、各層には5本の螺状肋(ろく)があり、肩の肋は太く、間肋も多数ある。下方の螺層では肩および殻底の螺肋が立ち上がって管状の棘(とげ)突起となり、1層ごとにおよそ10本内外の棘(または角(つの)という)が立つが、本数や長さは個体変異が激しい。棘は初め半管状であるが、のちに中の詰まったものとなる。波静かな環境にすむものは棘が出ず、「ツノナシサザエ(角なしサザエ)」とか「マルゴシサザエ(丸腰サザエ)」とよばれる。螺状肋の上のみならず間にも成長脈が細かく密でそれが板状に立ち、表面はざらざらしている。殻口は丸く、その内面は真珠光沢がある。蓋(ふた)は石灰質で厚く、外面は膨らみ、巻いた畝(うね)があり、小さな棘が密生している。内面は平らで褐色、革質の膜で覆われている。軟体部は暗緑色で、触角は長く、足の裏は赤褐色で、中央の溝によって左右片に分かれていて、あたかも二本足で歩くようにはう。雄の生殖腺(せん)は黄白色で、雌のは緑色をしている。

[奥谷喬司]

生態

主食は岩礁に生える海藻で、無選択に食べるが、人工的に偏食をさせると殻の色が単純となり、たとえばアラメだけで飼育すると新しくつくられる殻は白くなる。日中は岩陰に潜んでいて、日没後3時間半ぐらい活動してからすこし休み、その後、5時間半から7時間半ぐらい活発に歩き餌(えさ)を食べる。一夜に24メートル以上も移動することがある。外套膜(がいとうまく)から分泌される貝殻の生成を示す線は日周期で増加し、7日ぐらいごとに、貝殻の分泌の方向に不ぞろいが生じ、角の形成となる。産卵期は春から初夏にかけてで、体外受精をする。寿命は7年ぐらいと推定されている。外套腔(こう)内にしばしば寄生性の橈脚(とうきゃく)類の一種を宿している。

 サザエの語源は「ささえ」すなわち小さな家を意味するとする説のほかいくつかあるが、古くからこの貝と日本人とのかかわりは深かった。壺(つぼ)焼きや刺身として食用にされ、また古来雛祭(ひなまつり)の供物として欠かせないものとされる。近年、磯根資源(いそねしげん)のなかでアワビ類、イセエビとともに有望なものと目され、人工採苗、放流養殖が試みられている。貝殻はボタン、螺鈿(らでん)の材料などにされてきた。

[奥谷喬司]

食品

サザエの産卵期は夏で、春から初夏にかけてが旬(しゅん)である。昔から3月3日の雛祭にはサザエの壺焼きが供されるが、ちょうどこのころ味がもっともよい。

 新鮮なものでは、わた(内臓)も加熱すれば食べられ、特有の苦味がサザエの風味を引き立てる。代表的な料理は壺焼き。殻ごと口を上にして焼き網にのせ、直火(じかび)で焼く。口があいたらしょうゆを入れ、煮立ったら火からおろす。上品な料理に仕上げるには、あらかじめ身を取り出し、刻んで、ぎんなんシイタケ、ミツバを加え、だし、酒、しょうゆをあわせた調味液を注いで蓋をし、火にかける。なまで刺身や酢の物にするには、蓋のすきまにへらを差し込んで身をゆっくり取り出す。水をすこし加えて軽くあぶると簡単に身が取り出せる。

[河野友美]

民俗

福島県会津若松市の飯盛山(いいもりやま)に、内部の螺旋(らせん)状階段を昇り降りすると西国三十三所の巡礼ができるというさざえ堂がある。江戸・本所にあった五百羅漢のものも有名であったが、これらはサザエの形からヒントを得た珍しい建築物である。また、冑(かぶと)の鉢(頭の上部を覆う部分)にもサザエの姿をデザインしたものがある。「栄螺打ち(さざえうち)」といって地面に描いた円の中に、サザエの蓋を投げ入れる遊戯もあった。昔の漁村では、屋根の上にこの貝殻を置けば風を防げるとする迷信もあった。

[矢野憲一]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サザエ」の意味・わかりやすい解説

サザエ
Turbo cornutus; horned turban shell

軟体動物門腹足綱リュウテンサザエ科の巻貝。殻高 10cm,殻径 8cm。殻はこぶし形で堅固。螺層は段々状に高くなり,各層には太い螺肋が約5本と,細い螺肋が多数ある。下方の螺層の肩部分と殻底には管状の角状突起ができる。とげは殻内に通じていない。角状突起は波の荒い外海にすむものほどよく発達しており,内海や内湾の個体ではとげを欠くものが多い。殻表の成長脈は密に並び,ほぼ1日に1本のわりでできる。餌によって殻色が変り,褐藻だけを食べると黄色に,石灰藻や紅藻なども一緒に食べると緑褐色になるが,普通,付着物でよごれている。殻口は丸く,軸唇は下方へ広がる。殻口内は強い真珠光沢がある。ふたは石灰質で厚く,左巻きのうねがあり,小棘が密生する。軟体の足の裏は中央の溝で左右の2葉に分れていて,これを交互に滑らせて歩く。内臓の先端に生殖腺があるが,雄では黄白色,雌では緑色。北海道南部から九州,朝鮮半島南部に分布し,潮間帯から水深 20mの岩礫底にすむ。肉は刺身,鮨種,壺焼,缶詰にし,殻は貝細工やボタンの材料にする。

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