株式給付信託(読み)かぶしききゅうふしんたく(英語表記)board benefit trust

日本大百科全書(ニッポニカ) 「株式給付信託」の意味・わかりやすい解説

株式給付信託
かぶしききゅうふしんたく
board benefit trust
employee stock ownership plan

信託スキームを利用して、従業員役員に対して在任中もしくは退職・退任時に自社株を給付する仕組み。株式交付信託ともいう。業績連動型の株式報酬制度の一種であり、この点ではストックオプション制度に通じる。一般に、従業員向けは日本版ESOP(employee stock ownership plan)、役員向けはBBT(board benefit trust)とよばれるが、両者の仕組みに大きな違いはない。ちなみに、ESOPは1929年に発生した世界恐慌を契機に、富の源泉である資本の再配分を通じて富の偏在を正し、経済格差の是正を図る理念からアメリカで導入された制度である。

 株式給付信託の導入に際しては、まず社内規程にポイント付与制度を設ける。従業員や役員は、業績への貢献度などに応じて付与されるポイント数に応じて自社株を取得する権利を得る。信託上は、導入企業が委託者となり受託者(信託銀行など)との間で信託契約を締結し、従業員や役員が受益者となる。委託者は受託者に金銭を信託し、受託者はそれを原資に株式市場などから導入企業の株式を取得して受益者に給付することとなるが、これらは信託が終了するまで繰り返し行われる。信託期間中の株価上昇を従業員や役員に還元する仕組みである。

 導入企業にとっては、安定株主を確保する機能が期待される半面、個別受益者のポイントの管理、株式の取得、受益者への株式付与などを受託者が行うため、制度運用上の業務負担から解放される。一方、受益者には、従業員にも経営への参加意識を高め、業績向上へのモチベーションが高まる効果が期待される。また、業績向上を受けて株価が上昇すれば、一般株主にも歓迎されることとなる。

 その反面で、企業には自社株取得のための費用や受託者への信託報酬の支払いなどが発生する。そして、もし株価下落が続くようなことがあれば、逆に受益者のモチベーションが低下する懸念も否定できない。ポイント付与制度についても、恣意(しい)性が介在しない公正さが求められる。

 なお、受益者が役員で退任型(退任時に株式を給付)の場合、退職慰労金の代替として扱うこともできる。また、受益者が従業員の場合には、株式給付型とは別に、従業員持株会が信託から株式を購入する形態(従業員持株型)もある。

 株式給付信託は、総じて企業、役員、従業員おのおのにメリットがあり、制度設計の自由度が高いこともあって、導入企業は増加傾向にある。

[高橋 元 2021年12月14日]

『渡部潔著『日本版ESOP入門――スキーム別解説と潜在的リスク分析』(2009・中央経済社)』

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