会社が従業員に対して自社株の保有を促す社内制度。具体的には、(1)制度の運営管理を行う常設機関である従業員持株会を設立し、(2)福利厚生の一環として会社は奨励金を与え、(3)従業員は給与や賞与からの天引きにより一定の資金を拠出し、(4)持株会は継続的に自社株を共同購入して従業員に配分される持分を管理する、という仕組みである。
会社にとっては、福利厚生の充実化を通じて従業員のモチベーションや経営参加意識を高め、人材を会社につなぎ止める効果も期待される。安定株主の確保につながることもあり、上場企業のみならず非上場企業においても、広く導入されている。
従業員にとっては、有効な資産形成手段が提供される。まず、拠出金は自動的に給与や賞与から一定額が差し引かれ、自社株の購入にあてられるから、無理なくドル・コスト平均法のメリットを享受しうる。加えて、拠出金に対して奨励金が付与されることは、とくに低金利時代には魅力的である。また、単元株に縛られずに購入できるため、むだなく長期的な保有株式数の増加を加速させる効果がある。持株会への加入は任意であり、積立てを休止することも可能であるし(その場合も配当金は支払われる)、単元株に達すれば持株会から自分の証券口座に移して売却することもできる。ただし、通常毎月の積立額には上限が設けられるほか、いったん持株会を退会すると再加入は認められない。さらに、従業員持株会で扱う自社株は個々の名義ではないから、株主優待を受けることはできない。
一方、持株会で購入するのは自社株のみであるため、分散投資の効果は発揮されない。さらに、従業員は、給与に加えて持株でも会社と関わることで、収入と資産の両面で会社への依存度を高める結果、もし業績悪化などにより給与引下げや株価下落が惹起(じゃっき)されれば二重にダメージを被るリスクを負う。
従業員持株制度に類似した自社株報酬制度には、ストックオプションや従業員持株型の株式給付信託などがあり、いずれも従業員のインセンティブ(誘因)を高め、資産形成に資するなどのメリットが認識され、広く普及している。
なお、従業員持株制度は、加入する従業員の給与・賞与から天引きされた資金をまとめて、毎月自社株を買い付ける仕組みである。これに対して、従業員持株型の株式給付信託では、企業の債務保証を得て信託が借入れを行い、従業員持株会が今後一定の期間内に取得する予定の株式を一括購入する。その後、従業員持株会は、加入する従業員の拠出金に応じて、毎月信託から株式を購入していく仕組みが一般的である。
[高橋 元 2021年12月14日]
従業員に普通株を一定の基準によって割り当て所有させる制度で,従業員は株主として株主総会に出席,決議に参加し,利益の配当を受けとる。この制度の目的は,労働者と資本家を株主として同じ立場におき,労使の対立を緩和し,従業員のモラールmorale(勤労意欲)を向上させることにある。経営参加制度の一つの形態といえる。1829年にイギリスで最初に採用され,42年にフランス,90年にアメリカとしだいに各国で実施され,とくに第1次大戦後の1920年代の好況期には実施企業が増大した。大恐慌期には一時衰退したが,第2次大戦後欧米各国で見直され,普及した。
日本での普及は,特別の例(出光興産など)を除き,第2次大戦後欧米の持株制度の紹介によってであり,現在ではかなり多数の企業で実施されている。71年当時上場企業のうち650社で採用され,従業員の約30%が参加している状態であった。しかし欧米の場合も日本の場合も従業員の持株比率は低く,日本の上場会社の例では東洋紡績1.5%,東レ1.5%であり,多少高い水準でも鐘紡3.6%,クラレ3.4%などにとどまっている(数字は1983年9月現在)。しかも日本の大部分の会社では従業員持株会を結成し,その代表者が株主総会の議決権を行使する方法をとり,この代表者は社長が兼務する場合が多く,実質的には経営者支配を強化する制度となっている。以上のような実態から,欧米はもちろん,日本の場合もとくに従業員がこの持株制によって株主意識を強くもつようになったということはないといわれる。その意味で,従業員持株制度は普及はしているが本来の目的にとって実際の効果はあがっていない。日本の場合この制度は,こうした本来の目的に加え,従業員の財産形成や安定株主の育成を図るという意図もあって広く採用されているといえよう。財産形成に関していえば,株式の取得に際し取得代金の給料天引きなど,なんらかの便宜が図られているのが普通である。
執筆者:高柳 暁
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