改訂新版 世界大百科事典 「株式資本」の意味・わかりやすい解説
株式資本 (かぶしきしほん)
joint-stock capital
Aktienkapital[ドイツ]
一般には,個人所有の私的資本に対して,複数の出資者が株券と引換えに払い込んだ株式会社の自己資本,すなわち結合された社会資本をいう。しかし狭義には,再生産過程で機能しながら利潤を生む現実資本に対して,利子を生む特殊な商品として資本還元された擬制資本をさす。証券市場で現実資本(企業資産)に対する所有持分(株式)が任意に分割譲渡されうるようになると,重役として会社の経営権を集中して支配する少数の大株主と経営からは排除された大多数の一般株主とへ,株主が2層に分化される。一般株主にとっては,もともと出資持分を示す株券も,たんなる配当請求権を代表する収益証書として売買の対象になるにすぎない。そこで,貨幣市場との間で資金の交流をもつ資本市場で形成される株式の価格は,払込資本として企業資産を形成する現実資本の価値額に対して,利益配当を利子率で資本還元した架空の資本(擬制資本)の価値額を構成することになる。いま資本金100万円の会社の発行株数が1万株で,額面の1株100円に対して期待される配当が20円だとしよう。市場利子率がかりに8%だとすれば,配当の不確実性に対する危険プレミアムを2%とみて,利回りは10%となるであろう。そこで額面100円の1株は,配当金20円を10%で除した200円の株価で売買されるようになる。ここに,100万円という本来の資本金のほかに,200万円という株式資本が別に存在するかのような擬制がなされるのである。この株式資本は,出資者の手もとに回収しえない現実資本の価値増殖とは別に,自由に投下と回収のできる貨幣形態の資本として独自な運動を展開するものとなって現れる。
執筆者:小池田 冨男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報