株式を表章する有価証券。株主の法律的地位である株式をめぐる法律関係を目に見える形にするとともに、取引しやすい形にして、その流通により株式譲渡を容易にすることができる有益な手段である。商法時代は、株式会社は株券を発行すべきことが原則とされていたが、会社法では、株式会社において株券不発行が原則となり、「株式会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる。」と規定されている(214条)。これは、一方で、株式に高度な流通性を必要とする会社では、「社債、株式等の振替に関する法律」(平成16年法律第88号)による新しい振替制度のもとでの株券のペーパーレス化が強制されることと、他方で、株式の市場流通性を高める必要のない会社があることの両面から、株券不発行を原則としたものである。なお、株券不発行会社の株式譲渡は、譲渡当事者間の意思表示で効力を生じ、株主名簿上の名義書換えが会社および第三者に対する対抗要件となる(会社法130条2項)。
定款で株券発行を定める株式会社(株券発行会社)では、株式発行日以後遅滞なく株券の発行を要する(同法215条1項)。ただし、非公開会社では、株主の請求があるまで株券を発行しないことができる(同法215条4項)。
株券は、株式の存在を前提として作成されるので、設権証券ではなく(非設権証券)、また無因証券でもない(要因証券)。株券は、法定事項の記載と取締役の署名を要するので(同法216条)、要式証券ではあるが、その要式性は手形ほど厳格でなく、株券としての本質的な事項を備えていれば、その他の事項を欠いていても無効ではない。また、株券は文言証券ではない。株券上に株主の氏名が記載される記名株券の発行だけが認められる。株券が発行される場合、株式は株券の交付のみによって移転するので、株券は有価証券の分類としては無記名証券に属する。
株券発行会社の場合、株券の交付が株式譲渡の効力要件とされ(単なる対抗要件ではない、同法128条1項本文)、株券の占有者は適法な所持人と推定される(株券占有の資格授与的効力、同法131条1項)。また、株券には、善意取得の制度が認められている(同法131条2項)。株券の占有者から株券の交付を受けた者は、悪意または重過失がない限り、たとえ譲渡人が無権利者であっても、有効に株券を取得して株主となることが認められる。
株券の所持を希望しない株主のために、株券不所持制度がある(同法217条)。また、株券を喪失した株主のために、株券失効制度が設けられ(同法221条~233条)、会社ごとに備えられる株券喪失登録簿に喪失登録がされた株券は、登録日の翌日から1年後に無効になり、当該会社から登録者に対して株券が再発行される(同法228条)。
[戸田修三・福原紀彦]
『鳥山恭一・福原紀彦・甘利公人・山本爲三郎・布井千博著『会社法』新訂版(2006・学陽書房)』▽『神田秀樹著『会社法』第9版(2007・弘文堂)』
株主の地位すなわち株式を表章する有価証券。株主の地位は利益配当請求権や株主総会における議決権その他の権利を伴っているので,株券とはこのような権利を表章する有価証券ということができる。株式を株券に表章することによって,株式の譲渡は株券の交付のみですることができ(商法205条1項),株式の流通性が高められる。1枚の株券には複数の株式を表章することができ,実際には定款の定めにより,1株券,10株券,100株券,1000株券,1万株券等が発行されている。
株券には記名株券と無記名株券とがある。この区別は,会社に対する株主の権利の行使方法の差異によって生ずる。無記名株券の場合には,会社に対する権利の行使は,株券を会社に供託して行う(228条,239条2項)。これに対して,記名株券の場合には,会社に対して権利を行使するには、株主名簿上に株主の氏名および住所の記載を受けなければならない(そのためには株券を会社に呈示する必要がある)--これを名義書換えという--が,名義書換えを受ければ,その後はいちいち株券を供託しないでも,株主名簿の記載のみに基づいて権利を行使することができる。現実には,無記名株券が権利行使の際に,不便であるところから,日本では記名株券のみが利用されている。
株券は上述のように株式の譲渡のために必要なので,会社は,成立後または新株発行の効力を生じた後は遅滞なく株券を発行しなければならない(226条1項)。株券発行に必要な合理的期間を経過しても,会社が株券を発行しないときは,会社は株券の交付なしの譲渡の効力を否定できないと解するのが通説・判例である。
記名株券の場合には,前述のように,一方で,株主は株券を供託しないでも株主名簿の記載に基づいて権利を行使でき,他方で,株券の発行を受けるとそれを紛失して第三者に善意取得されて(229条)権利を失うおそれもあるので,株券不所持の制度が設けられている(226条ノ2)。当分の間,権利を譲渡する可能性がなく,かつ株券の保管に不安のある株主は,定款に別段の定めがないかぎり,この制度を利用することができる。
株券を喪失した場合には,公示催告手続により除権判決を得れば株券の再発行を請求することができる(230条)。
→株式
執筆者:前田 庸 株券を廃止して,振替決済機関への登録(口座管理簿の記載)を株主権の根拠とする制度が2004年社債等振替法の改正により決まった。09年6月までに全国の上場会社が株券不発行に移行する。
執筆者:編集部
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…そこで,この資本の制度は,株式会社の付随的特色といわれている。そして,株式を株券という有価証券に表章しその譲渡を自由としていることは,この資本維持の原則のため,出資の払戻しができない点の不都合を解消し,株主の投下資本の回収を株式譲渡という方法で可能にするためである。
[沿革と最近の動向]
株式会社の起源についてはいろいろの説があるが,後述のようにオランダ東インド会社(1602設立)等の植民公社を起源とみるものが多い。…
…証券取引所がある有価証券を,その開設する有価証券市場における売買取引の対象とすることをいう。上場可能な有価証券は株券,債券,転換社債券等であるが,証券取引所は原則として有価証券の発行者からの申請によって上場を行う。発行者からの申請によって証券取引所がその発行する有価証券を上場しようとするときは,大蔵大臣の承認を受けなければならない(証券取引法110条)。…
※「株券」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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