信用制度が発達し、利子付き資本の形態が確立すると、どんな遊休貨幣も、預金や貸付が利子を得る場合のようにいつでも利子を得るものとみなされ、そこから規則正しくもたらされるすべての一定の貨幣所得は、ある一定額の利子付き資本がもたらす利子とみなされる。そうすると今度は、たとえ現実に一定の貨幣所得が利子付き資本からもたらされなくても、その背後にその源泉としての「利子付き資本」があるかのように想定されるようになる。この「資本」は、まったく架空の存在であるから、擬制資本または架空資本とよばれる。
擬制資本は、定期的な貨幣所得を平均利子率で貸し付けられた資本の利子であるとして計算すれば算出される。すなわち、定期的な貨幣所得を平均利子率で除することによって得られる。この計算を資本還元または資本化という。たとえば、定期的な貨幣所得が5万円、平均利子率5%とすれば、この貨幣所得は、現実の源泉とかかわりなく100万円の「資本」がもたらすものとみなされる。しかし、この「資本」(または5万円に対する請求権)はなんら実体のある資本でも価値でもない。ただ、それが売買の対象となると、上記の資本還元または資本化の手続をとって資本価値を想定し、擬制化し、そしてそれを価格とするのである。
擬制資本の具体例は、確定利付きの国債・社債、利潤参加証券の株券などの有価証券、土地価格などである。いま株券でいえば、投資者の手元には戻らない株券の額面の金額である株式会社における現実の投資総資本額と、株券の売買における株価(予想収益配当に対する請求権の価格)の総額(擬制資本)とはまったく違ったものである。その差額を創業者利得とよび、利潤を生む資本を、利子を生む「資本」形態にすることから生じる。こうして利子付き資本とその果実の利子との関係は、擬制資本では、収益を擬制資本で除した商を利回りとよんで、擬制資本と利回りというまったく現実的な過程をもたない関係となる。
利子付き資本が価値増殖の生産過程をみずに隠蔽(いんぺい)したものであるのに対し、擬制資本は現実の価値増殖の生産過程なしに利子を生んだように擬制される転倒した関係=観念であって、資本の物神的性格は最高度に達する。
[海道勝稔]
銀行を媒介とする貨幣市場で貨幣の貸付けが利子を生むという関係が成立していると,規則的に反復して生み出される貨幣収入の源泉も遊休貨幣による売買の対象となり,その利回りを利子率に一致させるような価格が形成される。そこで定期的な収入はこの収入源泉の価格に対して利子という外観を与えられ,その背後に利子を生む資本の存在が想定されることになる。この資本はあくまで架空のものであるから,一般に擬制資本あるいは架空資本と呼ばれる。
すなわち株式会社の普及と株式(証券)の流動化によって株式価格が形成されると,株式価格に対する配当の比率としての利回りが利子率に均等化するようになり,この〈配当の利子化〉が利子を生む独自な商品としての株式資本の存在を擬制することになる。そして,この関係(観念)が社会的に一般化されるようになると,資本ははじめから利子を生むものと考えられ,継続して収入をもたらすものは逆に資本とみなされるようになるのである。こうして,いっさいの定期的な収入はなんらかの利子を生む母体(資本)の果実とみなされ,それらの収入を利子率で除した商が擬制資本で,その計算過程が資本還元ということになる。擬制資本はもともと資本ではないものが利子を生む資本とみなされているだけにすぎず,それゆえ資本還元される収入の源泉は何であろうとかまわない。そこで,貸借取引に基づく確定利付債権(国債や社債等)や,資本取引に基づく配当請求権としての株式,そして地代を生む土地所有など,互いに異質なものが含まれる。
執筆者:小池田 冨男
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