推定(読み)スイテイ

デジタル大辞泉 「推定」の意味・読み・例文・類語

すい‐てい【推定】

[名](スル)
ある事実を手がかりにして、おしはかって決めること。「出火の原因を推定する」「推定人口」
法律で、ある事実または法律関係が明瞭でない場合に、一応一定の状態にあるものとして判断を下すこと。
統計調査で、ある集団の性質を調べる場合に、その集団から抽出した標本を分析することによって集団全体の性質を判断すること。
[類語]推察推量推測察し斟酌推断推認了察明察賢察高察拝察忖度憫察びんさつ推考端倪たんげい邪推類推酌量憶測配慮揣摩しま揣摩憶測しまおくそく心配り気配り心遣い気遣い推し量る酌む酌み取る思い思い勘繰る思いやるおもんぱかる推し当てる心当て気を回す見越す察する感じ取る

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精選版 日本国語大辞典 「推定」の意味・読み・例文・類語

すい‐てい【推定】

  1. 〘 名詞 〙
  2. あることをもとにしてこうだろうと判断すること。推測して決定すること。
    1. [初出の実例]「之を以て、ドネランは正しく其兇手なりと推定するを得るものとなす可きや」(出典:情供証拠誤判録(1881)〈高橋健三訳〉叙言)
  3. 法律で、はっきりしない事実を、その反対の証拠があがるまでは、真実のものと認めておくこと。
    1. [初出の実例]「平穏且公然に占有を為すものと推定す」(出典:民法(明治二九年)(1896)一八六条)
  4. 数学で、未知の集団(母集団)から取り出した見本(標本)をもとに、母集団の平均や分散をおしはかること。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「推定」の意味・わかりやすい解説

推定(数学用語)
すいてい

数学用語。母集団の確率分布について、その型(たとえば二項分布とかポアソン分布とか正規分布などのように)はわかっているが、それに含まれる母数θ(たとえば、B(n, p)の場合のpP(λ)の場合のλ、N(m2)の場合のm、σ2など)が未知であるとき、この母集団から取り出された大きさnの標本の値x1x2、……、xnからθの値をどのように推定するかという問題をいう。

 この場合、二つの方法がある。一つは点推定といって、未知母数を一つの値で推定する方法であり、もう一つは区間推定といって、1に近いある確率で未知母数の値がある区間に含まれることを主張する方法である。

(1)点推定 たとえば母集団分布の平均値が未知の場合にそれを標本の値x1x2、……、xn算術平均(x1x2+……+xn)/nによって推定するのは常識的な方法である。一般に母集団分布の未知の値θは標本の値x1x2……、xnの適当な関数f0(x1, x2,……, xn)によって推定される。θは未知であるが定数である。一方、標本の値x1x2、……、xnは標本のとり方によって変わるものであるから、標本の値はそれぞれ確率変数X1X2、……、Xnの実現値と考えられる。ただしX1X2、……、Xn独立で各Xiの確率分布は母集団分布である。一般にこれらの確率変数X1X2、……、Xnの関数として表される確率変数は統計量とよばれる。このように考えると、母数θの値をf0(x1, x2,……, xn)によって推定することは、θの値を統計量f0(X1, X2,……, Xn)の実現値として推定することである。この場合の統計量f0(X1, X2,……, Xn)を母数θの推定量という。θの推定量Xに対して、Xの平均値がθに等しいとき、すなわちE(X)=θが成り立つとき、Xをθの不偏推定量という。

例1 母集団の平均値をmとする。この場合=(X1+……+Xn)/nmの不偏推定量である。

例2 母集団の分散をσ2とする。このとき

と置けばE(S2)=((n-1)/n2となって、S2はσ2の不偏推定量ではない。U2=(n/(n-1))S2はσ2の不定推定量である。

(2)有効推定量・最尤(さいゆう)推定量 母数θの推定量はいくつもあるが、推定量としてはその分散が小さいものが望ましい。θの不偏推定量のうちで分散が最小であるものを有効推定量という。有効推定量がある場合にはそれを次の最尤法で求めることができる。すなわち、母集団分布の確率密度をf(x ;θ)とするとき、標本値{x1, x2,……, xn}に対して次の関数
  L(x1, x2,……, xn ;θ)
  =f(x1 ;θ)f(x2 ;θ)……f(xn ;θ)
を考え、x1、……、xnを与えたとき、θ=で関数Lが最大値をとるとするとx1、……、xnの関数である。この関数を(x1,……, xn)と書く。この場合、確率変数(X1,……, Xn)をθの最尤推定量という。有効推定量が存在すればそれは最尤推定量である。

(3)区間推定 実際に推定を行う立場としては、点推定よりも区間による推定のほうが実践上の意味をもつ。ここでは比率の推定を例にとって説明する。ある都市の市長選挙で、A候補の支持率をみるため、有権者100人を無作為に選んで調べたところ、40人がA候補の支持者であった。A候補の支持率はどのくらいか? この問題で有権者の総数N、A氏の支持者の数をN1とすると、支持率はpN1/Nであるが、N1が未知であるからpも未知である。有権者全体からn人(ここではn=100)を無作為に選んでそのうちA氏の支持者がX人であるとする。このXn人の選び方によって変動するから確率変数である。ここでは確率変数Xの値が40であったということである。Xの確率分布は二項分布B(n, p)であるから、nが大きいとき

となる。この関係式からX/nとして、pが区間

に含まれる確率がほぼ0.95であることが導かれる。この区間を信頼係数0.95に応ずるp信頼区間といい、信頼区間の端点を信頼限界という。ここで注意すべきは、pは未知ではあるが定数であり、が確率変数であって、信頼区間は標本ごとに変動することである。初めの例ではn=100, =0.4であり、信頼係数0.95に応ずる信頼区間は(0.30, 0.50)となる。またこの例で100人中40人のかわりに1000人中400人であったとすると同じ信頼係数に応ずる信頼区間は(0.37, 0.43)となる。

[古屋 茂]


推定(法律用語)
すいてい

はっきりしない事実について、いちおうの仮説をたてること。法律用語において、「Aを証明すればBと推定する」という場合には、Bであることの反証をあげない限りは、Bとして扱われることを意味する。たとえば、「前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。」(民法186条2項)という規定により、あるものを去年の元旦(がんたん)と今年の元旦に占有していたことを立証すれば、その間に占有していない時期があったことを相手方が証明しない限り、占有が継続していたものとして扱われる。この場合、相手方は挙証責任を負うという。また、養子を実子と推定するのであれば、実子でないことを証明すれば実子として扱われないが、実子とみなされているのだから単に実子でないことを主張しても、実子として扱われる。反証を許さない擬制と対照される。

長尾龍一

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改訂新版 世界大百科事典 「推定」の意味・わかりやすい解説

推定 (すいてい)

ある事実(前提事実)から他の事実(推定事実)を推測(推認)することをいう。法律用語としての推定には2種類ある。一つは〈事実上の推定〉といって,裁判官が自由な心証により経験則を用いて,ある前提事実から他の推定事実を推認する場合である。たとえば認知請求訴訟で,原告の母であるA女が懐胎可能期間中にB男と関係したことが証明された場合に,それによって妊娠したであろうと推認する場合である。さらにその子とB男との血液型の背馳がなく,A女が日ごろから素行がよかったという事実が加わると,B男との関係による懐胎の蓋然(がいぜん)性が高くなる。このように高度の蓋然性がある場合に,〈一応の推定〉という言葉が使用されることもある。公害訴訟で,病気の原因物質が分かり,その経路が企業の門前まで到達したことが証明されて,その企業が汚染源であると推定されたが,これなども一応の推定の例である。しかし一応の推定は他の事実を証明することによってくずれる場合がある。たとえば,先の例で,A女がB男のほかにC男とも関係していたことが証明され,A女の子とC男との血液型の背馳がなかったとすれば,子の父がB男であるかどうか疑わしくなってくる。このように,前提事実と両立する他の事実の証明によって,推定事実を動揺させることを間接反証という。

 これに対し〈法律上の推定〉は,法律が公益上または立証軽減の必要から,前提事実が証明された場合に法規の要件を認定するよう義務づけている場合である。たとえば,A女がB男と婚姻中に懐胎した場合には,その子が当然B男の子であると推定される(民法772条1項)。その結果,B男が自分の子でないとして嫡出否認の訴えを起こした場合,B男は,単にC男とも関係があったと証明しただけでは足りず,B男の子でないことを完全に証明(本証)しなければならないので,証明責任が転換されたことになる。法律上の推定にはそのほか,占有の始めと終りを証明することによって,その間占有が継続したものと推定する規定(186条2項)があるが,間断なく占有を継続してきたという立証はきわめて困難なので,これを軽減するためにある。このように占有継続という事実を推定する場合を事実推定といい,不動産を占有している者が所有者のごとくふるまっても適法と推定される規定(188条)のような権利推定もある。

 推定と似ているが異なるものに擬制がある。たとえば民法31条は失踪宣告を受けた者を死亡したものとみなすと規定しているが,生きていることを証明しただけでは失踪宣告の効果は消えず,宣告自体を取り消さなければならない。

 刑事訴訟に〈疑わしきは罰せず〉という法諺があるが,これは〈疑わしい場合は無罪と推定する〉と同義であり,無罪の推定ともいわれている。刑事訴訟法336条が〈被告事件について犯罪の証明がないときは,判決で無罪の言渡をしなければならない〉と規定している点,憲法31条が〈何人も,法律の手続によらなければ……刑罰を科せられない〉と定めている点などは,この考えのあらわれであるといわれている。
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推定 (すいてい)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「推定」の意味・わかりやすい解説

推定
すいてい
presumption

あることから他のことを推測,認定すること。事実上の推定と法律上の推定に分けられる。前者は,すでに証明された事実を基礎として,経験則を用いて行う推定である。衣服に被害者の血痕が付着していたという事実から,殺人の事実を推定するといった場合がこれにあたる。後者はさらに,法律上の事実推定と法律上の権利推定に分けられる。法律上の事実推定とは,一定の法律効果の構成要件事実としての甲事実を,別の乙事実によって推論することを法が定めている場合である (民法 186条2項など) 。法律上の権利推定とは,甲事実の存在から直接乙権利の存在を推論するものである (民法 188条など) 。推定は反対の事実があることの証明があればその効果を生じないことになり,その点で擬制とは異なる。

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普及版 字通 「推定」の読み・字形・画数・意味

【推定】すいてい

推考し論定する。

字通「推」の項目を見る

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