権現(読み)ごんげん

精選版 日本国語大辞典 「権現」の意味・読み・例文・類語

ごん‐げん【権現】

〘名〙 (「権」は仮の意) 仏語。
仏菩薩衆生を救うために仮の姿をとって現われること。また、その現われたもの。権化。〔随筆・貞丈雑記(1784頃)〕〔最勝王経‐一〕
② 仏菩薩が衆生を救うために、日本の神に姿をかえて、この世に現われること。また、その現われた神。本地垂迹(すいじゃく)の説から出たもので、熊野三所権現、山王権現春日権現などの類。
※本朝文粋(1060頃)一三・於尾張国熱田社供養大般若経願文〈大江匡衡〉「割薄俸而餝神威。只恃熱田権現之垂迹
③ 仏菩薩にならって用いた神の尊号。東照権現の類。
[語誌](1)北伝(大乗仏教では法身(真理)が仏菩薩その他の形で現われるとも、応身の働きであるともする。権現は、この応身に相当し、衆生の救済に応じて現われる仏身で、観音菩薩の三十三身はその例。
(2)日本では仏教信仰の輸入から、土着の神信仰を基底神仏同体をはかりながらも結局は②のような仏菩薩が優位となる神仏習合、本地垂迹となってゆく。
(3)「承平七年(九三七)十月四日筥崎八幡宮宛太宰府牒」に、筥崎八幡は宇佐八幡と「権現菩薩垂迹猶同」とあり、八幡神を「権現菩薩」と固有名詞で呼ぶ古い例で、権現は以後一般化する。そこから近世に入って③のように神格化した人の神号としての用例が生じる。

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デジタル大辞泉 「権現」の意味・読み・例文・類語

ごん‐げん【権現】

仏・菩薩ぼさつが人々を救うため、仮の姿をとって現れること。
仏・菩薩の垂迹すいじゃくとして化身して現れた日本の神。本地垂迹説による。熊野権現・金毘羅こんぴら権現などの類。
仏・菩薩にならって称した神号。東照大権現(徳川家康)の類。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「権現」の意味・わかりやすい解説

権現
ごんげん

仏・菩薩(ぼさつ)が衆生(しゅじょう)を救うために仮(かり)(権)の姿をとって現れること。また、その現れた姿をいう。権化(ごんげ)、応現(おうげん)、示現(じげん)、化現(けげん)などともいう。本来、仏教で用いられたことばであるが、平安時代になると、権現は、わが国の諸神と結び付き、日本の神々を仏・菩薩が衆生を済度(さいど)するために仮に現れた姿であると考えるようになり、諸神を権現号でよぶようになった。春日(かすが)権現、山王(さんのう)権現、三島(みしま)権現、熊野(くまの)権現などの類であるが、このような権現号も1868年(慶応4)3月の神仏分離によって廃止された。

[三橋 健]

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世界大百科事典 第2版 「権現」の意味・わかりやすい解説

ごんげん【権現】

仏菩薩が権(かり)に神祇となって現れること。本来は永遠にして理想的な仏陀がかりに歴史的現実的釈迦に化身して現れたと説く仏教用語に発し,これを仏尊と神祇の関係に転用し,日本の本地垂迹(ほんじすいじやく)説を成立せしめる根本理念となった。937年(承平7)九州の筥崎八幡宮に法華経安置の多宝塔を建てる際に大宰府から出された文書中,八幡神を権現と称する文句があり,ついで1004年(寛弘1)大江匡衡が尾張の熱田神宮に捧げた願文に熱田権現の垂迹という言葉を用い,そのころ藤原道長も吉野の金峰山(きんぷせん)に奉納した経筒に蔵王(ざおう)権現の銘をつけた。

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百科事典マイペディア 「権現」の意味・わかりやすい解説

権現【ごんげん】

日本の神号の一つ。もと仏教で権(かり)の姿をいったもの。神仏習合が進み,本地垂迹(ほんじすいじゃく)思想が起こると,神々は仏・菩薩の権化(ごんげ)であるとされ,11世紀初頭から神号となった。春日(かすが)権現,熊野大権現,伊豆山権現,箱根権現,東照大権現などはその例。明治維新のさい廃止されたが,現在では復活。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「権現」の解説

権現
ごんげん

神の尊号で,仏菩薩(ぶつぼさつ)が衆生(しゅじょう)を救うために人や神の姿に変えて世に現れることを意味し,応現(おうげん)・示現(じげん)・化現(けげん)・権化(ごんげ)ともいう。仏教伝来以降,仏菩薩がかりに日本の神になって現れるとする本地垂迹(ほんじすいじゃく)説が広まり,多くの神々にこの尊号が与えられた。熊野権現・白山権現・蔵王権現など修験者によって開かれた山に祭られる神々には,この尊号がつけられた。人につけられた例として徳川家康の東照大権現がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「権現」の意味・わかりやすい解説

権現
ごんげん

日本における神仏の称号の一つ。仏や菩薩が衆生を救い導くために地上に姿を現すというヒンドゥー教の権化の信仰が,日本の本地垂迹説に合体し,日本固有の神々を権現と呼んで仏の性格をもたせることになったもの。「権」は「かりに」という意。

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旺文社日本史事典 三訂版 「権現」の解説

権現
ごんげん

仏が衆生救済のために権 (かり) に神として姿を現すこと
11世紀本地垂迹説の普及に伴い日本の神に権現の号をつけた。神号の一種で,白山権現・箱根権現は特に有名。

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普及版 字通 「権現」の読み・字形・画数・意味

【権現】ごんげん

化身。

字通「権」の項目を見る

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世界大百科事典内の権現の言及

【権化】より

…またチベットのラマ教では,ダライ・ラマは観音の,パンチェン・ラマは阿弥陀仏の転身とされる。日本では権化,権現,権者(ごんざ),応現,化現,示現はほぼ同じ意味で用いられる。民族信仰の諸神格と仏教の信仰対象とを結びつけ調和させようとする本地垂迹(ほんじすいじやく)説でしばしば用いられ,たとえば天照大神はその本地とされる大日如来の垂迹した権化とされているのである。…

【獅子頭】より

…近世以後では,地方の町村や社寺に伝わる各種の獅子舞に用いられる獅子頭がたくさん見られ,それらは多様に変化していることが知られる。東北地方に伝わるいわゆる〈権現さま〉もその一つで,岩手県黒森神社には鎌倉から明治時代にいたる十数頭の遺品が一括してのこっており,その間の変貌を知ることができる。【田辺 三郎助】。…

【獅子舞】より

…また数人から十数人という大獅子もある(静岡県掛川市)。東北の早池峰(はやちね)神楽などの山伏系神楽では独特の形の獅子頭を権現と崇(あが)め,祈年(としごい)や火伏せの祈禱として舞わせる。しかし尻尾役は胴幌の外に出て幌の端を持つにすぎず,時に太神楽の獅子舞に見られるような動物擬態的演技はない。…

【影向】より

…神または仏が現れること,また神仏が一時応現すること。この場合,神仏が仮の姿となって,この世に現れることを権現という。また姿を見せずに現れることもいう。…

※「権現」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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