機密保護法(読み)きみつほごほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「機密保護法」の意味・わかりやすい解説

機密保護法
きみつほごほう

広く国家秘密・軍事機密刑事罰の強制で保護する法制をいう。第二次世界大戦前の日本では機密保護法制として、陸軍刑法海軍刑法、軍機保護法、出版法、新聞紙法、刑法(外患罪など)、軍用資源秘密保護法、国防保安法などがあった。敗戦後、民主化・非軍事化に伴う諸改革や日本国憲法制定は、刑法の間諜罪(かんちょうざい)(スパイ罪)の削除も含め機密保護法制をすべて廃止するとともに、憲法第9条および憲法における軍事条項の欠如は軍事機密保護法制を原理的に除去した。

 しかし、日本の再軍備過程は新たな機密保護法制を形成した。まず日米安全保障条約の実施に伴う「刑事特別法」(1952)第6条は「合衆国軍隊の機密」を米軍の安全を害する目的をもって、または不当な方法で、探知・収集した者を10年以下の懲役に処すると定めた。また「防衛秘密保護法」(1954)は「わが国の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、又は不当な方法」による「防衛秘密」(2001年改正で「特別防衛秘密」に改められた)の収集・探知などに対して10年以下の懲役を科すと定めた。その後自由民主党による法案として、国家秘密法案(スパイ防止法案)が国会に上程されたが、構成要件のあいまいさの問題や表現・報道の自由を侵す疑いなどがあり、言論・出版界や法曹界学界、市民団体の批判を受けて1985年(昭和60)に廃案となった。

 国家秘密法案は廃案となったが、2000年に入り機密保護の法制化は進んだ。2000年10月にアメリカの対日政策に通じたアーミテージRichard Lee Armitage(1945― )らが発表したいわゆる「アーミテージ報告」は、防衛公約の確認や危機管理立法の制定などを求め、日本の秘密保護法制定のために市民の政治的支持を獲得するよう要請した。それに対応したのが2001年(平成13)改正の防衛秘密保護法の「特別防衛秘密」と、それに伴い自衛隊法に新たに設けられた「防衛秘密」である。2001年に発生したアメリカ同時多発テロは日本が米軍の対テロ軍事行動を支援する「テロ対策特別措置法」(2001)と「武力攻撃事態法」(2003)の制定をもたらし、さらに2003年の米軍主導で開始された対イラク戦争は同年「イラク特措法」を成立させるに至った。このように日米間の軍事同盟関係が緊密化するなかで、日米間で相互に提供され保護する必要のある防衛関連情報を、国内法令の範囲内で保護するために、2007年に日米安保協議委員会の合意を踏まえて日米軍事情報包括保護協定が締結された。

古川 純]

『藤井治夫著『日本の国家機密』(1972・現代評論社)』

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