改訂新版 世界大百科事典 「防衛秘密保護法」の意味・わかりやすい解説
防衛秘密保護法 (ぼうえいひみつほごほう)
〈日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法〉(1954公布)の略称。単に秘密保護法ともいわれる。〈日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定〉〈日本国とアメリカ合衆国との間の船舶貸借協定〉〈日本国に対する合衆国艦艇の貸与に関する協定〉の調印・承認にともなって制定されたもので,これらの協定に基づいて合衆国から日本に供与された装備品・情報に関する〈防衛秘密〉を保護しようとするものである。
〈防衛秘密〉について詳細な定義規定(1条3項)を置くほか,行政機関の長に対して政令で定めるところにより防衛秘密であるとの標記を付して関係者に通知することを義務づけている(3条)。後者の手続によって〈形式秘〉性を取得したものでなければ防衛秘密とはならないが,さらに実質的にみて秘密として保護に値する内容を有するという〈実質秘〉性もなければならない。
防衛秘密を取り扱う特別業務者の漏泄は10年以下の懲役(3条1項3号),過失によるときも2年以下の禁錮または5万円以下の罰金に処せられる(4条1項)。通常業務者の故意漏泄は5年以下の懲役(3条2項),過失漏泄は1年以下の禁錮または3万円以下の罰金(4条2項)に処せられる。行為者の地位いかんをとわず,日本の安全を害する目的をもってなされた漏泄行為は特別業務者の漏泄行為と同じように処罰される(3条1項2号)。この目的をもってなされた防衛秘密の探知・収集も同じである(3条1項1号)。故意の漏泄,探知,収集の未遂は処罰される(3条3項)ほか,探知・収集の,または安全を害する目的によるもしくは特別業務者による漏泄の陰謀,教唆,せん動は5年以下の懲役に(5条1項,3項前段),それ以外の漏泄の陰謀,教唆,せん動は3年以下の懲役に(5条2項,3項後段),それぞれ処せられる。
刑法上の通謀利敵罪(83~86条)および各種の軍事秘密保護法は第2次大戦後廃止され,軍事,防衛,外交秘密を一般的に保護する法律は存在しない。わずかに国家公務員法が公務員による国家秘密の漏泄およびそのそそのかし,ほう助等を処罰し(109条12号,100条1項,2項,111条),自衛隊法が同様の罰則を置いている(118条1項1号,59条1項,2項,118条2項)だけであり,それ以外のこれらの秘密の探知・収集行為は処罰されていない。
〈日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法〉(1952公布。1960年の改題前は〈日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定に伴う刑事特別法〉。〈刑事特別法〉と略称される)は,合衆国軍隊の秘密を侵す罪を規定し(6~8条),防衛秘密保護法はその姉妹法として合衆国から供与を受けた防衛秘密に限って,これを保護するものである。より広く防衛・外交秘密の探知,収集というスパイ行為を処罰すべきであるとする立法論も一部には根強く存在し,1961年の改正刑法準備草案はこれを受け入れた提案を行った(136条)。しかしこれは,憲法9条の下での自衛隊,日米安全保障条約の地位,国民の知る権利の保障とも関係する問題であり,防衛秘密保護法の立法にあたっても批判があったところである。前述のように同法が防衛秘密の詳細な定義・規定を置くほか,〈この法律の適用にあたっては,これを拡張して解釈して,国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない〉という規定(7条)を置いたのもこのためである。1974年の改正刑法草案も,防衛・外交秘密の探知,収集を処罰する規定を置かないこととした。
→機密保護 →秘密漏示罪
執筆者:町野 朔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報