改訂新版 世界大百科事典 「毛公鼎」の意味・わかりやすい解説
毛公鼎 (もうこうてい)
Máo gōng dǐng
中国,清の道光年間(1821-50)の末に,陝西省岐山県で発見されたとされる鼎で,最も長文の銘文をもつものとして有名である。現在は台北の故宮博物院に蔵される。発見されてからしばしば見失われたこともあって,古くから偽作説がある。通耳高で53.8cm,口径が47.9cmある大型の鼎で,器腹は半球形をなし,文様は口縁近くに瓦文帯が一重めぐるだけの簡素なもので,足は獣足である。形は一代の金文を勒(ろく)するにふさわしい力感にあふれるものである。銘は32行,497字にわたり,全編が毛公(あん)に対する冊命(さくめい)の文で,《書経》文侯之命に匹敵する内容をもち,文辞上の共通点も多いが,文飾をきわめた表現のため難解である。銘文には造鼎の紀年,祖考にふれる部分がないため,器の年代には数説あり,器形,文様と銘文からみて,西周の宣王期(前827-前782)とする郭沫若の説がよくとられる。
執筆者:杉本 憲司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報