日本大百科全書(ニッポニカ) 「氷晶説」の意味・わかりやすい解説
氷晶説
ひょうしょうせつ
雲から雨が降る仕組みを説明するため、ベルシェロンT. H. P. BergeronとフィンダイゼンW. Findeisenが唱えた説。典型的な雨滴の直径を1ミリメートル、雲粒のそれを20マイクロメートルとすると、1個の雨滴の体積は約10万個の雲粒の体積に相当する。これだけ多数の雲粒が偶然の相互衝突で合体して雨滴になると考えることは無理である。氷晶説はこの雨滴生成の謎(なぞ)を解いたものである。
地上数千メートルの上空は夏でも気温が0℃以下であるので、その高度にある雲は過冷却の水滴よりなっている(大気中の雲粒はかなりの低温でも凍結しない)。したがって雲の中の水蒸気圧は水に対する飽和となっている。この状態で、この雲の中に少数の氷晶が共存したとする。氷に対する飽和水蒸気圧は水に対するそれより低いので、氷晶にとって周辺の水蒸気は過飽和である。そのため水蒸気は氷晶面に集まり昇華する。一方、雲粒は氷晶にとられた水蒸気を補給するため蒸発を続ける。結局、雲粒はやせ細り、少数の氷晶が急速に成長して雪片になり、あるいは落下中に溶けて雨滴となる。これを「冷たい雨」ともよぶ。
これに対して熱帯地方などでは、氷晶が共存しなくても雨が降る場合がある。雲の中に大きな海塩粒子が混入し、雲粒と合体して溶液滴となると、水蒸気を凝結させて急速に成長し、落下速度の差によりさらに多くの雲粒を捕捉(ほそく)して雨滴となる。氷晶説に従う「冷たい雨」と区別するため「暖かい雨」とよばれる。
[三崎方郎]