(読み)ユキ(英語表記)snow

翻訳|snow

デジタル大辞泉 「雪」の意味・読み・例文・類語

ゆき【雪】

の中で水蒸気昇華し、成長した氷の結晶となって降ってくる白いもの。また、それが降り積もったもの。結晶は六方対称形が多いが、気温や水蒸気の量により形はいろいろ変わる。 冬》「宿かさぬ灯影ほかげや―の家つづき/蕪村
白いものをたとえていう。→雪の肌
特に、白髪にたとえていう。「かしらいただく」
芝居などで、雪に見立てて降らせる白紙の小片。
紋所の名。1の結晶を図案化したもの。
《「たら」の字のつくりから》タラをいう女房詞
カブ、また、ダイコンをいう女房詞。
[類語]みぞれ氷雨あられひょう白雪はくせつ白雪しらゆきダイヤモンドダスト淡雪綿雪牡丹雪粉雪細雪締まり雪ざらめ雪小雪風花大雪豪雪どか雪吹雪吹雪く地吹雪雪嵐暴風雪ブリザード雪煙初雪新雪積雪根雪万年雪深雪しんせつ深雪みゆき残雪春雪

せつ【雪】[漢字項目]

[音]セツ(漢) [訓]ゆき すすぐ そそぐ
学習漢字]2年
〈セツ〉
ゆき。「雪渓雪洞せつどう雪月花蛍雪降雪豪雪残雪春雪除雪新雪積雪早雪霜雪氷雪風雪
雪のように白い。白いもの。「雪膚眉雪びせつ
洗い清める。すすぐ。「雪冤せつえん雪辱
〈ゆき〉「雪国雪空大雪粉雪根雪初雪
[名のり]きよ・きよむ
[難読]雪花菜おから・きらず細雪ささめゆき雪駄せった雪踏せった雪隠せっちん雪崩なだれ吹雪ふぶき雪洞ぼんぼり雪消ゆきげ

ゆき【雪】[曲名]

地歌・箏曲そうきょく流石庵羽積りゅうせきあんはずみ作詞、峰崎勾当みねざきこうとう作曲。天明・寛政(1781~1801)ごろ成立。曲中のあいの手は「雪の手」とよばれ、雪を象徴するものとして、後世の邦楽にも流用されている。地唄舞の代表曲。
謡曲。三番目物金剛流。旅僧が摂津の野田の里で雪の晴れるのを待っていると、雪の精が現れて僧に読経を頼み、舞をまう。

よき【雪】

「ゆき」の上代東国方言。
上野かみつけの伊香保のろに降ろ―の行き過ぎかてぬいもが家のあたり」〈・三四二三〉

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精選版 日本国語大辞典 「雪」の意味・読み・例文・類語

ゆき【雪】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 雲中の氷晶が併合成長して生じた、白色・不透明の結晶が降ってくるもの。結晶は六方晶系で、星状・角板状・角柱状・針状など種々な形のものがある。《 季語・冬 》
      1. [初出の実例]「我が園に梅の花散るひさかたの天より由吉(ユキ)の流れ来るかも」(出典:万葉集(8C後)五・八二二)
    2. に似た純白なものをたとえていう。→雪の肌
      1. [初出の実例]「恥しながら自らも御返事申さんとて、ゆきの薄様にかうろぎの墨磨り流し」(出典:仮名草子・恨の介(1609‐17頃)下)
    3. 特に、白髪にたとえていう。
      1. [初出の実例]「春の日の光にあたる我なれどかしらの雪となるぞわびしき〈文屋康秀〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春上・八)
    4. 氷を掻きおろして、白砂糖をかけたもの。かきごおり。
    5. ( 漢字の旁(つくり)から ) 鱈(たら)をいう、女房詞。雪のいお。雪の下。雪のとと。
      1. [初出の実例]「すゑよりかん二、かいあわ一折、ゆき五まいる」(出典:御湯殿上日記‐文明一四年(1482)一二月二八日)
    6. (かぶ)、また、大根(だいこん)をいう女房詞。
      1. [初出の実例]「御たいの御かたより、ゆき、しろ物のめつらしきおほくまいる」(出典:御湯殿上日記‐明応元年(1492)一二月一二日)
    7. 紋所の名。の結晶をかたどったもの。雪、雪輪(ゆきわ)など種々ある。
      1. 雪輪@雪
        雪輪@雪
    8. 芝居の舞台で雪に見たてて用いる白紙の小片。
      1. [初出の実例]「寛永に三角なゆきふりはじめ」(出典:雑俳・柳多留‐三二(1805))
    9. はっさく(八朔)の雪」の略。
      1. [初出の実例]「八月の二日質やへ雪がふり」(出典:雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一四)
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] 地歌。天明・寛政(一七八一‐一八〇一)頃大坂の峰崎勾当(みねざきこうとう)作曲。「歌系図」を著わした流石庵羽積(はずみ)作詞。男に捨てられた芸者が浮世を捨てて尼になった心境を歌ったもの。曲中にある三味線の合の手は「雪の手」と呼ばれ、雪を象徴するものとして後世の邦楽によく利用されている。地歌の歌物の代表曲で、地唄舞としても有名。
    2. [ 二 ] 謡曲。三番目物。金剛流。作者未詳。旅僧が天王寺参詣の途中、摂津国野田の里で雪に降られ、その晴れるのを待っていると、雪の精が現われて僧に読経を乞い回雪の舞を舞う。

よき【雪】

  1. 〘 名詞 〙 「ゆき(雪)」にあたる上代東国方言。
    1. [初出の実例]「上毛野(かみつけの)伊香保の嶺(ね)ろに降ろ与伎(ヨキ)の行き過ぎかてぬ妹が家のあたり」(出典:万葉集(8C後)一四・三四二三)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雪」の意味・わかりやすい解説

雪(snow)
ゆき
snow

雪の語義

雪ということばは次の三つの意味で使われている。第一は、水蒸気が雲のなかで昇華凝結してできた氷粒子をさし、雪結晶を意味する。第二は、雪が降る現象、すなわち降雪の意味である。第三は、降り積もった雪のことで、積雪を意味する。日本では、降る雪は古くから花にたとえられ、雪花、六花とよばれていた。日本文化の中心であった奈良や京都では、雪は、純白ではかない優雅なもので、月や花とともに風流の代表ととらえられていた。『万葉集(まんようしゅう)』『枕草子(まくらのそうし)』『源氏(げんじ)物語』その他の多くの文学作品にも、雪はこのような意味で頻繁に登場している。これに対して、数か月も深い雪に閉ざされる雪国の生活において、雪はそのような優雅なものではなく、生命や生活をおびやかす脅威でもあった。このような雪国の状況は、江戸後期の越後(えちご)の文人、鈴木牧之(ぼくし)の『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』(初編1837年刊)によって広く紹介された。

 日本の国土の約半分は最大積雪深が50センチメートルを超えるので、日本人にとって雪はそれほど珍しいものではない。しかし、世界の国々のなかで日本が多雪国といわれるのは、日本海側の多雪地域にも多くの人たちが住み、活発な社会生活、生産活動を行っているためである。今日それらの地域では、雪による悪影響や被害を防ぐだけでなく、雪のもっている特長を認識し、逆にそれを利用する試みが続けられている。

[前野紀一]

雪の科学

雪の研究

雪の科学研究として、本項では雪結晶の研究と積雪の研究に分けて述べる。第一の雪結晶の研究は、ドイツの天文学者J・ケプラーの『新年の贈物――六角の雪』(1611)以来、世界各国で進められ、数えきれない程多くのスケッチや顕微鏡観察が残っている。日本では、下総古河(しもうさこが)の城主土井利位(どいとしつら)がまとめた『雪華図説(せっかずせつ)』(1832年=天保3)とアメリカのW・A・ベントレーとハンフリーズW. J. Humphreysによる『Snow Crystals』(1931)がよく知られている。『雪華図説』は、顕微鏡観察の結果を筆でスケッチした木版刷りの小冊子であり、『Snow Crystals』は、雪結晶の本格的な顕微鏡写真集である。とくに後者は今日でも世界中のデザインに利用されている。

 雪結晶の科学的研究は、日本の中谷宇吉郎(なかやうきちろう)によって始められた。中谷は天然の雪結晶の顕微鏡観察を精力的に進め、雪結晶の分類を行った。そして、その結果を実験室のなかで再現するために対流型の人工雪実験を行い、雪結晶の外形と成長条件(温度と過飽和度)の間の関係を見出した。同様の人工雪実験は、イギリスのメーソンB. J. Masonと日本の小林禎作(ていさく)(1925―1987)らにより、中谷が使用した対流型装置だけでなく、より精度の高い拡散型人工雪装置を用いて進められ、雪結晶の形と温度、過飽和度の関係を示すダイヤグラムが完成した。この結果、温度と過飽和度を指定すると、その条件で成長する雪結晶の形がわかり、逆に雪結晶の形を見ると、その結晶が成長した場の温度と過飽和度が推定できるようになった。中谷はこのことを「雪は天から送られた手紙である」と表現した。このダイヤグラムは「中谷ダイヤグラム」とよばれることもあるが、正確には「中谷・メーソン・小林ダイヤグラム」とよばれるべきである。その理由は、中谷がいくつかの報告書に発表し、現在でもときどき引用されるダイヤグラムの過飽和度(縦軸)の値は、人工雪実験での水分測定法が適切でなかったため正しくなく、そのため雪結晶の形、温度、過飽和度の関係を正確に示してはいないからである。この点を修正し、かつメーソン、小林らの測定結果も加味した正しいダイヤグラムは小林によって作成され発表された。それが「中谷・メーソン・小林ダイヤグラム」である。しかし、ダイヤグラムの意味を示すために個人名は必要ない。「雪結晶の成長形ダイヤグラム」という呼び名が望ましい。

 もう一つの雪の研究は積雪の研究である。雪国で社会生活や生産活動が円滑に進むためには、美しい雪結晶の形やでき方の研究だけではなく、降り積もった雪の構造や性質の研究が重要となる。家屋や橋などの建造物に雪はどのような力を及ぼすのか、効率的な除雪や融雪はどうすればよいのか、雪崩(なだれ)や吹雪(ふぶき)を防ぐにはどのような対策をすればよいのか、などの多くの雪氷問題を解決するために、積もった雪そのものの実態と物性の研究が要求された。このような研究は、世界の多くの雪氷国で進められたが、そのなかで、20世紀初頭から行われた日本とスイスの研究が特筆される。日本では、山形、新潟、北海道などの積雪地域に設置された公的機関、大学、その他の雪氷研究者が、雪に関する実験、観測、理論研究を精力的に進め、多くの成果をあげた。なかでも北海道大学の吉田順五(1908―1992)らは、雪の微細構造、力学的性質、電気的性質、熱的性質、光・音響的性質、などの広い物性について詳細な研究を実施し、今日世界に認められている雪の科学的理解の体系化の基礎を築いた。

[前野紀一]

雪結晶の分類と成長形・晶癖変化

自然に降る雪結晶の形としては、六角板や6本の枝が中心から放射状に伸びた星状・樹枝状がよく知られているが、そのほか、降るときの気象条件に応じて、六角柱、針、あるいはそれらが立体的に組み合わさった多結晶構造のものなどがある。大きさは普通0.1~5ミリメートルで、おおよその形は肉眼でも識別できる。樹枝状などではまれに10ミリメートルを超すものもある。大きさ0.1ミリメートル以下の雪結晶は氷晶(ひょうしょう)とよばれ、形は単純な六角柱や六角板が多い。アラスカや極地などで気温が零下30℃近くに下がると、地表付近の霧が氷晶化して、氷霧(こおりぎり)あるいはダイヤモンド・ダストとよばれている。ダイヤモンド・ダストは、日本でも北海道の寒冷地でときどき観測される。

 雪結晶は、中谷宇吉郎の分類によれば、大分類で7種類(針状結晶、角柱状結晶、板状結晶、角柱・板状組み合わせ、交差角板、雲粒付結晶、無定形)、小分類では41種類に分けられる。さらに気象学的要素を考慮した孫野長治(まごのちょうじ)(1916―1985)らの分類によれば80種類に分類される。しかし、実際上は、国際雪氷委員会が1949年に制定した10分類(角板、樹枝、角柱、針、立体樹枝、つづみ、不規則、あられ、凍雨、雹(ひょう))が実用されている。は中谷宇吉郎による雪の結晶の一般分類であり、写真はそのうちの代表的なものの顕微鏡写真である。

 雪結晶は氷の結晶であるから、水分子は六方晶系の配列をしており、したがって、雪結晶の外形は、理想的な熱力学的平衡状態では六角柱と考えられている。われわれが目にする雪結晶の形は成長形であり、成長場の温度と過飽和度によってつくりあげられた形である。温度と過飽和度が違えば、水分子の氷結晶への取込まれ方が異なるため、雪結晶の形も違ったものになる。このような条件の違いによる成長形の変化は、晶癖(しょうへき)変化とよばれる。中谷宇吉郎、B・J・メーソン、小林禎作の人工雪実験は、雪結晶の晶癖変化を調べるための実験であった。彼らの実験結果によれば、雪結晶の晶癖は、平衡形である六角柱が長さ方向(すなわちc軸方向)に伸びるか、それに垂直な方向(すなわちa軸方向)に伸びるか、によって決まる。c軸方向に伸びれば針や角柱結晶となるし、a軸方向に伸びれば角板や樹枝状結晶となる。人工雪実験によれば、この晶癖変化は、零下4℃、零下10℃、零下22℃を境に起こる。このような境界温度は自然の雲のなかでしばしば現れるため、いろいろな形の雪結晶が生み出される。

[小林禎作・前野紀一]

雪の分類と構造変化

日本雪氷学会によれば、積雪は4種類に分類される。積もったばかりの「新雪」は、降ってきたときの結晶形をとどめているが、結晶どうしの結び付きは緩く、密度も50~150キログラム毎立方メートル(kg/m3)と小さい。時間の経過につれて雪は自らの重みで圧密し、構造が緻密化してゆく。このとき雪粒子表面の凹凸は減少して丸味を帯び、同時に粒子間の結合が成長する。この状態の雪は「しまり雪」とよばれる。日本では春になると雪は融けてしまうが、氷河や氷床が発達する寒冷地や多雪地では、この雪の変化過程がいつまでも続く。その結果、雪は最終的に氷に変化する。雪が氷に変わる境界は、雪氷学では密度820~840キログラム毎立方メートルと決められている。この密度は、雪に含まれる空隙間の連結がなくなる状態に対応している。すなわち、雪は氷と空気の混合物であるが、空気に注目したとき、通気性のあるものが雪、通気性を失ったものが氷である。なお、春先になって融解と再凍結を繰返した大粒の雪は「ざらめ雪」とよばれ、温度勾配のもとで雪質の変化した雪は「霜ざらめ雪」とよばれる。

[前野紀一]

雪の性質

雪の性質のほとんどは、雪が氷粒子と空気の混合物であることに深い関係がある。たとえば、雪が白く見えるのもこのためである。個々の氷粒子は透明であるが、それらが集まった雪は白い。これは、雪に入射した光は、氷粒子で反射や屈折をするが、結局は吸収されずに出てくるからである。これは、透明なガラスを粉々に砕くと白く見えるのと同じである。日射に対する雪の反射率(アルベド、反射能ともいう)は雪の種類によって違う。新雪で80~90%、古い雪で65~80%の程度である。汚れた雪では30~45%にまで下がる。

 氷と同じように、雪も粘弾性を示す。雪を急速に押すと壊れるが、ゆっくり押すと破壊せずに縮む。急速な力が加えられたとき、雪の内部では氷粒子や結合が破壊する。しかし、緩慢な力の場合、氷粒子と結合は破壊せず、伸びたり曲がったりして、全体が圧縮する。このような粘弾性は、氷そのものの性質に加えて、雪が氷粒子と空気の混合物であることに起因する。

 雪のいろいろな物性、たとえば破壊強度も、熱伝導度も、電気伝導度も、雪の密度が増すほど増える。雪が氷粒子と空気の単純な混合物であるならば、密度がわかると雪の物性は氷と空気の物性から簡単に計算できるはずである。しかし、実際上、雪は単純な混合物ではない。たとえば、密度250キログラム毎立方メートル(kg/m3)の同じ「しまり雪」の熱伝導度でも、報告されている値は0.1~0.3ワット毎メートル毎ケルビン(W/m.K)の幅がある。これは測定誤差によるのではなく、雪を構成する氷粒子の大きさ、形、配列、結合などが違うためである。なかでも、氷粒子間の結合の度合いが違うためである。同じ密度の雪でも、粒子間の結合が発達していれば熱を効率的に伝達する。この状況は、他のほとんどすべての雪の物性について同じである。

 雪が氷粒子と空気の混合物で、かつ粒子間には結合が発達していることに関連して、次の2点が重要である。

(1)雪の物性の多くは、おおよそ密度で決まるが、詳細は内部構造、とくに氷粒子間の結合の度合いによって決まる。

(2)雪の物性は時間とともに変化する。これは、雪の構造が降り積もった瞬間から変化しているためである。

雪の種類と物性を取扱うときは、以上の2点をつねに念頭に置かねばならない。

[前野紀一]

雪の分布

冬の最初に降る雪が初雪(はつゆき)で、山の頂上付近が初めて雪をかぶるのを初冠雪(はつかんせつ)という。これらはたいてい消えてしまうことが多いが、冬が進むにつれ、一度降った雪が消えないうちに次の雪が降るというように、地面を積雪が覆うようになる。気象台で使われる積雪の定義は、観測場所の周囲の地面が半分以上雪に覆われた状態をいう。積雪の深さを測るには、適当な場所にセンチメートル目盛りを刻んだ雪尺(ゆきしゃく)とよばれる棒を鉛直に立てて読み取る。ある場所の積雪を全部融かしたときの水の深さを積算相当水量といい、普通、雨量と同じミリメートル単位で表す。

 日本は世界的にみて多雪国といわれるが、北海道から本州中部にかけて日本海に面した地域はとくに雪が多い。東京・大阪などの太平洋側では、積雪日数が10日以下なのに対し、北海道の札幌や新潟県の高田などでは100日を超す。積雪が消えないで継続しているものを根雪(ねゆき)というが、札幌では、平均して根雪の始まりは11月30日ごろ、根雪の終わりは3月30日ごろである。寒さが厳しく根雪期間が長いと思われる北海道の積雪量は比較的少なく、もっとも雪の深いのは北陸地方の山間部および福島・新潟県境で、最深積雪は3メートルを超え、豪雪地帯といわれるゆえんである。

 冬の季節風による新潟県平野部、新潟・福島県境および北陸地方の降雪には、山間部に多い山雪(やまゆき)型と、平野部に多い里雪(さとゆき)型とがある。両者は気圧配置の相違によるもので、山雪型は、日本付近への大陸高気圧の張り出しが強く、等圧線が南北に走る場合である。これに対し里雪型は、気圧の傾きが緩み、日本海沿岸に小低気圧もしくは局地的前線が生じた場合で、等圧線はむしろ東西にゆがんでいることが多い。里雪型の豪雪は、鉄道・自動車交通に大きな災害を与え、また、農作物への影響も大きい。

[小林禎作・前野紀一]

あられ・雹

雪の結晶の落下速度は、大きさや形によって異なるが、静止空気中で毎秒0.3~1メートルである。雲粒の大きさは直径1~30マイクロメートルで、ほとんど空気と同じ動きをする。その結果、落下する雪の結晶は雲粒をとらえようとするが、小さい雲粒は流線に沿って逃げるか、あるいは衝突する前に蒸発してしまう。それに対して10マイクロメートル以上の大きな雲粒は、結晶に衝突して粒状のまま凍り付く。このような結晶を雲粒付きといい、本州の平地でみられる雪はほとんどこれである。零下20℃近くの低温で平板状結晶に凍着した雲粒は、二次的に伸びる立体状結晶の枝の芽となるものもある。立体あるいは放射樹枝の結晶に非常に多くの雲粒が凍着すると、もとの結晶の形はまったく隠されて、全体が白色不透明な玉状あるいは紡錘状の形をとる。これが「あられ」で、落下速度は毎秒2.5メートルからそれ以上に達する。

 夏でも巨大な積雲の上部は0℃以下であるが、内部の上昇気流が強大となり、雲粒も大きく濃密になると、次々とあられに衝突してくる雲粒の凍結による潜熱の放散がまにあわなくなり、あられは0℃の水で包まれる。これがスポンジ状の雹(ひょう)である。これらはときに毎秒10~30メートルに及ぶ強い上昇気流に支えられる間に、凍結と雲粒付着とを繰り返し、透明な氷の層と不透明なあられ層とが幾重にも同心球状に重なった構造の雹となる。アメリカ中西部の地域では、これら雹の大きさが10センチメートル以上にも達し、農作物などに甚大な被害を及ぼすことがある。

[小林禎作]

降雪の仕組みと条件

水蒸気を含んだ空気が上昇すると、空気は断熱的に冷却してやがて過飽和に達し、水蒸気の一部は微小な塵(ちり)などを核に凝結して雲を生ずる。これらの雲粒は0℃以下でも凍らずに水滴のままでいることが多い。これを過冷却の状態という。ときとして零下40℃くらいまで過冷却の雲あるいは霧として存在するが、これは氷晶を発生させる働きをもつ氷晶核が大気中に不足しているためと考えられている。氷晶核としてもっとも有効なものは氷の粒子それ自身であるが、氷とよく似た結晶構造をもつヨウ化銀なども顕著な氷晶化能力をもつ。大気中の自然氷晶核としては、地面から舞い上がった土壌粒子であることが多い。過冷却の雲の中に氷晶が現れると、過冷却水と平衡する水蒸気圧が氷のそれより高いために、雲粒は蒸発し、蒸発した水蒸気は氷晶の上に凝結してきて、氷晶は急速に成長する。氷晶は成長して雪となり地面に向かって落下する。落下途中で0℃以上の温度になると融(と)けて雨となり、あるいは雲底下で蒸発して消えたりもする。

 雪が継続して降るためには、氷晶核あるいは氷晶の存在と、水蒸気の補給源としての十分な雲の存在とが必要である。下層に濃密な雲があり、その上部に氷晶からなる巻雲がかかると、雪や雨が降りやすいとの観測はしばしばなされている。しかし、観測される氷晶核の数は1リットル中1個の程度であるのに対し、降ってくる雪の結晶の数は1リットル中10個から数十個もあり、量的にあわない。そのほか氷晶核の性質や降雪の仕組みについても、まだわかっていない点が多い。

 次に、冬の日本海沿岸地域で大雪が降る代表的な仕組みをみてみよう。地上の気圧配置は、シベリア地方に優勢な高気圧があり、オホーツク海やカムチャツカ方面には発達した低気圧があって、いわゆる西高東低の気圧配置となり、北西の季節風が強く吹く。この北西の季節風は、シベリアにあるときは冷たい乾いた空気であるが、暖かい日本海を渡ってくる間に、しだいに下層から暖められるとともに、海面からは活発な蒸発によって水分が補給される。このとき北極地方からの強い寒気が日本上空にまで張り出してくると、下層は暖かく上層は冷たいというきわめて不安定な、対流のおこりやすい状態になる。こうして海上を渡るうちに変質した季節風が、日本に上陸して脊梁(せきりょう)山脈に突き当たると、激しい上昇気流を生じ、海上で十分に吸収した水蒸気を凝結させて雪を降らせるのである。気象衛星からの観測写真によると、シベリアからの季節風の吹き出しに伴う雲は、日本海中部から日本の陸地に向かって筋(すじ)状に並んでいるのがよくみられる。北アメリカ大陸の五大湖は、冬の日本海と同様な役割をするので、その南東岸地域はしばしば大雪にみまわれることがある。これに対して日本の太平洋沿岸に雪が降るのは、南岸に沿って東進する低気圧によってもたらされることが多い。

[小林禎作]

雪の造形

雪が積もるときには、風や地物の影響でさまざまな外観や模様がつくられたりする。積雪が山の稜線などの風下側に庇(ひさし)のように張り出したものが雪庇(せっぴ)であり、高山や極地の固い雪面にみられる波形模様はサスツルギsastrugiとよばれ、風と雪粒の侵食によってつくられる。また、樹上から落ちた雪塊が傾斜地の雪面を転がり円筒形の塊となる「雪まくり」、棒杭(ぼうぐい)などの上に積もる「雪饅頭(ゆきまんじゅう)」、塀や枝に降り積った雪がずれて長く垂れ下がる「雪紐(ゆきひも)」、春先の雪面に点々と現れるくぼみ模様の「雪えくぼ」など、自然の造形が見られる。

[小林禎作]

融雪

春近くなると、積雪は日射や暖気のために表面から融ける。融け水は積雪内部に浸透し、積雪は全層0℃になる。風が吹けば表面からの蒸発も促進されて雪融けは進むが、気温が異常に上昇すると、ときに融雪洪水をおこすことがある。春になっても雪融けが遅れると、畑での耕作・播種(はしゅ)が遅れる。そこで積雪表面に土やカーボンブラックをまいて人工的に融雪を促す方法がとられる。雪の表面は日光を80%近くも反射してしまうが、土などをまくと日光をよく吸収して暖まり、1~3週間も早く雪を消すことができる。

[小林禎作]

雪の利用

雪の存在のために、雪国では円滑な交通が阻害されたり、豪雪や雪崩のために被害の起こることがある。しかし、雪が果たしている重要な役割も多数ある。春の融雪水は河川やダムに、また地下水として蓄えられ、発電、農業用水、工業用水、生活用水などに使われる。日本では、山地に降った雪は、台風や梅雨の雨とともに重要な水資源である。北海道では年間の水の必要量の約2分の1が、本州では約4分の1が雪融け水でまかなわれている。近年、雪の特長を生かして雪を積極的に利用する試みが活発に行われている。衛星画像データを利用した雪の水資源利用、冬季の雪を貯蔵保存して夏期に使用する雪冷房、食糧大量保存など、いろいろなアイデアが実行されている。

[前野紀一]

人間生活と雪

雪の文化を発達させたのは、まとまった雪が年に何回か降る温帯都市の余裕のある住民と、北極に近い地域の狩猟・遊牧民であった。高山に雪の降る熱帯・亜熱帯高地の住民も雪を知ることがあるが、すこし山を下れば暖かいので、できるだけ避けたい雪に関する文化を発達させた事例はまれである。東アフリカ赤道直下のケニア山やキリマンジャロなどにある万年雪を、雪をまったく知らない平地民が遠望すると、平地民に雪に相当する外来語があっても、遠望している雪と雪相当語をつなげられずに、塩などの白いものと混同することさえあった。

 温帯の暖かい地方では山地に短期間、少量の降雪があり、温帯の寒い地方では平地でも長期間相当量の雪が降る。山地に降雪をみる地中海東岸で成立した聖書では、雪を純潔と無垢(むく)の象徴としたので、ヨーロッパでも「ホワイト・クリスマス」に好ましい意味をもたせるが、北上するにつれて長い冬の雪の恐ろしさの意識が強くなるのは、グリムの『白雪姫』とアンデルセンの『雪の女王』の差にみるとおりである。アジア内陸の中緯度地域では、少量の降雪が長期間続く所があり、積雪の下から餌(えさ)をみつけられる馬、トナカイ以外の家畜が多ければ、初雪とともに暖かい冬期放牧地に移動した。多雪地域では雪質にあった移動具が発達した。古代インドでは雪の文化が貧弱で、『倶舎論(くしゃろん)』にヒマラヤ(「雪山」パミール高原ヒンドゥー・クシ山脈をさす)への言及があるだけである。「牛の目に届く」大雪の降ることのある中国北部の雪の文化はヨーロッパと同様に発達し、雪を高潔、無垢、さまざまの白く好ましいものの意味で用いたほか、雪景色を楽しみ、また晋(しん)の孫康の故事にちなんで「窓の雪」の光での読書を苦学の象徴とした。アジアの太陰暦、太陰太陽暦は自然現象とずれるので、雪ととくに関係のある年中行事はない。

 年間降雪量が多くなくても、積雪が長く残り、強風にあおられ、少量の降雪と混じって吹雪(ふぶき)となり、吹きだまりをつくる極北の住民は、雪の文化を発達させざるをえなかった。ヒマラヤ、チベット高地の住民の一部もこれに準ずる。雪穴の動物を襲う、吹きだまりに追い込むなどの狩猟技術が発達したが、雪の反射光で目を傷めるので、「雪眼鏡」が発達した文化もある。吹きだまりを選んでキャンプしてトナカイの逃亡を予防したトナカイ遊牧民もいた。北アメリカ北部では雪の文化がとくに発達した。相当量の降雪をみる太平洋岸では、主要な活動は積雪のない水面での漁労であり、雪の文化は目だたないが、アラスカからグリーンランドにかけての極北諸民族は生活のあらゆる分野で雪の文化を発達させた。家(イグルー)を冬期は雪(または氷)でつくることはとくに有名である。固い積雪をブロック状に積み上げ、柔らかい積雪を「めじ」にして家屋の概形をつくり、ベッド、調理台、棚などの内部構造も雪でつくった。光を通す雪の家は、寒い時期の乏しい日照を活用させ、保温性も優れているが、非常に寒い地域では雪の家の上に毛皮をかぶせる必要もあった。極北以外の南北アメリカ大陸諸地域では、寒冷地の先住民に雪に関する文化要素が多少みられたが、全体として雪の降る地域が少なく、南アメリカ南端のオナ人に乳児用「雪眼鏡」があった程度である。オーストラリアタスマニア島とニュージーランド南島の山地にはまとまった降雪があるが、南アメリカ南端のヤーガン人同様に、雪への適応は低いレベルに終始した。

[佐々木明]

雪の民俗

日本の民俗

雪の降る地域は広く分布し、わけても東北地方から山陰地方にかけての日本海側が多雪地である。千国(ちくに)街道筋に「一里一尺」という諺(ことわざ)が聞かれるように、海岸から平野部へ、さらに平野部から山間部へと積雪量が増すという地域も少なくない。丈余(じょうよ)の雪が降り積もる所を豪雪地といい、そこの雪は、住民の生活を強く制約し、他地域ではみられない、特色ある民俗を展開する。家屋の屋根雪を除くことはもちろん、板戸、障子(しょうじ)戸のすきまから吹き込む雪を防ぐため、杉板、茅束(かやたば)を組んだ雪囲いを巡らし雪に備えた。大根室(だいこんむろ)をしつらえて生鮮野菜を確保し、雪吊(つ)りを施して庭木などを保護したのも同じ趣旨の営みである。大戸口前や公道に降り積もった雪を除くのに使ったのが、古くはコスキ、バンバなどとよばれる木製除雪具で、それには一枚板のものと先端の篦台(へらだい)に柄(え)を取り付けたものの2種類があった。その形態差は、積雪量や、べた雪かさらっとした雪かの雪質に関係が深い。雪道を踏み固めるために用いた踏み俵、防寒を兼ねて歩行用に履いた藁(わら)で編んだ雪沓(ゆきぐつ)、滑りを防ぐために考案された雪下駄(げた)、山野に積もった雪上を沈まないで歩行するのに用いた輪かんじきなど、雪に対処してきた生活のくふうを語る用具が多い。

 春先の屋外作業では、積雪による反射光線によって雪目(雪面から反射された太陽の紫外線で目を痛めること)を患うことがあったので、庇(ひさし)のきわめて長いかぶり物を着装したり、目簾(めすだれ)、雪眼鏡をかけて予防しようとした。こうした対応の仕方はほかにもあり、その顕著な例が、小(こ)正月の鳥追い行事用などの雪室(ゆきむろ)をつくること、固雪を利用した橇(そり)による材木・春木などの搬出のことである。この雪室は、秋田県南部でカマクラとよばれており、全国的には50例余りの呼称がある。雪室をつくることは、雪国のみの風物詩である。橇には十指に数えられるほど種類があり、夏場では搬出困難な山野からでも、固雪を利用することで直線的に材木が搬出できて好都合だった。著名な越後縮(えちごちぢみ)は、積雪にさらすことにより名声を高めもした。

 多雪地に伝承されている、男児たちによる落とし穴遊び、越後十日町近在に分布する、春彼岸(ひがん)に雪墓(ゆきばか)をしつらえて参る習俗、新雪上に描かれた野兎(のうさぎ)の四肢跡に着目してなされてきた威嚇猟法などは雪国ならではのものである。初冬の雷鳴で雪降りを予知したり、モズの餌食(えじき)で冬季の積雪量を判断したり、春の残雪が描く雪形によって農作業時の目安を得たりしたことは、雪国の人々の知恵といえよう。

[天野 武]

外国の民俗

世界の諸民族の間では、雪がどのようにしてもたらされるかについて、さまざまな説明がなされている。ヨーロッパでは、魔女の着物や羽から雪ができるという伝承があり、ドイツでは、ホレばあさんが寝床を振るって羽を飛ばすと、それが雪になって人間界に落ちてくるという。雪をもたらす神は、同時に寒さや冬をつかさどっている。南サーミ人は、雪と氷の神を「霜男」とよぶ。アイヌ民族によれば、雪を降らせるのは冬をつかさどる女神である。古代中国でも、青女という女神が雪や霜をもたらすと考えられた。また、北東シベリアの民族集団チュクチの信じるところによると、冷たい風を吹かせるのは、大地のへりに住んでいる巨人たちであるが、この巨人たちは日がな一日、クジラの骨でできたシャベルで雪を掘り返しているという。

 また、モンゴルでは、風、雨、雪などをもたらすザダという石があると信じられている。この石は山の中や動物の体の中から発見され、これを水に浸すと、風や雨や雪をもたらすことができるという。

[清水 純]

雪と文学

『枕草子(まくらのそうし)』に、村上(むらかみ)天皇のときに、月夜に器に雪を盛り梅の花を挿したのを「歌に詠め」と兵衛(ひょうえ)の蔵人(くろうど)という女官に命じたところ、『白氏文集(はくしもんじゅう)』の一節の「雪月花の時」と答えてその機知を賞せられた、という挿話が記されているように、早くから、自然美を形成する典型的な景物の一つとして賞美されてきた。『万葉集』では「大雪」「白雪」「み雪」などとも詠まれ、とくに「沫(あわ)雪」は天平(てんぴょう)のころに流行した歌語らしく、巻8、巻10に集中してみられる。「降る雪の」は「白」「消(く)」「日(け)」「行き」などにかかる枕詞(まくらことば)となった。「梅の花」に見立てる歌も『万葉集』から数多く詠まれた。『古今集』では、吉野(よしの)山や白山(しらやま)などの歌枕と結び付き、月や花に見立てられ、荒涼とした冬の山里の景色を形成し、また、降るもの、積もるもの、消えやすいものとして、懸詞(かけことば)や縁語に用いられ、これらが類型として継承されていくことになる。「沫雪」は、平安時代になると「淡雪」と意識されるようになり、「雪消(ゆきげ)」「雪気(ゆきげ)」「雪間の草」などの歌語もある。雪で山をつくったり(雪山)、雪の玉を転がしたり(雪まろばし)などの「雪遊び」も、女房や女童(めのわらわ)にもてはやされたことは、『源氏物語』や『枕草子』などに描かれている。『新古今集』冬、藤原定家の「駒(こま)とめて袖(そで)うち払ふ蔭(かげ)もなし佐野のわたりの雪の夕暮」の名歌があり、謡曲の『鉢の木』、宴曲の『雪』など、雪をめぐる文学は数多い。季題は冬。雪催(ゆきもよい)、初雪、風花(かざはな)、吹雪(ふぶき)など多彩。

[小町谷照彦]

『小林禎作著『雪の結晶』(1970・講談社ブルーバックス)』『小林禎作著『雪に魅せられた人びと』(1975・築地書館)』『小林禎作著『雪』(1977・北海道新聞社)』『小林禎作著『六花の美――雪の結晶成長とその形』(1980・サイエンス社)』『小林禎作著『雪華図説新考』(1982・築地書館)』『小林禎作著『ちくま少年図書館 雪はなぜ六角か』(1984・筑摩書房)』『吉田順五著『雪の科学』(1971・日本放送出版協会)』『高橋喜平著・写真『日本の雪』(1974・読売新聞社)』『高橋喜平著『雪と人生』(1980・岳ヌプリ書房)』『高橋喜平著・写真『雪と氷の造形』(1980・朝日新聞社)』『高橋喜平著・写真『日本の雪と氷』(1992・岩手日報社)』『高橋喜平著・写真『あんな雪こんな氷』(1994・講談社)』『富山地学会編『豪雪』(1982・古今書院)』『日本雪氷学会編『雪氷辞典』(1990・古今書院)』『柏原辰吉著『雪を知る』(1993・北海道新聞社)』『前野紀一・黒田登志雄著『雪氷の構造と物性』(1994・古今書院)』『若浜五郎著『雪と氷の世界』(1995・東海大学出版会)』『木下誠一著『雪の話・氷の話』(1996・丸善)』『日本自然保護協会編・監修『雪と氷の自然観察』(2001・平凡社)』『鈴木牧之編『北越雪譜』(岩波文庫)』『中谷宇吉郎著『雪』(岩波文庫)』



雪(地歌、箏曲)
ゆき

地歌、箏曲(そうきょく)の曲名。端歌(はうた)物。流石庵羽積(りゅうせきあんうせき)作詞、峰崎勾当(こうとう)作曲。作詞者の羽積は1782年(天明2)刊の『歌系図(うたけいず)』の編者であるが、同書刊行後にできたものらしく、初出は1789年(寛政1)刊の『今古集成新歌袋』である。また地歌の稽古(けいこ)本『歌曲時習考(さらえこう)』には、「南妓ソセキ(一説にセキ)の事を作る」と添え書きがある。曲想から推して、大坂南地の芸妓(げいぎ)が男に捨てられて遁世(とんせい)したのではなく、自分に上り詰めて罪を犯した男を思って、女が罪滅ぼしに尼法師になったとみる解釈も成り立つ。「夜半(よわ)の鐘」のあとの雪の夜の鐘の音を表す合の手は、通常「雪の手」または「雪の合方(あいかた)」とよばれ、その旋律は他流の三味線音楽や歌舞伎(かぶき)の下座(げざ)音楽に凍夜または雪景の場面を連想させる手段として、数多く効果的に活用されている。

[林喜代弘]


雪(能)
ゆき

能の曲目。三番目、鬘物(かずらもの)。金剛流のみが伝える。作者不明。諸国一見の旅僧(ワキ)が摂津の野田までやってくると、にわかの雪となる。晴れ間を待つうちに、雪を頂いた作り物の中から「あら面白(おもしろ)の雪の中やな」と吟ずる声が聞こえ、美しい女性(シテ)が現れて迷いを晴らしてほしいと訴える。僧は雪の精に成仏を勧め、女は袖(そで)を翻して月の光に美しく舞い、明け方の光の中に消える。このシテは雪女ではなく、風に翻る雪そのものであるところに能の主張がある。小品だが特徴ある能。

[増田正造]

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改訂新版 世界大百科事典 「雪」の意味・わかりやすい解説

雪 (ゆき)
snow

雲の内部でつくられた氷の結晶が降るもの(降雪),またはそれが積もったもの(積雪)をいう。降る雪は古くから花にたとえられ,雪華,六華(花)ともいわれる。雪の語源にはユキヨシ(斎潔),ユキヨ(斎清。いみきよめるとの意味)などから,〈やすく消える〉との意味から,あるいは神の〈御幸(みゆき)〉(神の降臨の意味)からきたなどとする諸説がある。いずれにせよ,古来日本文化の中心であった大和地方や京都では,雪の舞い下りるさまや,純白で積もってもすぐはかなく消える雪を風雅なものととらえ,月や花とともに雪を風流の代表にあげていた。

 雪が六方対称の形をしていることは中国やヨーロッパで古くから記述があるが,日本では江戸末期,古河藩主土井利位(としつら)が顕微鏡で見た雪の結晶のスケッチをまとめて出版した《雪華図説》(1832)が名高い。またアメリカのW.A.ベントリーは雪の結晶の顕微鏡写真をとり,それをまとめて《雪の結晶》(1931)として刊行した。一方越後塩沢の住人鈴木牧之(ぼくし)は雪国の生活を《北越雪譜》(1835-42)にまとめた。これは雪を風流とする暖候地文化に対し,雪国の住民の苦しさを訴えたものである。事実,日本の日本海側一帯は世界有数の豪雪地である。平地で1~2m,山間部で2~3m,所により5mを超える雪が積もる(図1)。また雪に覆われている根雪の期間も2~4ヵ月,長い所では5ヵ月以上に達する(図2)。深い雪の中に約2000万の人が住んでいるが,このような地は世界でも例がない。

雪は雲の中でできた氷の結晶である。雲内部の温度が十分低く,上昇気流があると,雲内の水蒸気が結晶の核となる芯(昇華核)の上に昇華凝結して微小な氷の結晶(氷晶)ができる。氷晶はさらに水蒸気の補給をうけつつ成長して雪の結晶となり,ついには落下して地上に達する。地上の気温がプラスのときは,雪は上空の気温0℃の高度を通過するとともにとけ始め,みぞれとなる。地上気温が+4℃以上になると,多くの場合雪はすっかりとけて雨になる。日本など中緯度地方や高緯度地方に降る雨は,雪やあられがとけたものであることが多い。雪の結晶にはさまざまな形のものがあるが,その基本形は(六)角板,星状六花,(六)角柱,針状の4種である。さらに,これらの複合型,例えば樹枝状六花の枝から立体的に他の枝がのびた立体樹枝,角柱の両端に板状,星状六花などが成長した鼓(つづみ)形,砲弾形が集まった砲弾集合などがある。また,側面結晶,奇形結晶などの複雑な形をしたものや不規則な形もある。これら雪の結晶形の分類には専門的には詳しいものがあるが,実用的には国際分類がある(表1)。これは凍雨やひょうなどを含め,固体で降る粒子を10種に分類したものである。雪の結晶の大きさはさまざまであるが,代表的な大きさを質量,落下速度とともに表2に示した。雪は雲内部の乱流にもまれるうちに雲粒が衝突し付着することが多い。雲粒が多くついたものほど質量が増し落下速度も早くなる。雲粒が無数に付着して全体が丸くなったものがあられである。雪の結晶どうしが衝突してからみ合い,数十から数百の結晶がくっつき合って降ってくるものが雪片である。落下途中の気温が0℃に近いほど雪はくっつきやすい。東京などの暖候地では雪片として降ることが多く,ぼたん雪といわれる。落下速度は,直径1cmで0.8m/s,3~4cmで0.4m/s程度である。

1935年北海道大学の中谷宇吉郎は低温実験室内で雪の結晶を人工的に作ることに初めて成功し,つづいて,雪の結晶形はそれが成長するときの大気の温度と水蒸気が補給される度合(過飽和度)で決まることを見いだした(雪の結晶が成長する雲内部の湿度は100%(飽和状態)を超える。この状態を過飽和状態といい,その度合を過飽和度で表す。例えば湿度が120%のときの空気の過飽和度は1.2である。過飽和度が大きいほど,水蒸気の供給量が大きいので,雪の結晶の成長速度も早くなる)。その結果を図にまとめたのが世界に名高い中谷ダイヤグラムである(図3)。例えば樹枝状六花は-15℃前後,針状結晶は-7℃前後,角柱は-20℃以下でできる。また,過飽和度が大きいときは成長速度が大きいので樹枝状六花や針状のように先端のとがった形ができるが,それが低いときは厚角板のようにずんぐりした形となる。-20℃以下で角柱が生まれ,それが落下する途中で角板の成長領域を通ると角柱の上下の面に角板が成長して鼓形となる。したがって降ってきた雪の結晶をみて上空の気象状態を知ることができる。中谷の有名な言葉〈雪は天から送られた手紙である〉はこうして生まれた。中谷の人工雪の研究は第2次大戦後盛んになった雲物理学や人工降雨の研究の基礎となった。

樹枝状六花や角板結晶に代表されるように雪の結晶は基本的には六方対称の形をしている。これは雪(つまり氷)の結晶を構成する水分子が六方対称的に配列していることに由来する。過飽和度が大きく成長速度が早いときは,水分子が次々に集まって雪(氷)の結晶を作るときに発生する昇華・凝縮の潜熱を効率よく放熱するために比表面積が大きい樹枝状六花のように先のとがった形をとる。逆に過飽和度が小さく成長速度が遅いときには,厚角板ないしはごく短い角柱のような比表面積の小さいずんぐりした形をとる。しかし,なぜ雪の結晶形が温度によって角板になったり,針になったり,角柱になったりするのかの詳しいメカニズムはまだ不明である。

冬季シベリアから強い寒気団が南下して日本海の海上に出ると,雪の原料となる水蒸気を海面からたっぷり供給される。同時に大気は下層が暖められるので下が軽く上が重い不安定な状態となり,ついには激しい対流が起こって積乱雲の雪雲が発生する。雪雲は次々に日本海沿岸地方に上陸し,それが日本列島を南北に走る脊梁(せきりよう)山脈にぶつかると上昇気流によってさらに発達し,山間部に大雪をもたらす。これがいわゆる山雪型の雪で,気圧配置でいうと等圧線が南北に密に走り,風速が大きい場合である。北陸を中心に大雪が降るときは日本海の上空約5000mに気温が-40℃前後の強い寒気団がやってきたときである。これは雪雲がよく発達することと,気温と湿度が雪の成長にちょうど適した条件だからである。一方,西高東低の気圧傾度がやや緩み,等圧線が日本海近辺で西にくぼむようなときは弱い西風が吹く。日本海南部の暖かい海上を吹走し,十分な水蒸気の供給を受けて発生した雪雲が次々に上陸して平野部に多量の雪を降らす。これが里雪である。ときには数日のうちに2mを超す大雪が集中的に降る。記録的な大雪は豪雪といわれる。北海道の石狩湾に小低気圧が発生すると,そこで発生した雪雲が石狩平野に上陸し,いわゆるドカ雪をもたらす。

 日本海側が大雪のとき太平洋側は乾燥した晴天が続く。しかし春先など低気圧が本土南岸沿いに東進すると太平洋岸一帯にも雪が降り,ときには大雪となる。1883年2月8日,東京には46cmの雪が積もった。また1984年冬季は東京で延べ29日の降雪日数を数えた。ふだん雪の少ない暖候地の積雪は交通その他に大きな混乱を引き起こす。低気圧が日本海を東進して東北地方や北海道一帯に猛吹雪を起こすことも多い。

 冬から春にかけて中国大陸の黄土地帯で強風のため空中高く舞い上げられた微細な粘土粒子が偏西風に乗って海を越え,日本上空に飛来することがある(黄砂)。ちょうどそのとき降雪があると,雪は黄砂の粒子を捕捉して降ってくるので積雪表面が黄ないし赤に色づく。ひと冬に数回観測されることもある。このように雪は空気中の微細粒子,エーロゾルを捕らえ,空気を浄化する作用がある。

積雪に穴を掘ってその断面をみると,積雪は多数の層が重なってできているのがわかる。これを積雪の層構造という。一つの層がひと降りの雪の層で,地層と同様,深い所の層ほど古い雪である。層ごとに雪の密度,硬さ,雪粒の大きさなど雪質が違う。雪質の違いによって積雪は基本的には,新雪,しまり雪,ざらめ雪,霜ざらめ雪の4種に分類される(表3)。表面近くの新雪は雪の結晶がただ積み重なっただけのものであるが(図5-a),その結晶形は昇華によって失われ,また,その上に次々に積もる雪の重みで全体が締まりつつ,〈しまり雪〉(図5-b)になる。小さな氷の粒が互いに連結し合った緻密な組織の雪である。このように雪の組成(粒の大きさやそのつながり方など)が時間とともに変わることを雪の変態という。しまり雪の粒どうしがこのように連結し合うのは氷の〈焼結〉によって起こる。焼結は焼きものを窯の中に入れて焼くとき,粘土粒子どうしが互いに連結し合う現象で,セラミックス(窯業)の基本過程である。その焼結が雪の中で起こるのは自然界の雪が自己の融点0℃(273K)直下の-5℃(268K),-10℃(263K)といったとける寸前の,〈雪や氷にとっての高温状態〉にあるからである。

 雪が比較的少なく,寒気が厳しい地方では,積雪表面と底面(地熱のためほぼ0℃に保たれる)との間に大きな温度の差ができ,積雪内部には強い温度勾配ができる。すると比較的温度の高い積雪内部では昇華・蒸発・凝結がとくに盛んに起こり,水蒸気が下から上に向かって一方的に流れるため,蜂の巣のような形をした大きさが数mmもある霜の結晶が無数にできる。こうしてできた雪を〈霜ざらめ雪〉という(図5-d)。非常にもろい雪で,わずかの衝撃で砂のように崩れる。北海道などの寒冷地では積雪下層部に霜ざらめ雪が発達しやすく,これがなだれの原因となることが多い。

 春になると雪は表面からとけ始める。雪が日中とけて水を含み,夜間の寒気で水分が再凍結すると,大粒の〈ざらめ雪〉になる(図5-c)。融雪が盛んになって雪が大量の水を含み,雪が水に浸った状態になると雪粒は直径数mmの球形のざらめ雪となる(図5-e)。このように積雪内では常に雪の変態が進みその物理的性質が変化する。とくに乾いた雪(零下の温度にある水分のない雪)が水を含んで〈ぬれ雪〉になるとその性質が急激に変わる。そのため雪の分類では乾湿を区別して〈かわき〉〈ぬれ〉を付記する(表3)。

 積雪の表面は大気と接しているので常に大気と熱のやりとりをしている。積雪に入る熱には日射,空気からの伝導熱,雪面に水蒸気が凝結したり霜ができたりするときの潜熱,雨からの伝導熱などがあり,逆に雪面から出る熱には雪面から大気に放射される長波(赤外)放射の熱,大気への伝導熱,蒸発の潜熱などがある。これらの熱の出入りで積雪に入る熱が多ければ,その差引き分の熱が雪をとかす。また,積雪の底は地熱によって雪がとけるが,表面での融解量に比べればごく少なく,融雪の大部分は表面で起こる。

雪が白いのは雪が太陽光に含まれる各波長の光をすべてまんべんなく反射・散乱するからである。日射の反射率をアルベドという。アルベドは雪質によって違い,新雪で80~90%,古い雪で65~80%,ぬれたざらめ雪で55~65%の程度であるが,よごれた雪では30~45%にまで下がる。雪はこのように日射をよく反射するが,それでも日射は融雪を起こす主要因子の一つである。

雪に数ヵ月も埋もれて生活する雪国では,雪による災害や不便さが多く,その対策を立てなければならない。雪で道幅が狭くなって交通の渋滞が慢性化し,路面はスリップしやすくなるため,とくに都市や都市間を結ぶ交通路の除雪,排雪が欠かせないが,これには毎年巨額の経費と作業を要する。新潟や山形などの多雪都市では道路に消雪パイプを埋設し,大雪時に散水して雪をとかす消雪や,雪を流雪溝に投入して流す方法などが行われている。ぬれ雪が大量に降ると電線着雪(着雪)による被害が起こる。地吹雪の問題も大きい。地吹雪というのは雪面から雪が強風で空中に舞い上げられる現象で,視程が低下し,また吹きだまりができて交通を阻害する。

 屋根の雪下しや屋根雪の落雪事故も雪国の大きな問題で,これらによる死傷事故が多い。このため最近では屋根雪を処理するためさまざまな対策がとられている。例えば屋根の中央部をへこませて,そこにたまる雪どけ水を,管を通し屋外へ排出する無落雪屋根の開発が進んでいる。

 山ではなだれが起こる。雪が一時に大量に降ると新雪表層なだれが起こりやすく,春になって積雪全層がとけ水でぬれると全層なだれ(底なだれ)がよく起こる。なだれは固体(雪),液体(水)および気体(空気)の混合物が流動化した一種の混相流で,土石流や火砕流と類似の現象である。なだれが起こらなくても山の雪は屋根雪のように斜面をゆっくりと流れ下る。このとき全体が斜面上を単に移動するのではなく,雪内部が変形しながら流れ下る。これを雪のクリープという。このため斜面の木が倒されたり,雪の圧力で根元が曲げられたりする(根曲り)。

雪に埋もれた校庭の鉄棒は春になって雪が消えると〈逆への字〉形に曲がってしまっていることがある。これは冬の間,雪が締まるとき鉄棒に大きな力(雪の沈降力)を及ぼすために起こる。果樹など樹木の下枝が雪に埋まると,この沈降力のため折られたり幹が裂けたりする。道路わきのガードレールなどの構造物が沈降力で壊されることも多い。

雪は瞬間的に大きな力を受けると容易に破壊して弾性体の特徴を示すが,重力のような小さな力をゆっくり受けるとずるずると変形して粘性を強く示す。このように雪は弾性と粘性とを併せもつ典型的な粘弾性体である。斜面積雪のクリープ,雪の沈降力,さらに新雪が締まりつつしまり雪になるなどは積雪の粘性が強く現れた例である。雪の粘性は温度が0℃に近づくにつれて増大し,雪が水を含んでぬれると急激に増加する。

春になると融雪が始まるが,雪どけが遅れるとそれだけ農作業が遅れるので雪面に土や有色の肥料を散布し,日射の吸収をよくして融雪を促進する試みが多雪地帯で盛んに行われている。雪どけの遅れは低水温を招き,また,雪腐れ病の原因ともなる。逆に融雪が急激に進むと底なだれが多発するほか,融雪洪水が起こって大きな災害を招く。融雪の機構,とくに雪面での熱の出入り(熱収支)や雪どけ水の流出機構の研究が重要なわけである。

雪は人間にとって害がある一方,天恵であることも忘れてはならない。降雪は大気の清浄作用がある。雪は音をよく吸収するので雪が積もると街が静かになる。雪は断熱性がきわめてよいので,積雪はその下の植物や動物を厳しい寒さから守るいわば布団の役目をしている。また,植物を冬の乾燥害や強風から守っている。そのため高緯度地方や高山帯では少雪地よりもむしろ多雪地の方が植物にとって好都合といわれる。雪の断熱性を利用した例にエスキモーのイグルー(氷・雪の家),冬山で遭難しかかったときなどに作る雪穴(雪洞(せつどう))などがある。秋田県横手市の〈かまくら〉の中が暖かいのも同じことである。春の雪どけは,これから芽をふこうとする全山の植物にくまなく水を与えてくれるし,ダムや川に流れ込んだり地下水として蓄えられた雪どけ水は春から夏にかけて,発電,農業用水,工業用水,生活用水に広く使われる。山の雪は台風や梅雨の雨とともに日本の重要な水資源である。北海道では年間の水の必要量の半分近くが,本州では1/4以上が雪どけ水でまかなわれる。アジア諸国,とくにイラン,アフガニスタン,中国内陸部,ヨーロッパのアルプス周辺諸国,アメリカ西海岸,南米の太平洋岸,オーストラリア南東部などもすべてこれと同じような事情にある(高山帯の雪は氷化して氷河になっていることが多い)。

近年,雪を積極的に利用しようという試みが雪国各地で盛んである。人工衛星画像やデータを利用した雪の水資源としての有効利用法の確立はもちろん,雪を大量に貯蔵保存して夏期に使用しようとする〈雪ダム構想〉や,高山帯の雪を利用して人工的に氷河を作り,水資源と観光資源にしようという人工氷河構想などがある。雪ダムに蓄えた雪は小出しにとかして水資源をはじめ,夏期の冷房,食糧の長期大量保存,温度差発電などに利用しようとするものである。

もともと雪の多寡は気候と地形の相互作用で決まる。日本海沿岸一帯が世界的な豪雪地帯であるのもまさにその結果である。逆に,ひとたびある地域が雪や氷で覆われると,それが気候や地形に影響を与える。南極やグリーンランドの広大な雪原は,大気と海洋の大循環を通じて全地球の気象・気候と密接にかかわっている。その意味で南極や北極の雪の消長あるいは大陸を覆う広大な雪原の広がりがわれわれの日常の天気や気候と密接につながっている。最近,衛星画像などの遠隔探査(リモートセンシング)で雪氷野の消長が常時監視され,気候とのかかわり合いが世界的な規模で調べられるようになった。

最近は宇宙探査機により木星,土星の衛星に大量の氷が発見され,すい星の核も氷でできていることが知られた。このため高圧下,-100℃,-200℃の低温下での雪氷の物性を論ずる宇宙雪氷学が誕生した。
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日本は温帯のなかでも世界有数の多雪地で,雪にかかわる生活上の習俗は少なくない。服装の上では軟雪をこぐ(行く)ための雪袴が衣服の外からズボンの膝下までのような長さではかれ,麻製の丈夫なものが用いられた。膝下でくくって雪沓をはく。これは藁製で保温力があり,積雪の硬軟深浅に応じて地方ごとに種々のくふうがなされている。軟らかく深い雪中を歩くためには,木の枝をたわめた輪樏(わかんじき)または雪輪と呼ぶ履物が用いられ,これにも使用目的と雪質に応じた種々の形式のものが知られている。荷物を雪上で運搬するには橇(そり)が用いられたが,湿った雪の多い日本では人が乗って滑るスキーのような道具の発達はなかった。降雪の多い翌日には雪踏みによって集落内外の通路を確保する義務があり,住民は区間を割って当番を定め,雪俵または踏俵(ふみたわら)などを用いて通路を踏み開いた。また積雪が高くなると家屋内が冷え,壁などが破損するので,周囲に竹や板の雪垣,雪囲いを施して家屋に直接雪がふれぬくふうをし,井戸や離れた厠(かわや)にも雪覆いを設ける。屋根の雪を掘り上げて周囲に落とすためには,雪鋤(ゆきすき)を用いるが,茅や瓦など屋根材料を傷めぬため木製のものが好んで使用される。これらの雪に伴う余分な労力や費用,苦心については《北越雪譜》などの記述が詳しい。山地斜面の積雪は新雪時と融雪時に崩落し,人や施設に被害を及ぼすので恐れられ,前者にはホウラ,アワなどの呼称があり,発生時と発生場所が不定であり,強大な風圧が樹木などを倒すこともある。後者はナデ,ノマなどの名があって発生時期,個所はほぼ予期されるが,固結した半ば氷塊状の雪が落下する。

 降雪期の初めは雪おこし,雪おろしなどと呼ばれる雷鳴ではじまり,著しい天候の急変と吹雪が襲うことがある。北陸,奥羽では八日吹き,大師講吹きなどといわれて,例年ほぼ同日にこの異変があると信じられた。これらの日のいわれとしては,神霊の出現と関連して伝えられたものがあり,たとえば大師講吹きは旧11月23日の大師講の夜に弘法大師が物乞いとして現れ,これを憐れんでめぐんだ者に大師が幸運を授けた話となっている。雪を神去来のしるしとみた習俗らしく,青森県八戸地方では旧2月と9月の16日を農神と雪神様との入れかわる日と伝えている。この季節に神祭がある土地は全国的であって,雪の降る夜現れるという雪女も,このような神の零落した姿ではないかと考えられる。鳥取県東伯地方の山村で白幣をもち淡雪に乗って現れ〈水ごせ〉〈湯ごせ〉と言うといい,岐阜県北西部で〈雪ンド〉といって山小屋に来て水をくれというのも,女または雪玉の姿だという。いずれも水を与えると大きくなって殺されるといい,熱い湯茶をやるものだというのは,その本質が寒冷であることを意味するらしい。雪を六花と称し雪見などといって喜ぶのは,雪の少ない太平洋側の都市で,大雪は豊年の前兆というのも地方的な諺である。
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雪 (ゆき)

(1)地歌の曲名。大坂の峰崎勾当(こうとう)が天明・寛政(1781-1801)ころに作曲した本調子端歌物。作詞は《歌系図》の編者流石庵羽積(りゆうせきあんはづみ)。尼になって浮世を捨てた大坂南地の芸妓そせきが昔を回想しつつ,仏門に入った心境を格調高く歌っている。宝暦(1751-64)以降最高潮に達した芸術的創作歌曲である端歌の代表曲。〈心も遠き夜半の鐘〉の後の合の手は〈雪の手〉として知られている。本来は遠くから聞こえてくる鐘の音をしみじみと表したもので,雪の描写ではないが,いつしか雪のイメージに結びつき,のちの三味線音楽では雪の降る情景を表す旋律として利用されるようになった。この旋律を用いた曲には,長唄《綱館》,常磐津《宗清》,清元《三千歳(みちとせ)》,山田流箏曲《近江八景》などある。また,《残月》などの手事の替手にも用いられたり,茶の湯の点前に合わせて演奏したり,下座(げざ)音楽としても効果的に用いられる。上方舞としても代表曲の一つである。(2)長唄めりやす物の曲名。(3)長唄の曲名。地歌をそのまま移曲。本名題《二人女房中由兵衛(ににんにようぼうなかのよしべえ)》。1804年(文化1)江戸河原崎座初演。(4)うた沢の曲名。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雪」の意味・わかりやすい解説


ゆき

地歌の曲名。大坂の峰崎勾当の手になる本調子端歌物。天明~寛政年間 (1781~1801) 頃の作で,地歌の代表曲。『歌系図』の編者流石庵羽積の作詞で,浮世を捨てて尼になった女が一生を回想し,捨てかねる芸妓時分の恋心を歌ったもの。大坂南地の芸妓そせきがモデルとされる。有名な合の手はすぐ前の句「夜半の鐘」にちなんだ鐘の音の描写であるが,「雪」の手として雪の降るさまを表わす旋律として誤用されている。この旋律は長唄『綱館 (つなやかた) 』,常磐津『宗清 (むねきよ) 』,清元『三千歳 (みちとせ) 』,山田流箏曲『近江八景』や,芝居下座にも用いられている。上方舞でも代表曲とされ,茶の湯の点前に合せて演奏されることもある。箏,胡弓,尺八などの簡単な手も作曲されているが,主体は三弦にあって,他はあくまでも助演にすぎない。


ゆき
snow

空気中の水蒸気が,空気の上昇に伴う断熱冷却により昇華してできた氷の結晶の降水。雪の結晶形には,針状,角錐状,角柱状,星状,板状あるいはそれらが組み合わされたものや不規則な形をしたものがあり,過冷却した水滴が凍結してできた微小な氷の粒をつけたもの,多少水分を含んだものなどがある。雪が降るとき,前述のような結晶が個々ばらばらになって降る場合と,多数の結晶が付着しあった雪片の形で降る場合がある。学術上単に雪という場合は,おもに降ってくる雪を意味し,地上に積もった雪は積雪といって区別する。

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知恵蔵 「雪」の解説

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デジタル大辞泉プラス 「雪」の解説

日本の唱歌の題名。文部省唱歌。発表年は1911年。2007年、文化庁と日本PTA全国協議会により「日本の歌百選」に選定された。

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