知恵蔵 「永井一郎」の解説
永井一郎
京都大学在学中に演劇を始め、卒業後に上京して2年間は広告代理店に勤務しながら俳優の養成所に通う。養成所卒業後は、劇団「俳優座」の3期生が立ち上げた「三期会」に加わり、そこで役者だけではなく声優の仕事もこなすようになる。後に、吹き替えの仕事が多忙となり声優業に専念することとなった。
白黒アニメーションの時代からテレビや映画で活躍した日本声優界の草分け的存在であり、数多くの作品に出演して、重厚な役柄からコミカルなものまで幅広く演じた。代表作は「サザエさん」の磯野波平、「機動戦士ガンダム」のナレーション、「ど根性ガエル」の町田先生、「宇宙戦艦ヤマト」の佐渡酒造、徳川彦左衛門、「未来少年コナン」のダイス船長、「じゃりん子チエ」の小鉄など。「サザエさん」の波平役は、69年の番組開始時から44年間にわたって務めた。他にも、「ゲゲゲの鬼太郎」「タイガーマスク」「天才バカボン」など多くの人気アニメに携わってきた。洋画の吹き替えでは、「スター・ウォーズ」のヨーダや「ハリー・ポッター」のアルバス・ダンブルドアなどを務めた。アニメ、吹き替え共に40代から老人の役を数多く担当。その他、テレビのナレーションも数多く手がけ、2009年には第3回声優アワード功労賞を受賞した。
若い頃から数々の病に見舞われ、30代でバセドウ病、50代で糖尿病を発症。60代前半には食道がんが見つかったため内視鏡手術を受けた。その後、一時期声が出なくなったが、飲酒によって声がよみがえる経験をしている。60代後半は直腸がんを発症、術後に復帰を果たす。14年1月27日、虚血性心疾患により死去。享年82。最後の仕事はTBS系「世界が知りたいニッポンの技~美と食の匠たち…ひろしま篇」のナレーションとなった。同年2月3日に都内で行われた葬儀・告別式には約600人が参列し、「サザエさん」のフグ田サザエ役・加藤みどりと、磯野カツオ役の冨永みーなが役柄の声で「磯野波平の永井一郎さん。さようなら」などと「お別れの言葉」を述べ、2代目磯野ワカメ役の野村道子、3代目ワカメ役の津村まこと、初代フグ田マスオ役の近石真介、2代目マスオ役の増岡弘、フグ田タラオ役の貴家堂子(さすがたかこ)らが別れを惜しんだ。
(若林朋子 ライター / 2014年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報