日本大百科全書(ニッポニカ) 「沙汀」の意味・わかりやすい解説
沙汀
さてい / シャーティン
(1904―1992)
中国の小説家。本名は楊朝煕(ヤンチャオシー)、四川(しせん/スーチョワン)省安昌鎮(アンチャンチェン)の人。1926年四川省立第一師範卒業。29年上海(シャンハイ)へ出て艾蕪(がいぶ/アイウー)とともに創作を開始、32年中国左翼作家連盟に加入、短編集『航線』(1932)、『土餅(どべい)』(1936)、『苦難』(1937)など農民の苦難や土地革命を描いた作品で知られる。抗戦期は成都(せいと/チョントゥー)で協進中学の教師をしながら救亡工作に従事、のち何其芳(かきほう/ホーチーファン)らと延安(えんあん/イエンアン)に行き、魯迅(ろじん)芸術学院で教え、『随軍散記(ずいぐんさんき)』(1940)を書く。40年重慶(じゅうけい/チョンチン)で文芸工作に従事、散文集『敵後瑣記』を発表。皖南(かんなん)事件(1941)後、故郷に避難して創作に専心し、長編『淘金記(とうきんき)』(1943)、『困獣記(こんじゅうき)』(1945)、『還郷記(かんきょうき)』(1948)のほか多くの中短編を書く。解放後も短編集『医師』(1951)、『辺疆(へんきょう)戦士』(1953)、『過渡』(1959)、『沙汀選集』(1959)、『祖父の物語』(1963)などがある。社会科学院文学研究所所長を務めた。
[伊藤敬一]