艾蕪(読み)がいぶ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「艾蕪」の意味・わかりやすい解説

艾蕪
がいぶ / アイウー
(1904―1992)

中国の作家四川(しせん/スーチョワン)省出身。成都(せいと/チョントゥー)の省立師範学校に入学するが、卒業を間近に控えた1925年、自らの可能性を求めて社会を大学にすべく学校を中退雲南(うんなん/ユンナン)省昆明(こんめいクンミン)の赤十字での雑役夫をはじめとして、社会の底辺の暮らしを体験しつつ、国境地帯からビルマ(現ミャンマー)へと放浪の旅を続ける。31年ビルマの英国当局に共産党員の容疑で逮捕、拘留され、中国に強制送還される。帰国後上海(シャンハイ)で師範時代の同級生沙汀(さてい/シャーティン)とともに左翼作家連盟に加入、本格的な創作活動に入り、放浪時代に出会った社会の底辺でうごめく民衆を軽快な筆致で詩情豊かに描きあげた『南行記』(1935)など所収の短編で注目された。抗日・解放両戦争期は、国民党支配下の桂林(けいりん/コイリン)、重慶(じゅうけい/チョンチン)にあって、厳しい検閲のもとで抗戦下の農村を精力的に描き、『故郷』(1946)、『山野』(1948)などの長編を発表した。建国後鞍山(あんざん/アンシャン)の製鉄所に派遣されて以後積極的に「新人新事」を描き、いわゆる「工場もの」の代表作である『百錬成鋼』(1958)を発表して高い評価を受けた。また、自らの原点である雲南辺境を再三訪れ『南行記続編』(1964)、『南行記新編』(1981)を著した。1958年中国共産党入党。四川省文連名誉主席などを歴任。全創作を包括した『艾蕪文集』(1981~89)が刊行された。

[杉本雅子]

『武田泰淳編『現代中国文学11 短篇集』(1971・河出書房新社)』『竹内好編『中国の革命と文学5 抗戦期文学1』(1972・平凡社)』『杉本雅子著「原『南行記』から見た艾蕪の文学」(『伊藤漱平教授退官記念中国論集』所収・1986・汲古書院)』『杉本雅子著「魯迅――艾蕪・沙汀 <関於小説題材的通信>に関する一考察」(『魯迅研究の現在』所収・1992・汲古書院)』『尾坂徳司著『四川・雲南・ビルマ紀行――作家艾蕪と二〇年代アジア』(1993・東方出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「艾蕪」の意味・わかりやすい解説

艾蕪
がいぶ
Ai Wu

[生]光緒30(1904).6.2. 四川,新繁
[没]1992.12.5
中国の作家。本名は湯道耕。成都師範学校を1年で中退,1925年から赤十字会の雑役係,寺の小僧,新聞の校正係,小学校の教師などをしながら雲南,マレー半島,ビルマ (現ミャンマー) を放浪。 1931年,ビルマの革命運動に参加して捕えられ強制送還。帰国後創作を始め,魯迅の指導を受ける。 1932年左翼作家連盟に加わった。抗日戦争中は重慶で創作を続け,中華人民共和国成立後一時筆を絶ち,工場に入って労働に従事したが,1953年頃から再び筆をとり,雑誌『人民文学』の編集委員を務めた。文化大革命のときは迫害を受けたが,その後執筆を再開し中国文学界の重鎮となった。放浪時代の体験をもとにした『南国の夜』『南行記』『漂泊雑記』など初期の短編集が有名で,文明と隔絶した辺境の貧民を温かく描いた哀愁の漂う佳編がある。新中国建国後は労働者や抗日闘争を題材にした作品が多く,特に 1977年以降の 1930年代文芸の見直しの機運のなかで,高い再評価を受けた。作品『豊饒な原野』『荒野』『江上行』,短編集『夜景』『芭蕉谷』『秋収』『荒地』など。

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百科事典マイペディア 「艾蕪」の意味・わかりやすい解説

艾蕪【がいぶ】

現代中国の作家。本名湯道耕。四川省出身。師範学校を中退,1925年―1931年最下層の民衆に混じって雲南,ミャンマー,マレーを放浪した。1931年帰国して中国左翼作家聯盟に加盟,《南行紀》以下,実体験に基づいた民衆の生活を詩情豊かに描く。解放後は工業建設を描いた《百煉成鋼》がある。
→関連項目沙汀

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367日誕生日大事典 「艾蕪」の解説

艾蕪 (がいぶ)

生年月日:1904年6月2日
中国の作家
1992年没

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