改訂新版 世界大百科事典 「法現象学」の意味・わかりやすい解説
法現象学 (ほうげんしょうがく)
E.フッサールの現象学の方法に依拠して法を解明しようとする法哲学・法学。フッサール現象学じたいの発展のどの段階に拠るかで異なるが,初期現象学の〈本質直観〉の方法に拠るものとしてライナハA.Reinach,シュライアーF.Schreier,カウフマンF.Kaufmann,フッサールG.Husserlの諸著がある。ライナハは《民法の先験的基礎》(1913)で所有や契約の本質を論じた。シュライアーとカウフマンはケルゼンの純粋法学との接合を試みた。アムズレクP.Amselekは《現象学的方法と法理論》(1964)で純粋法学を現象学の形相的還元の方法に近いものとしつつも,この方法に拠る法の現象学と超越的還元の方法に拠る法理論の現象学との区別の必要を論じたが,その超越的還元はフッサールのとは違い,法現象に対する法律家の実践態度の記述にすぎない。戦後フッサール現象学の研究は著しく進み,とくに中・後期の思想が注目され,間主観的世界の現象学や実存現象が展開され,その多方面にわたる現代的展開の流れの上にロイペンW.Luijpenの《自然法の現象学》(1967)や,シュッツA.SchützやT.パーソンズの機能主義・構造主義を批判的に継承したルーマンN.Luhmannの《法社会学》(1972)がある。また過去の法現象学の批判的再検討としてゴヤール・ファーブルS.Goyard-Fabreの《法現象学批判論》(1972)がある。
執筆者:阿南 成一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報