デジタル大辞泉 「機能主義」の意味・読み・例文・類語
きのう‐しゅぎ【機能主義】
1 諸要素の機能や相互の関係に着目し、それぞれが全体の維持にどうかかわっているかという観点から、文化・社会現象をとらえようとする立場。
2 建築・工業などで、余分な装飾を排し、用途に応じたむだのない形態・構造を追求する傾向。
19世紀末から20世紀前半にかけて,科学や芸術の諸領域で前後して提唱され,その後の展開に大きな影響を及ぼした方法論上の立場であるが,領域の違いに応じて提唱の動機もfunctionという概念の含意も異なり,むしろ〈関数主義〉と訳す方が適切な場合もある。たとえばこの時代の一般的な認識論的傾向をfunctionalismと呼ぶ場合がそうである。これは,実体概念を基軸としていた17,18世紀の考え方に対して,実体などというものは科学的に規定しえないものなのだから,科学はそうしたものを想定することなく,もっぱら現象の記述とその相互関係の法則的把握を目ざすべきだとする思想傾向であり,その限りでは同時代の反形而上学的な実証主義や現象主義と立場を同じくするが,古い実証主義がとかく事実を固定的・機械論的にとらえがちであったのに対し,諸現象をもっと動的・関数的にとらえようとするものであった。この問題をさらに厳密に考えぬき質量,力,エネルギー,原子,時間,空間といった近代科学の基本概念を,実体的なものの表現としてではなく,現象相互の関係やその変化を法則的に表現しようとする関数概念と解すべきだと説くカッシーラーの主張(《実体概念と関数概念》1910)なども,〈機能(関数)主義〉と呼ばれてよい。
一方,個別科学の領域で機能主義的と見られるのは,心理学においてはW.ジェームズの流れをくむデューイやJ.R.エンジェルらの機能心理学,それを継承するJ.B.ワトソン,G.H.ミードらの行動主義心理学,民族学や人類学の領域ではデュルケームの影響下に立つB.K.マリノフスキー,ラドクリフ・ブラウンらの機能学派,経済学におけるベブレンの制度学派,法学ではR.パウンドの社会工学,G.D.H.コールらギルド社会主義者の機能的国家論などである。しかし,この場合も,たとえば心理学における機能主義が,意識をその内容にではなく作用に即して考察し,その生物学的意味を解明しようとするものであり,C.ダーウィンやH.スペンサーの進化論の強い影響下に発想されたものであるのに対して,人類学におけるそれは,むしろ歴史主義や進化主義への批判から出発し,社会や文化を孤立した要素の複合体と見る従来の考え方に反対して,現存の制度や慣習の機能を全体としての文化や社会との関連のうちで解明しようとするものである。同じように〈機能の重視〉を主張しても,その〈機能〉の意味は一義的ではない。やはりこの時代(1890年代以降),建築や工芸の領域でもL. H. サリバンを中心とするシカゴ学派によって機能主義が提唱されたが(機能主義建築),これは〈形態は機能に従う〉というモットーのもとに美的価値と実用的機能との統一を目ざすものであったから,この場合の〈機能〉も心理学や人類学のそれとはかなり異なっている。
このように,たまたま同じ〈機能主義〉を標榜したにしても,それぞれの主張内容にかなりのへだたりがあるのだから,それらの立場をむぞうさに一括するわけにはいかないが,しかしそれぞれの領域の置かれていた特殊な問題状況に応じて現れ方は違っても,そこにはやはり近代の実体論的思考や,その帰結である要素主義的・機械論的な考え方に反対して,あくまで経験に支えられる諸現象とその変化を全体的連関のなかで動的にとらえようとする時代の共通の志向が認められる。この志向がやがて20世紀の諸科学の主軸となる〈ゲシュタルト〉〈構造〉〈全体性〉〈システム〉といった諸概念の形成を準備することになるのでもあるから,機能主義を認識論および科学方法論の上での近代から現代への転換点としてとらえることは許されるであろう。
執筆者:木田 元
社会学あるいは社会システム分析において,機能主義とは,社会的諸部分の活動ないし作用を,より上位の社会的全体の目的を達成しもしくはその必要性をみたすはたらきという視角からとらえ,社会的全体とのかかわりにおいて評価し解釈する方法論的アプローチをいう。機能主義は,システムにおける構造形成とその変動を,システムの機能および逆機能にかかわらせて説明することを可能にする。この定義において社会的諸部分の活動とは,個人の行為であってもよいし,個人の集合としての集団や組織の活動ないし作用であってもよい。重要なことは,個人ないし部分社会が単独では存続しえず,みずからの存続のためにより上位の社会的全体と一定の関係をもつことを必要とする点である。部分という語はすでにそれ自体として全体というものを予定しているが,機能とはそのような社会的全体の目的達成ないし必要性の充足に対して部分が果たす貢献であり,そのような貢献がうまくいった場合には部分の現行のあり方は維持されうるが,そうでない場合にはそれは変動にむかうことを余儀なくされる。機能主義というのは機能に着目する考え方というほどの意味であって,部分と全体との機能的な連関に着目することによって,社会事象の生起に関して種々の解釈ないし説明を与えようとするアプローチにほかならない。
機能主義的思考の二つの古典的な形態は,社会有機体説と社会機械論に求められる。社会有機体説は生物学的な知見の社会事象への適用,社会機械論は力学的な知見の社会事象への適用である。とりわけ社会有機体説は,スペンサー学説に見るように,社会学理論の19世紀的形態として大きい役割を果たしたが,決定的な弱点はそれがアナロジーによる説明たるにとどまるということであった。
このようなアナロジーによる説明からの脱却は,二つのステップを経て進行した。第1のステップは,社会システム,環境に対する適応,機能,構造,過程といった説明概念を,有機体のアナロジーを離れて社会分析それ自体のための用具として確立することであった。これは,デュルケームによる分業の機能の説明(《社会分業論》1893)や宗教の機能の説明(《宗教生活の原初形態》1912),ラドクリフ・ブラウンによる親族の機能についての説明(《未開社会における構造と機能》1952)などによって,推進された。第2のステップは,一般システム理論の社会システム論への導入であった。一般システム理論は,機械システムや有機体システムから抽出された原理をただアナロジーとして社会システムにあてはめるというのではなく,機械システム,有機体システム,社会システムがその一定側面に関して同型性isomorphismをもつと仮定し,その共通原理を定式化しようとするものである。社会システムの理論は,1950年代いらい,T.パーソンズ,レビM.J.Levy(1918- ),ホマンズG.C.Homans(1910-89),ルーマンN.Luhmann(1927- ),その他多くの人々によってさまざまな方向に発展をとげて現在にいたっている。
パーソンズによって創始され,その後多くの人々によって彫琢された構造-機能分析は,上述した機能主義のテーゼに〈構造〉の概念を導入し,現行の構造のもとでシステムの構成諸要素が機能的必要の充足(または〈システム問題〉の解決ともいう)を達成しうるならば当該構造は存続しうるけれども,そうでないならば当該構造はシステム問題をよりよく解決しうるようななんらかの新しい構造にむかって変動する,という命題を立てる。この命題は,小は親族組織や企業の組織のようなミクロ社会システムから,大は国民社会のようなマクロ社会システムにまで共通にあてはまりうる,構造持続と構造変動の生起を機能の観点から説明するための説明仮説である。この説明仮説をよりどころにして,たとえば日本の明治維新における社会構造変動を,幕藩制社会の構造が当時の国際的環境のもとでもはや機能的必要を充足しえなくなった結果として説明する理論を構築することが可能である。アメリカやヨーロッパ諸国の社会学・政治学において,先進社会の産業化と近代化の分析,低開発社会の発展における挫折の分析などに関して,構造-機能分析が大きい役割を果たしたのも同様の理由による。
執筆者:富永 健一
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機能主義は慣習、制度、価値などの社会的諸現象を、それらが社会のなかで果たす機能によって説明しようとする理論であり、1920年代、マリノフスキーとラドクリフ・ブラウンの2人の人類学者によって創始された。
彼らは両者とも長期間の野外調査ののちに、それまで主流を占めていた文化進化論や伝播(でんぱ)論に対し、全体としての文化を個々の文化要素に分割し、統一体としての文化から切り離して扱っていると批判し、一つの社会のなかの文化要素は一見、独立していて無関係にみえても実は相互に密接な関係をもち、有機的に結び付いているのだと主張した。したがって、個々の慣習や制度を理解するためには、それらが全体の文化のなかでどのように「機能」しているのかを究明しなくてはならないとした。
マリノフスキーはメラネシアのトロブリアンド諸島の調査で、社会、宗教、経済など生活全般にわたる資料を収集し、一つの制度がいかに社会組織、経済、宗教などと密接に関連しているかを明らかにした。彼の理論は、生物としての人間から始まり、他の動物と同様の基本的な生物学的要求と、集団生活を存続させるための派生的・文化的要求があるとし、これらの要求に応じるためにさまざまな制度、経済、教育、政治組織が存在するのだとした。したがってマリノフスキーのいう「機能」とは、個人の生理学的要求の充足と、ある制度が文化全体のなかで果たす役割をも含む、広い概念である。
一方、ラドクリフ・ブラウンはベンガル湾東部のアンダマン島での調査により、この地域の儀礼が人々の連帯意識を強化し、社会的結合を高め、社会の統一にいかに貢献しているかを示した。彼によれば、社会体系はその維持・継続のためには一定の「存在のための必要諸条件」を満たさなければならないという前提があり、生物の有機体と社会体系のアナロジーによってこの前提を主張した。生物組織の維持がそれぞれの細胞や組織の活動によって保たれるように、社会体系もまたそれを構成する諸要素の正しい活動によって保たれるとした。彼の「機能」とは「部分がそれを含む全体社会の活動に対してなす貢献」であり、たとえば、ある慣習の機能とはそれが社会構造の維持に対して果たす役割である。ラドクリフ・ブラウンと彼の後継者たちの機能主義はマリノフスキーの機能主義と区分して構造機能主義とよばれることがある。
その後、機能主義理論に対してはいくつかの批判が加えられた。社会の統合・均衡が強調され、社会変化を正常な状態からの逸脱として扱っており、かならずしも現実に即さない静的なモデルを考えていて、社会や文化の変動を扱うのには不十分であるとか、とくに歴史的研究を軽視する傾向があるなどの批判である。また、これと関連して、社会における統合的な力を過度に強調し、葛藤(かっとう)や非機能的要素を取り扱うのに欠けている、との批判も加えられる。以上のマリノフスキーとラドクリフ・ブラウンによって創始された機能主義は、その後、エバンズ・プリチャードやフォーテスに受け継がれ、さまざまな批判を受けたが、その基本的な考え方は、現在ではむしろ文化人類学では常識として扱われるようになっている。
[豊田由貴夫]
『ラドクリフ・ブラウン著、青柳まち子訳『未開社会における構造と機能』(1975、81・新泉社)』▽『マリノフスキー著、寺田和夫・増田義郎訳「西太平洋の遠洋航海者」(『世界の名著59 マリノフスキー/レヴィ=ストロース』所収・1967・中央公論社)』
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(暮沢剛巳 建築評論家 / 2007年)
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…もちろん,それぞれの活動の本質は近代のデザインのなかに保持されている。たとえば,機能主義はどんな原始的な道具のなかにも見られる。しかし,デザインという語は,産業社会が成立して大衆が,生産された物の消費者となり,また政治的な平等が少なくとも名目的には原則となった時代の,人間の環境形成にかかわる活動をさして使われるのである。…
…それらは,それぞれ文化の十分な理解のために必要な基本的な視角を提示し,かつそれによって文化理論を豊かにしていった。19世紀後半にイギリス,アメリカで盛んになった進化主義的民族学は,人類文化に共通の進化という現象と人類の基本的心性の同一性に注意を向けさせ,進化主義への反動として20世紀前半にドイツ,オーストリアやアメリカで盛んになった歴史民族学は,個別文化が歴史的に形成されたことを強調し,個々の文化要素や文化複合の空間的分布のもつ意味を問うており,1920年代以後イギリスで盛んになった機能主義は,個々の制度が全体社会の維持に果たす機能,あるいは個人の欲求充足に果たす機能が問題にされた。第2次大戦後,フランスにおいて盛んになった構造主義においては,文化を構成する個々の要素をそれ自体としてではなく,相互間の関係からなる構造として把握すること,ことに意識されていない構造の重要性を論じた。…
※「機能主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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