日本大百科全書(ニッポニカ) 「法称」の意味・わかりやすい解説
法称
ほっしょう
生没年不詳。7世紀中葉のインド仏教最大の知識論学僧。サンスクリット名ダルマキールティDharmakīrti。デッカン地方出身。その活動期は、いずれもインドに留学した玄奘(げんじょう)と義浄(ぎじょう)との中間にあたる。彼の主要な著作は認識論・論理学にかかわる次のもので、「法称の七論」と称せられている。『知識論評釈(プラマーナ・バールティカ)』『知識論決択(けっちゃく)』『正理一滴(しょうりいってき)』『証因一滴(しょういんいってき)』『論議の理論』『関係の考察』『他人の存在の論証』。法称は陳那(じんな)(ディグナーガ)の知識論を継承したのであるが、それをさらに発展させ、より確実な理論に高めた。それは革命的な業績であって、その後の仏教およびインド哲学諸派の認識論と論理学に重大な影響を与えた。たとえば、知覚と推理の区別を厳密に規定し、推論式の証因(しょういん)(媒名辞(ばいめいじ))の備えるべき3条件の理論を厳密化し、論理的に必然的な関係を同一性と因果性の2種に限定し、否定的推理の理論を完成し、陳那の唯名論的概念論をより発展させ、主辞(しゅじ)と賓辞(ひんじ)との遍充(へんじゅう)関係の相違に基づいて肯定命題を3種に分かつなど、画期的な業績をあげた。
[梶山雄一 2016年12月12日]
『戸崎宏正著『仏教認識論の研究』上下(1979、1985・大東出版社)』