中国生まれの訳経僧。法顕(ほっけん)や玄奘(げんじょう)の入竺求法(にゅうじくぐほう)の偉業に倣い、37歳のとき海路によって南海諸国を巡りインドに向かった。彼の関心は仏教徒の戒律にあり、これらの諸国で戒律がどのように実践されているかを自分の目で確かめたいと願った。インドから新たに根本有部(うぶ)の戒律文献を中国にもたらし、それを漢訳して中国仏教界に紹介した功績は大きい。また自らの求法の見聞をまとめて『大唐南海寄帰内法伝(だいとうなんかいききないほうでん)』を著した。これは帰途に室利仏逝(しつりぶっせい)(スマトラ島)で書かれたものという。これには南海地方の仏教徒の具体的な生活が詳しく記され、当時の社会や風俗を知るうえで貴重な史料となっている。ほかに入竺求法僧の伝記をまとめて『大唐西域(さいいき)求法高僧伝』を著した。
[岡部和雄 2017年1月19日]
中国,唐代の律学僧。山東省歴城県の人。俗姓は張氏。幼時に出家し,法顕や玄奘の求法の壮挙を慕っていた。671年(咸亨2),広東から海路インドに向かい,20余年にわたって各地の仏跡を巡礼し,南海諸国を経由して帰国。それ以後,将来した梵本《金光明最勝王経》などの翻訳に没頭した。彼が著した《南海寄帰内法伝》《大唐西域求法高僧伝》は東西文化交渉史上の貴重な文献である。
執筆者:礪波 護
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635~713
唐の仏僧。山東省歴城県の人。671~695年海路インドにおもむき,仏教を学んで帰国した。その訳経54部221巻のなかには律に関するものが多い。そのほか旅行記『南海寄帰内法伝』,インド求法(ぐほう)僧の伝記『大唐西域求法高僧伝』の著作がある。
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…日本については,聖徳太子伝を巻首におくとともに道昭より天海にいたる僧伝たる性潡撰《東国高僧伝》10巻のほか,より完備したものとして師蛮撰《本朝高僧伝》75巻とそれにつづく道契撰《続日本高僧伝》11巻が,いずれも《大日本仏教全書》に収められている。なお唐の義浄撰《大唐西域求法高僧伝》1巻は,中国より求法のためにインドに赴いた60余人の僧侶たちの伝記であり,高僧伝とは称さないが,比丘尼の事跡を収録した梁の宝唱撰《比丘尼伝》なども,一種の高僧伝とみてよかろう。《高僧伝》をはじめとする中国における僧伝48種の総合索引として,日本の尭恕(1640‐95)撰《僧伝排韻》106巻は,各僧侶の条下に,その略伝を出し,さらにその伝を収録した書名と巻数を示していて,信頼でき,とくに《大日本仏教全書》所収本は,巻末に五十音索引を付録しているので,韻に通じない者にも便利である。…
…サンスクリット本,チベット訳,漢訳のほか,ウイグル語,満州語,蒙古語などに訳され,東アジアに広く普及したことが知られる。漢訳は5種あったが,現存するのは,曇無讖(どんむしん)訳《金光明経》4巻(5世紀初め),宝貴らが従来の諸訳を合糅(ごうじゆう)した《合部金光明経》7巻(597),義浄訳《金光明最勝王経》10巻(703)の3種で,後世重視されたのは義浄訳である。内容は,仏の寿命の長遠性,金光明懺法,四天王による国家護持や現世利益など雑多な要素を含み,密教的な色彩が強い。…
…これらの碑文から,当時のスリウィジャヤでは大乗仏教が行われていたこと,2万の軍を動員できたこと,スリ・ジャヤナーシャなる王が〈幸ある園〉をつくったことが知られる。中国に説一切有部(せついつさいうぶ)系の経典類をもたらした唐代の僧義浄は,インドへの往復の途次,この地に長期間滞在し,仏典翻訳のほかに,《大唐西域求法高僧伝》と《南海寄帰内法伝》を著した。義浄の諸記述からも,この地に大乗仏教が栄え,僧侶が1000余人もおり,しかもインドと変わらぬほど仏教の法式が整備されていたことがうかがえる。…
…仏教研究の中心として5~12世紀に栄えた学問寺があった。7世紀前期には玄奘が,7世紀末期には義浄がここで学んだ。玄奘によると,グプタ朝のクマーラグプタ1世(在位415ころ‐454ころ)が創建し,グプタ後期の諸王やハルシャ・バルダナ王(在位606ころ‐647)も次々と僧院を造営し,数千人の僧徒がいたという。…
…ジャワ仏教はのちにシバ教(ヒンドゥー教シバ派)と混交してジャマン・ブドと呼ばれる独特な形態の仏教を生み,マジャパイト王朝の下で繁栄したが,新来のイスラムが支配層に浸透するに従って衰微し,15世紀以後消滅した。スマトラ島では7世紀末にこの地を経てインドへ赴いた義浄が,スリウィジャヤにおける仏教の隆盛を指摘し,インドに赴いて仏法修行を志す唐僧に準備のためこの国に滞在することを勧めている。スマトラ島の仏教は14世紀後半まで碑文によってその存在を確認できるが,イスラムの到来にともなって滅亡した。…
※「義浄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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