日本大百科全書(ニッポニカ) 「浜下り」の意味・わかりやすい解説
浜下り
はまおり
沖縄県沖縄諸島などで、災厄を払い除くために、浜辺に出て行う清めの行事。浜降りとも書く。この地方では、一般に野鳥が家の中に入ると不吉であるといって忌む風習があり、その厄払いに浜下りを行う。小鳥が位牌(いはい)に止まることを極度に忌むほか、メジロ、フクロウ、ハト、ウズラ、リュウキュウアカショウビン(方言ではクカル)などが部屋に入るのは、不幸の前兆、神の祟(たた)りとした。那覇市首里(しゅり)では、後世には、家人が浜に出て1日遊び暮らす程度になっていたが、本来は、浜辺に仮小屋をつくり、牛や馬まで引き出して、三日二晩小屋で過ごす大掛りな行事であった。北部地方は、この3日間、厳しい忌み籠(ごも)りの生活をした。近親縁者の来訪もなく、ほとんど無言で過ごし、家に帰ると潮水で部屋を清めた。中・南部地方では、親類縁者が持ってきた酒肴(しゅこう)で毎晩酒宴を開き、三味線を弾いて歌い踊った。歌舞や武芸で悪霊を退散させる方法で、3日目の晩には、槍(やり)持ちと棒持ちを先頭に、三味線を弾き、歌い踊って家に帰り、家では槍持ちと棒持ちが打ち合って、部屋で踊り回った。また久米(くめ)島には、作物にネズミや虫がついたときに、払い除くための浜下りがあり、村落の祭祀(さいし)として行った。ネズミや害虫を海のかなたに封じ込め、稲がりっぱに実るようにと神に願う、そのときの村ごとの唱え言が『久米(くめ)島仲里間切(なかさとまぎり)旧記』(1703ころ)に書き残されている。本土でも、浜辺に出て潮水で清めをする行事が広くみられるが、沖縄諸島ではその思想がとりわけ顕著で、日常的であった。
[小島瓔]