混合性結合組織病とオーバーラップ症候群

内科学 第10版 の解説

混合性結合組織病とオーバーラップ症候群(リウマチ性疾患)

定義・概念
 膠原病ではしばしばいくつかの疾患の症状が同時に出現し,1つの疾患として診断することが困難な症例が存在する.また,1つの疾患からほかの疾患へ移行したと考えざるをえない症例も認められる.このような2つ以上の膠原病の特徴的な所見を重複して有す症例や移行例を一括してオーバーラップ症候群(重複症候群)とよんでいる.
 このオーバーラップ症候群の中でも1972年,Sharpらによって提唱された混合性結合組織病mixed connective tissue diseaseMCTD)は,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE),強皮症(SSc)および多発性筋炎(polymyositis:PM)などの臨床像をあわせもち,高力価の抗U1 RNP抗体を特徴とする独立した疾患単位として分類されている.これに対して,抗U1 RNP抗体陰性で,2つ以上の膠原病の特徴的臨床像や免疫学的所見を有し,それぞれの疾患の診断基準を満たす群がいわゆるオーバーラップ症候群として区別されている.
 ただ単に抗U1 RNP抗体の有無や,ほかの膠原病の診断基準を満たすか満たさないかでオーバーラップ症候群とMCTDを区別することは必ずしも適切ではないとの議論もある.しかし,MCTDでは抗U1 RNP抗体に相関して高率に出現するRaynaud現象,指・手背腫脹,さらに肺高血圧症などの特異な病態を認め,加えて独自の遺伝的背景の存在,独自の免疫学的所見,さらに予後相違なども認められ,現在のところ1つの疾患単位として考えるのが妥当とされている(髙崎,2005).
原因・病因
 MCTDの原因は不明であるが,遺伝的な素因に加え,レトロウイルスなどの環境因子がその発症に関与していることが示唆されている(髙崎,2005).
疫学
 平成20年のMCTDの厚生労働省個人調査票を基準とした調査では全国で約8600人の登録が確認されている.男女比は1:16~19と圧倒的に女性が多い.発症年齢は20~50歳に多く,特に31~40歳代にピークがある.また,膠原病の家族発症も8.5%に認められている.
病理・病態生理
 KellyらはU1 RNPの構成成分であるU1 RNAはToll 様受容体 (TLR)-7を介して樹状細胞におけるtypeインターフェロンを誘導し,その分化を誘導することを明らかにし,U1 RNAが内在性のアジュバントとして自己免疫の病態の誘導に重要な役割を有している可能性を論じている.一方,抗U1 RNP抗体は,in vitroの実験系でU1 RNPの細胞内機能であるmRNA前駆体のスプライシングを抑制することが知られているものの,抗体自体の病因的意義は不明である.
 MCTDの病理所見は基本的にSLE,SScおよびPMのそれと変わりない.腎臓にもSLEと同様の糸球体病変を認めるが,SLEに比較しいわゆる微小変化群の占める割合が高い.SScと同様の皮膚病理所見とともに,腎,肺などの動脈の内膜や中膜の線維性の肥厚も出現する.
臨床症状
 定型的オーバーラップ症候群と診断される群では一般にSLEのループス腎炎,蝶形紅斑および中枢神経症状,SScの広範な皮膚硬化,関節リウマチ(RA)の骨破壊性関節炎や,PMにおける著明な筋系酵素の上昇と筋力低下などの各疾患の特徴的な病態が共存して認められる.
 一方,MCTDにおいても表10-7-1に示すように各疾患の臨床像が混在するが,一般に軽症型が多い.全身症状では発熱,全身倦怠感,易疲労性,体重減少などが認められ,活動期に出現することも多い.
 局所症状として最も高率に認められるものはRaynaud現象で,ソーセージ様手指や手背の腫脹とともに本症を特徴づける所見となっている.手指硬化や先端硬化症も出現するが,一般にSScより程度は軽い.多発性関節痛はほぼ全例,関節炎は60~70%の症例に認められる.欧米の報告ではRAと同様の骨破壊性関節炎が約30%の症例に認められ,RAもMCTDのスペクトラムの1つと考えられている.近位筋を中心に筋力低下や筋痛などの筋症状も高率に認められ,筋原性酵素が上昇する.
 消化器病変では食道拡張や蠕動運動不全が代表的な所見で,ときに難治性食道潰瘍の併発を認める.
 肺病変として間質性肺炎が30~50%以上の症例に出現する.しかし,SScのように著明な線維化を認める症例の頻度は30%以下である.一方,肺高血圧症の出現頻度は10%以下と低いものの,比較的予後良好とされるこの疾患の死因の50%以上を占め,難治性の経過をとる.呼吸困難,胸痛,および血痰などの症状に加え,聴診上,Ⅱ音の肺動脈成分の増強,および分裂,肺動脈弁領域の駆出性雑音を認める.進行例では胸部X線写真にて左第2弓の突出,末梢血管影の減弱,右室肥大などの所見を認める.心電図では肺性P,右軸偏位右室肥大などの所見が認められる.心臓超音波検査が有用な情報を提供し,確定診断のために右心カテーテルが行われる.また,肺高血圧症は肺の線維化の程度とは相関しないが,爪郭の毛細血管の拡張像が肺高血圧症とよく相関するとされている.
 蛋白尿や尿細胞円柱などは10~25%の症例に出現するが,本症の腎症はステロイドによく反応し,一般に軽症の経過をとる.
 中枢神経症状としては無菌性髄膜炎,精神症状,痙攣発作などSLEと同様の障害が報告されている.末梢神経障害としては三叉神経痛がしばしば認められ,難治性の経過をとる.
検査成績
 MCTDでは蛍光抗体間接法にて抗U1 RNP抗体による斑紋型の抗核抗体が全例で検出される.抗U1 RNP抗体の同定は二重免疫拡散法(DID)もしくは酵素免疫法(ELISA)で行うが,その力価は非常に高い.
 その他の血清学的所見としては高ガンマグロブリン血症,リウマトイド因子,抗dsDNA抗体,LE細胞などの所見が認められる.赤沈は高ガンマグロブリン血症によく相関して上昇する.CRPは関節炎や漿膜炎などが存在する場合に上昇するが中等度から軽度である.血清の低補体価や免疫複合体も検出されることがある.
診断
 抗U1 RNP抗体陽性を確認し,厚生省研究班によって提唱された診断の手引きを用いて診断する(表10-7-1).
鑑別診断
 オーバーラップ症候群の鑑別には抗U1 RNP抗体とともにSScとPMの重複症状に相関する抗KuやPM-Scl抗体などの血清学的所見が参考になる.
経過・予後
 SLEおよびPM様症状は治療に反応して軽快するがSSc様所見が遷延化する.死因としては肺高血圧,呼吸不全,心不全などが高率となっている.MCTDの予後は良好と報告されていたが肺高血圧症などの病態は予後不良で問題となっている.
治療・予防
 Raynaud現象および関節痛などの症状を認め,臓器病変を有さない軽症例では循環改善薬や非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を投与し,経過をみる.発熱,リンパ節腫脹などの全身症状に加え,著明な関節炎や臓器障害が出現した場合にはステロイドによる治療を行う.ステロイドの投与量は個々の症例が有する病態の重症度に応じて決定する.肺高血圧症に対しては,抗凝固療法,プロスタグランジン製剤,さらに,シルデナフィルやボセンタンが用いられる.
 Raynaud現象が著明な症例では普段から寒冷被曝を避けるように指導する.
禁忌
 イブプロフェンなどのNSAIDsとニューキノロンを併用すると無菌性髄膜炎を発症するリスクがあることが報告されている.[髙崎芳成]
■文献
Kelly KM, Zhuang H, et al: "Endogenous adjubant" activity of the RNA components of lupus autoantigens Sm/RNP and Ro60. Arthritis Rheum, 54: 1557-1567, 2006.
Sharp GC, Irvin WS, et al: Mixed connective tissue disease-an apparently distinct rheumatic disease syndrome associated with a specific antibody to an extractable nuclear antigen(ENA). Am J Med, 52: 148-159, 1972.
髙崎芳成:混合性結合組織病と重複症候群.膠原病診療のミニマムエッセンシャル(戸叶嘉明,阿部香織編),pp157-161,新興医学出版社,東京,2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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