改訂新版 世界大百科事典 「清新体」の意味・わかりやすい解説
清新体 (せいしんたい)
dolce stil novo
13世紀から14世紀にかけてフィレンツェを中心に活躍したイタリアの詩派。この呼称は青年時代この流派に加わったダンテが《神曲》の中で用いたもので(煉獄篇第24歌),シチリア派や旧世代のトスカナの詩人から自分たちの詩風を区別する〈新しい優美な様式〉を指していったものである。この流派の創始者とされるのはボローニャ出身の詩人グイニツェリ(1240ころ-76)であり,ダンテのほか,G.カバルカンティ,チーノ・ダ・ピストイア(1270ころ-1337ころ)らが代表的詩人である。同派の新しさは言葉(トスカナ語)の精錬を通じて心地よい響きを得ようとする文体的側面にあると同時に,その中心的主題であった〈愛〉の概念の中にも認められる。グイニツェリは〈愛は常に気高き心に宿る〉とそのカンツォーネで歌ったが,この気高さは血統や騎士道的徳目ではなく,各人が潜在的に有している精神的美徳,自己を高めようとする希求のうちに存する。それを顕在化するのが愛にほかならず,愛に人間を目覚めさせその魂を浄化するのが神から遣わされた天使ともいうべき貴婦人である。こうして愛や貴婦人に以前よりいっそうの超俗性・精神性が賦与されることになったが,愛の内面化を徹底させ同派の傑作《新生》を残したのがダンテである。清新体はシチリア派など先行する詩派から受け継いだ技法や概念を革新し,ペトラルカの抒情詩に連なる道を切り開いた。
執筆者:長神 悟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報