改訂新版 世界大百科事典 「炉外精錬法」の意味・わかりやすい解説
炉外精錬法 (ろがいせいれんほう)
転炉や電気炉などでつくられる溶鋼を,必要に応じてこれらの炉外で精錬する方法。炉外精錬法のうちで取鍋(とりなべ)/(とりべ)を用いて精錬するものを取鍋精錬法と呼ぶこともある。転炉,電気炉などを用いて大気中で溶解,精錬を行った溶鋼は,水素,酸素,窒素などのガス成分による汚染を受けやすく,これが製品の欠陥につながる。また需要者側の鋼使用に関する技術も進み,品質に対する要求はますます多様になり厳しくなっている。すなわち,鋼中のガス成分,非金属介在物などの不純物の減少,成分範囲の縮小と安定などがますます重要になっている。このような要求を満たすため,転炉や電気炉での精錬技術の開発,改善が進められてきたが,それには限界があった。すなわち,十分にその品質要求を満たしえないか,たとえ満たしえたとしても能率,コスト面での問題を生ずるようになってしまう。したがって従来の製鋼炉(転炉,電気炉など)にすべての精錬機能をもたせるのではなく,一部の機能を別の適当な装置で行うという考え方によって,炉外精錬法が生まれた。このようにして,多岐にわたる品質を確保するとともに,能率,コスト面の改善が可能になってきた。
溶鋼中の水素,酸素,窒素などのガス成分を除去する方法として,減圧状態に溶鋼をさらせばよいことは古くから知られており,この原理を応用して大気中で溶解した溶鋼を真空中へ導いて脱ガスさせ精錬する方法を真空精錬法という。19世紀末には真空精錬法の各種の特許が提出されたが,当時は高性能の真空ポンプもなく,工業規模の設備を設けることができなかった。1952年に開発された流滴脱ガス法として知られる真空脱ガス法は,鋼中の水素除去を目的としていたが,これが今日の炉外精錬法の始まりである。56年には真空吸上式のDH法,58年には環流式のRH法が開発され,水素のみではなく,酸素,炭素,酸化物系介在物の除去機能をも果たすようになった。大量の溶鋼を処理しうることから転炉用に普及し,しだいに電気炉にも採用されるようになった。これらの真空脱ガス法は取鍋の加熱装置をもっていないが,64年に開発されたASEA-SKF法は,取鍋内溶鋼に電磁誘導かくはん(攪拌)とアーク加熱を併用させ,溶鋼の温度を上昇できるようにした点に特徴がある。ついで67年にはアルゴンガスで溶鋼をかくはんさせるVAD法,71年には電気炉の精錬機能の一部を取鍋に移行した形式のLF法などが開発され,酸素とともに硫黄の除去が取鍋で行われるようになった。以上の方法はおもに炭素鋼および低合金鋼の炉外精錬を目的としているが,ステンレス鋼の精錬を合理化したものがAOD法,VOD法などであり,クロムの酸化による損失を抑制しながら,炭素を選択的に除去している。これはおもに電気炉の溶鋼に適用されるが,転炉の溶鋼をRH法の改良方式で処理するRH-OB法も開発されている。
(1)DH法 吸上管を溶鋼に浸漬して真空槽内を減圧にすると,溶鋼は1気圧相当の高さ(約1.5m)まで真空槽を上昇してくる。その後,取鍋を上昇,または真空槽を下降させると,その高さだけ溶鋼面は真空槽内を上昇する。100t溶鋼の場合,1回の移動で約15tの溶鋼が急激に吸い上げられ,この上昇,下降を1分間に3~4回行うので,毎分50t程度の溶鋼が真空槽内で処理されることになる。
(2)RH法 真空槽に接続された上昇管と下降管を取鍋内溶鋼中に浸漬し,槽内を排気すると,溶鋼は1気圧相当の高さまで真空槽を上昇してくる。そこで上昇管よりアルゴンガスを吹き込むと,ガス気泡を含んだ上昇管内の溶鋼の見かけ比重が小さくなり,溶鋼は上昇する。一方,下降管側は比重が大きいため下降する。これが連続的に行われ,溶鋼は順次槽内の真空下にさらされ,ガス成分が除去される。300t溶鋼の場合,毎分約100tの溶鋼が環流する。1970年代になると,DH法に対する優位性がしだいにはっきりし,転炉と組み合わされる炉外精錬法としては最も広く採用されるようになった。
(3)VAD(vacuum arc degassing)法 減圧下でアーク加熱を行える点に特徴があり,ガス成分の除去と同時にスラグによる硫黄の除去も可能である。おもに電気炉溶鋼に用いられる。
(4)LF(ladle furnace)法 日本で開発された技術である。取鍋内溶鋼上の合成スラグ中でアークを発生させ,アルゴンによるかくはんを行いながら取鍋内を非酸化性雰囲気に維持した状態で精錬を行う。電気炉の生産性向上をはかるための最も設備費の安い方法として登場したが,その後,酸素,硫黄,リンの除去能力と成分調整の安易さに着目して,転炉と組み合わせて広く採用される傾向にある。
(5)AOD(argon oxygen decarburization)法 ステンレス鋼の精錬法として,きわめて急速に普及している。ステンレス鋼の精錬には,クロムの酸化を抑え,炭素を優先的に酸化させることが重要である。そのために,酸素ガスをアルゴンガスと混合して炉底近傍側壁から吹き込む方法をとっている。
(6)VOD(vacuum oxygen decarburization)法 ステンレス鋼の真空脱炭法として広く普及している。真空槽の上ぶたを通して,酸素ガス吹込み用のランスが設置されている。電気炉または転炉で,炭素を0.4~0.5%におとして出鋼された溶鋼を精錬する。
執筆者:宮下 芳雄
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