真空ポンプ(読み)しんくうぽんぷ(英語表記)vacuum pump

翻訳|vacuum pump

日本大百科全書(ニッポニカ) 「真空ポンプ」の意味・わかりやすい解説

真空ポンプ
しんくうぽんぷ
vacuum pump

大気圧以下の低圧気体を吸引し、圧縮して大気中に放出することにより、容器内の真空の度合いを高める装置。圧縮機一種である。真空度合いの表示方法は、大気圧を基準としたゲージ圧と、絶対真空を基準とした絶対圧が用いられる。従来、トリチェリにちなんだトルTorr(水銀柱高さで表した絶対圧力)や水銀柱ミリメートルが用いられたが、新しく制定された国際単位系(SI単位)では圧力の単位としてパスカルPaを用いることになっている(1Torr=1mmHg=133.322Pa)。そのほかに、大気圧を0%、絶対真空を100%とする真空度が用いられることもある。

池尾 茂]

機械的真空ポンプ

圧縮機として使用可能なものは、すべて真空ポンプとして利用でき、多段ターボ圧縮機、往復圧縮機、ねじ圧縮機、ルーツブロワーroots blowerなどが、機械的真空ポンプとして用いられているが、到達真空度は低い。

 一般的な機械的真空ポンプには、水封式と油回転式がある。水封式真空ポンプでは、円筒形ケーシングに水を入れ、偏心して取り付けられた羽根車を回転させると、水は遠心力でケーシングの外周部に同心円状に付着し、2枚の羽根と水面との間の空間の容積は羽根車の回転とともに変化する。したがって、吸込み口から吸入された気体は羽根車内で体積が徐々に減少していき、大気中に放出される。このポンプの到達真空度は絶対圧で15キロパスカル程度で高くないが、水を含んだ空気を吸い込んでも作動上まったく影響がない。そのため、中形や大形ポンプに必要な呼び水用真空ポンプとして広く用いられている。

 油回転式真空ポンプは、ローターステーターシリンダー)との間の摺動(しゅうどう)部を油でシールすることにより、漏れを防ぎ、体積効率を高め、高真空度を得られる。1段で絶対圧1.3パスカル、3段で0.13パスカル程度の真空が達成できる。広く用いられているものにカム式、ベーン式、振り子式(キニー式)がある。カム式ポンプは、ばねでローター面に押し付けられている仕切り板、シリンダー、偏心ローターとに囲まれた空間の容積がローターの回転とともに変化し、気体は吸込み口から吸入され、圧縮され、排出される。ベーン式ポンプの作動原理はカム式とまったく同じで、偏心ローターの溝に挿入されたベーンをばねでシリンダーに押し付け、ベーンとローターとシリンダーとに囲まれた空間の容積変化を利用している。振り子式ポンプは、偏心ローターの回転に伴う振り子の揺動を利用している。吸込み口は振り子と一体につくられており、ローターの回転により開閉する。カム式やベーン式と異なり、ばねの破損による故障はないが、振り子の揺動により振動が生ずる。

[池尾 茂]

拡散ポンプ、イオンポンプ

機械的真空ポンプでは到達できない高真空を実現するために、拡散ポンプ、イオンポンプなどが用いられる。拡散ポンプは、補助真空ポンプで、ある程度真空度を高め、その後、油または水銀を加熱、蒸発させてノズルから噴出させ、その噴流とともに気体分子を外部へ排出するもので、油を使用した場合10-5パスカルの真空を実現できる。イオンポンプでは、陽極と陰極との間に高い電位差を与え、それによって誘導された電子を気体分子と衝突させ、分子をイオン化させる。正の電荷を与えられてイオン化した気体分子は陰極に集められ、容器内の気体分子は少なくなる。その際、高密度の磁場によって電子が長い螺旋(らせん)状の軌道を描き、電子と分子の衝突の機会が多くなるようくふうされている。このポンプは粒子加速器、X線管などに用いられている。

[池尾 茂]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「真空ポンプ」の意味・わかりやすい解説

真空ポンプ
しんくうポンプ
vacuum pump

容器内の気体を排除し,目的とする減圧状態 (大気圧以下の状態) を保つために使用される機械や装置の総称。原理の異なるものが数種類あり,それぞれ性能上異なった特徴をもっているので,希望する到達真空度に合せて用いる。低真空 (大気圧から 10-1Pa 程度) 用としては,水流ポンプ,機械力による往復式,回転式,遠心式などのポンプ,中程度の真空 ( 10-2Pa 前後) 用としてはメカニカルブースタ,中~高真空用として,ターボ分子ポンプ ( 10~10-8Pa ) ,油拡散ポンプ ( 10-1~10-6Pa ) ,超高真空用としては,分子の吸着力を利用して低温にして用いるクライオポンプ ( 1~10-8Pa ) ,イオンの動きを利用するゲッターポンプ ( 10-3~10-9Pa ) などがある。

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