日本大百科全書(ニッポニカ) 「無反射ガラス」の意味・わかりやすい解説
無反射ガラス
むはんしゃがらす
anti-reflective glass
ガラスは、空気との接触面で片面約4%、両面約8%の反射率をもっているが、その反射率を表面処理により低減したガラス。反射防止ガラスともいう。高い透過性能が求められる太陽電池、ガラス内側の展示物の見やすさが要求される美術館の展示ケースや絵画のカバーガラス、ショーウィンドー、ディスプレー、カメラの接写用ガラスなどでは反射率が1%以下の無反射ガラスが利用されている。作製方法として、コーティング法、表面改質法、凹凸加工法がある。コーティング法は、ガラスよりも屈折率の低い材料(フッ化マグネシウムMgF2など)をコーティングするか、低屈折材料(MgF2や二酸化ケイ素SiO2など)と高屈折率材料(五酸化タンタルTa2O5、酸化チタンTiO2、二酸化ジルコニウムZrO2など)を交互に2層以上コーティングすることによって得られる。いずれも光学的干渉作用を利用して反射率を抑制している。多層にすることで、反射率やその波長依存性を小さくできる。片面4%に対して10分の1以下の低反射化が実現されている。手法として、電子ビーム蒸着やスパッタ法(加速したイオンをターゲットに衝突させて原子や分子を放出させることにより、基板上へ薄い膜を形成する方法)などの真空成膜法、金属の有機および無機化合物を加水分解してゾルを得、それをゲル化して固化させるゾル‐ゲル法などがある。表面改質法は、ガラスを適当な薬液に浸漬(しんし)することでガラス表面を変質させ、基板より屈折率の低い層を形成させる。ガラス内部からガラス表面に向かって屈折率が低くなるような勾配(こうばい)を設けることで、反射を抑える。凹凸加工法は、ガラス表面に微小な凹凸をつけ、ガラス面に当たる光を散乱させることで反射を抑えるものである。凹凸をつける手段として、ガラス融液を金属ロールで挟み込み、ロール表面の形状を転写させる方法や、シリカ微粉末をガラス表面に吹き付けてガラスを機械的に削る方法、フッ酸などの薬液に浸漬しエッチングする手法などがある。
[伊藤節郎]