日本大百科全書(ニッポニカ) 「特殊ガラス」の意味・わかりやすい解説
特殊ガラス
とくしゅがらす
窓ガラス、瓶ガラス、コーヒーサイフォンなど、日常の生活に数多く使われている一般性のあるガラスに対して、科学、技術方面の特殊な分野に用途をもつガラスをいう。本項では特殊な製造法にも触れることとする。
[境野照雄]
おもな特殊ガラス
近年ガラスの用途は拡大されており、その種類もさまざまであるが、そのおもなものに次のようなものがある。
[境野照雄]
カルコゲン化物ガラス
実用ガラスの大部分が酸化物であるのに対し、硫黄(いおう)、セレン、テルルなどの化合物からできたガラスで、軟化点が極度に低く、深赤色から黒色で赤外線をよく通し、半導性をもつものが多い。赤外線用の光学素子、スイッチング素子、光メモリー素子など、光学、電気関係に用途が広い。二次電池の電極や固体電解質などとしても応用され始めている。
[境野照雄・伊藤節郎]
線量計ガラス
放射線の照射によってガラスが着色したり、蛍光を発するようになったりする現象を利用して、放射線量を測定するもので、ボタンのように小型で携行に便利である。コバルト、鉄とマンガン、銀などの微量を含むガラスが使われている。
[境野照雄]
ソルダーガラス
はんだガラスともよばれ、400~600℃で溶融するから、ガラスとガラスあるいは金属との封着、接着に用いられる。PbO-B2O3,PbO-B2O3-ZnO系などのガラスが適しており、ガラスの粉末を有機溶媒で練ったりして使うことが多い。電球、X線管球そのほか電子工業に用途が広い。環境の観点から酸化鉛のかわりに酸化ビスマスを使う場合が多くなっている。また、熱処理後に結晶化する結晶性はんだガラスも使われている。
[境野照雄・伊藤節郎]
超硬ガラス
石英ガラスより硬いものが、イットリウム、ランタン、チタンの酸化物を含むアルミノケイ酸塩ガラスとして開発されており、高価なサファイアなどのかわりに時計、計器などのカバーとして使われている。
[境野照雄]
特殊ガラスの製法
一般のガラスは原料を高温で溶融してつくられているが、そのほかにもガラスを得る方法は多く、そのなかで実用化されつつあるものに化学蒸着法、ゾル‐ゲル法がある。
[境野照雄]
化学蒸着法
CVD法ともよび、気体状の原料を気相で反応させて、生じた固相の超微粉を適当な担体の表面に付着(蒸着)させ、加熱してガラス化する方法。るつぼ、その他の容器を用いないので、不純物混入の危険が少ない。光通信用グラスファイバーの原形をつくる例では、四塩化ケイ素、四塩化ゲルマニウム、酸素などの適量の混合気体を高温で加熱分解して、反応生成物である二酸化ケイ素(一定量の酸化ゲルマニウムを含む)の超微粉を管の内壁や種棒に均等に厚く付着させてつくる。
[境野照雄・伊藤節郎]
ゾル‐ゲル法
シリカガラス(石英ガラス)を例にとれば、ケイ素のメチルあるいはエチルアルコラート(メトキシドあるいはエトキシド)のアルコール溶液を常温でゆっくり加水分解してゲル状としたものを、減圧、加熱などの操作を施して、ゲル内部の水、過剰なアルコールをしだいに抜いてゆくと、超微細な多孔体を経て1000℃程度でシリカガラスが得られる。るつぼ溶融法では製造困難な特殊ガラスが比較的低温で得られるという特徴があり、多成分ガラスもつくられている。この工程中に得られる多孔性ガラス(ほかにホウケイ酸ガラスの分相を利用してもできる)は1グラム当り数百平方メートルの表面をもち、かつ透明なので、ウイルスなどの分離、吸着を利用した特殊反応の遂行、海水の真水化などのほか、必要な酵素を多孔性ガラスによって固定し、酵素を利用した反応を連続的に進めることができるため、バイオテクノロジーの分野で注目されている。
[境野照雄・伊藤節郎]
『山根正之・安井至・和田正道・国分可紀・寺井良平・近藤敬・小川晋永著『ガラス工学ハンドブック』普及版(2010・朝倉書店)』