日本大百科全書(ニッポニカ) 「無線タクシー」の意味・わかりやすい解説
無線タクシー
むせんたくしー
車両に無線機を取り付け、利用者からの電話やアプリ(アプリケーション・ソフトウェア)による申込みに応じて配車を行うタクシー。無線タクシーは、タクシー事業者が電波法に基づき各電波通信監理局から陸上移動局としての免許を受けることによって営業を開始できる。
日本の無線タクシーは1953年(昭和28)2月、札幌市の北海道交通株式会社が実用試験局として免許を受けてスタートしたことに始まる。タクシー近代化の一環として無線化が進行する過程で、1970年代にAVMシステム(Automatic Vehicle Monitoring System:車両位置等自動表示システム)が導入された。AVMシステムは、利用客に一番近いタクシー車両の位置をオペレーターが正確に把握し配車できる点で、無線タクシーの効率的運行に役だっている。1990年代になると、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)で車両の位置を正確に把握する、GPS-AVM配車システムが登場した。
無線タクシーには、利用客とタクシー事業者を中継する無線基地局の設置が必要である。無線基地局数は、2010年(平成22)3月末時点で5954局であった。しかし、2022年(令和4)3月末になると2527局にまで減少した。この背景には、電波法基準改正(2003年。総務省、電波法関係審査基準の一部を改正する訓令)に基づき、タクシー無線がアナログからデジタルへと2016年5月末までに移行したこと、およびとくにIP無線の普及があげられる。IP(Internet Protocol)とは、複数の通信ネットワークを相互接続して単一ネットワーク化し、データ通信を助ける規約である。タクシー無線のデジタル化とIP無線の普及は、タクシー事業者によるタクシー無線からIP無線への切替えを促進した。IP無線は、おもにスマートフォンのデータ通信機能を利用する無線システムであるため、タクシー事業者独自の無線基地局は不要になったのである。さらに、タクシー無線がIP無線になったことで、音質が向上しただけでなく、配車に必要なGPS位置情報や画像などのデジタルデータの通信も容易になった。
一方、一部のタクシー事業者は、デジタル対応のタクシー無線を使用しているために、現在でも無線基地局を必要としている。アナログ時代と同じ形式であっても、デジタル化の恩恵を受けて、オペレーターを仲介するGPS-AVM配車システムは、利用客による電話注文だけでなくインターネット注文にも対応できるようになった。
[藤井秀登 2023年6月19日]
配車アプリの登場
ICT(情報通信技術)の進展は、IP無線に切り替えたタクシー事業者の効率的な経営を支えるシステムになってきている。たとえば、オペレーターにかわって利用客がスマートフォンを介してタクシーを直接よべる配車アプリの登場があげられる。国内のおもな配車アプリとして、GO(ゴー)、S.RIDE(エスライド)、DiDi(ディディ)、Uber(ウーバー)などがある。配車アプリの多くは、クレジットカードなどによる電子決済に対応している。したがって、乗車前に運賃が確定する事前確定運賃と連動した配車アプリであれば、利用客は乗車前や乗車中に支払いができる。すなわち、利用客にとって、事前に運賃がわかり、必要な時間と場所でタクシーが利用できることになる。また、タクシー事業者にとっては、空車走行を減らすことにつながり、競争的な市場において高確率で受注できることになるため、2010年代の終わりごろから、配車アプリを活用するタクシー事業者が増えてきている。ただし、配車アプリの種類により、配車できる地域は異なっている。なお、配車アプリを使用しない利用客についても考慮する必要があり、IP無線を導入しても、従来どおりのオペレーターを経由した電話注文を継続することがタクシー事業者には求められる。
[藤井秀登 2023年6月19日]
『一般社団法人全国自動車無線連合会編・刊『タクシー無線』No.61(2022)』