物質収支(読み)ぶっしつしゅうし(その他表記)material balance
mass balance

改訂新版 世界大百科事典 「物質収支」の意味・わかりやすい解説

物質収支 (ぶっしつしゅうし)
material balance
mass balance

質量収支ともいう。化学プロセスなど物質の流れを扱うシステムを解析するための基本的な概念と方法。物質収支の基本となるのは物質の質量保存則である。物質は保存されるから定常状態にある連続プロセスでは,単位時間にシステムに出入する物質の量はちょうどつり合っていなければならないという原則である。ここで保存される物質というのは,条件によって変わる。反応のない系では各分子が,反応する系では各元素が,それぞれ保存される。物質がシステムに出入する経路としては,流動拡散,反応などがある。物質が保存されるというこのあたりまえな原則がシステムの解析になぜ役に立つかというと,出入するいくつもの経路があるとき,そのすべてを全部測らなくても,この原理から一つを推定することができるからである。たとえば反応する系では,原料成分の流動と拡散を調べて物質収支をとれば,反応量を推定できる。拡散量を推定することが有効な場合も多い。物質収支はシステム全体に対して適用できるだけでなく,システムのどの部分についても適用でき,有用な解析手段となる。
熱収支
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「物質収支」の解説

物質収支
ブッシツシュウシ
material balance

物質不滅の法則を,化学反応を含む装置の一部または全部,およびプラントあるいは工場全体にあてはめるとき,これを物質収支という.ある特定の系のなかに入ってくる物質の量は,そこから出ていく物質の量とその系内に蓄積される物質の量の合計に等しいというのが,物質収支の原理である.ただし,その過程中に損失となるものがあれば当然出量の項に付け加えられる.

入量 = 出量 + 蓄積 + 損失

系を出入りする物質は純物質ばかりでなく,混合物の場合もある.また,系内で化学変化を起こしたり,相の変化を起こしたりする場合があっても,全量に対してはもちろん,各成分ごとにも物質収支は成り立つものである.この物質収支は,装置,プラント,あるいは工場の設計,計画に際して不可欠のものであり,また装置やプラントの性能試験に際してもその効果を発揮する.また,測定できない未知量を決定する際に物質収支はきわめて有効である.たとえば,炉の性能試験では,多くの場合,燃焼に用いた膨大な空気量あるいは燃焼生成ガス量を直接に計量することは,通常不可能である.しかし,燃料を計量し,その成分を分析し,また燃焼ガスの組成を分析することは容易である.これらの値をもとに物質収支を適用すると,燃焼用空気量,生成ガス量,空気過剰率などをかなりの精度で求めることができる.入量,出量のすべてを測定できる場合には,物質収支は測定値の精度を調べるのにも役立つ.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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