改訂新版 世界大百科事典 「特務艦艇」の意味・わかりやすい解説
特務艦艇 (とくむかんてい)
旧日本海軍で用いられた艦艇の分類名称の一つで,直接戦闘には参加しないで,各種作戦の支援など雑多な任務に従事する特務艦と,主として港湾防備など局地防衛に用いられる小型の特務艇の総称。両者には本質的に大きな差があった。特務艦は,特務艦艇類別標準により,工作艦,砕氷艦,測量艦,標的艦,練習特務艦,運送艦(給油艦,給炭艦,給炭油艦,給兵艦,給糧艦および雑用艦)に分類された。任務が多岐にわたっているので,排水量も数百トンから数万トンにも及び,性能はその用途によって大差があったが,その任務に応じた特殊設備を有した艦が多い。特務艦の大多数は商船式構造の運送艦であったが,構造,艤装(ぎそう)とも軍艦に準ずるものもあった。特務艇は敷設特務艇,哨戒特務艇,駆潜特務艇,掃海特務艇,海防艇,電纜(でんらん)敷設艇および魚雷艇に分類されていた。特務艇は一般に航洋性に乏しく,艤装も簡便である。魚雷艇以外は排水量もおおむね100~300トンで,一般に特務艇として新造されたものは小型商船または漁船式船体構造のものが多かった。戦時急造の駆潜特務艇および哨戒特務艇は木造である。この種の艦艇の類別と種別は国により異なり,アメリカ海軍では直接戦闘に参加する戦闘艦combatant shipに対し,この種の艦艇を補助艦艇auxiliary shipと称している。海上自衛隊もアメリカと同様これらの艦艇を補助艦艇に分類している。これらの艦はその任務によって次の4種類に大別される。(1)基地間の物資輸送,洋上の艦隊に直接,燃料,弾薬,糧食,各種物資を補給する各種補給艦。(2)洋上,前進基地などで艦艇の修理,乗員の保養などを行う工作艦,各種母艦。(3)乗員の訓練,そのほか各種訓練の支援を行う練習艦,救難艦。(4)海洋調査,測量,科学調査,宇宙開発支援などを行う各種観測艦,砕氷艦などである。海上自衛隊の艦船分類では,補助艦艇の中に特務艦と特務艇の名称があり,前者は現役を退き有事の際には旧任務に復す雑用艦で,後者は高速救助艇,迎賓艇,雑用艇である。
執筆者:出光 照生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報