現地生産(読み)げんちせいさん

改訂新版 世界大百科事典 「現地生産」の意味・わかりやすい解説

現地生産 (げんちせいさん)

企業が海外に生産拠点を設け,そこで生産活動を行うこと。企業が海外に進出し現地生産を行う要因としては,(1)石油をはじめとする海外資源の確保,(2)海外市場の確保,(3)高率関税,輸入制限,輸入禁止といった貿易障壁,または貿易摩擦への対応,(4)発展途上国の工業化のための国際協力,(5)海外の低廉な労働力の確保,(6)大企業の海外進出に対応した,関連部品メーカー,加工メーカーの現地進出,(7)世界的な経営戦略の一環としての地域拠点づくり,などがある。

 日本企業の第2次大戦後の現地生産の歴史をみると,1955年前後からアラスカ・パルプ,アラビア石油など資源確保型の現地生産が始まり,60年代半ばころからは若年層の労働力不足を背景に,家庭電器,繊維2次製品,カメラ部品,印刷などの諸分野で,海外の低廉な労働力を求めて,香港台湾,韓国などへの進出が活発になった。従来これら製造業の海外進出先は発展途上国に限られていたが,近年ではカラーテレビ,オーディオ機器二輪車,自動車などの分野で,欧米先進国との貿易摩擦が深刻化するなかで,製品輸出から現地生産への転換をはかる企業が増えており,先進国への進出も目だっている。貿易摩擦の回避を意図した現地進出の場合,従来のように部品を現地に輸出し,現地ではそれを組み立てて完成品にするだけといった〈ノックダウンknockdown〉方式では,雇用吸収効果が小さいため,より本格的な生産ラインをもった大規模工場の設立が,失業問題の深刻な進出先から要請されている。

 製品輸出や技術輸出と比べると,現地生産には,(1)成功すれば長期にわたり大きな利益が得られる,(2)相手国の輸入禁止,輸入制限,さらに関税障壁強化といった政策の影響を受けない,(3)アフター・サービスを十分かつ迅速に実施できる,(4)製品を市場まで運ぶ物的流通の期間が短い,(5)技術を盗まれる危険が少ない,(6)品質管理が徹底しやすい,(7)生産拠点を通じて現地に関する多くの情報が得られる,といったメリットがある。その反面,(1)多額の投資を必要とする,(2)撤退が容易でない,(3)海外事業要員,とりわけ海外への派遣員を多く必要とする,(4)当初から安定的な利益をあげることが難しい,といったデメリットもある。また,いわゆる〈日本的経営〉をどのように現地生産に導入するか,という問題も生ずる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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