フロイトの性心理的発達段階において口唇期、肛門(こうもん)期に続く第3段階で、およそ3歳から6歳の時期のことをいう。身体的に成熟し、男女両性の身体的な差異に関心が集まってくるため、性的エネルギーと攻撃的エネルギーが性器(ペニスとクリトリス)に向けられる時期である。しかしこの時期の児童には、生物学的な意味での男女の区別はなく、男根をもつものともたないもの、言い換えれば去勢されていないものと去勢されたものとの区別しかないので男根期とよばれる。男根期においては対象愛は親に向けるほかはなく、男の子にとっては母親が愛の対象となるが、この愛は母親から拒絶され父親から復讐(ふくしゅう)されるかもしれないという不安を引き起こす。そのため対象愛は抑圧され、同性の親との同一視がおこり超自我が形成される。このように男根期は、エディプス・コンプレックスが出現し、衰退していく時期でもあるのでエディプス期ともいう。なお、男根期やエディプス・コンプレックスの概念は、男性優位の考え方であるとしてフェミニストから批判の対象となっている。
[川幡政道]
『エリザベス・ライト著、椎名美智訳『ラカンとポストフェミニズム』(2005・岩波書店)』▽『ジークムント・フロイト著、中山元編訳『エロス論集』(ちくま学芸文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…上のようなフロイトの心的装置論は,今日の精神分析においてもおおむね継承されているが,新生児が混沌たるエスの塊であるという見方は疑問視されており,自我はきわめて早期に形成されてくるという見方が有力となった。 〈口唇期〉にはじまり〈肛門期〉〈男根期〉〈潜伏期〉を経てついに〈性器期〉に統合されるというフロイトの唱えた精神性的発達理論は,性愛の発達を核心に据えた一つの発達心理学である。フロイトは,口唇や肛門が対象――精神分析用語で人間対象を意味し,一個の人間全体は全体対象であり,乳房やペニスは部分対象である――との接触(たとえば授乳時の口唇)において,ないしはそれ自体の機能(たとえば便をためこんで排出するさいの快感)として,エロティックな機能を本来そなえていると同時に,これらの器官の機能を通して養育者に対する陰陽種々の感情がはぐくまれることに着目した。…
…男性のペニス(男根)に対して女性が無意識的・意識的に抱く羨望をいう。フロイトの幼児性欲論に従えば,男根期(3,4歳~6,7歳)の前半において,女児は,自己の身体にペニスがないことを発見し,やがてこれを承認するようになって,男の子になりたい,すなわち男の子のようにペニスを所有したいとうらやむようになる。これはあたかもエディプス期に一致しているので,ペニスを与えてくれなかった母を軽視し,父のペニスを所有したいという願望空想となる。…
…この快感獲得をめざす幼児は,便をぎりぎりまでためこみ一挙に排出するので,親のトイレット・トレーニングの意のままにはならない(肛門期)。3,4歳から5,6歳になると男女ともに性器への興味をはっきり示すようになるが,それは性交を表象する興味ではなく,積極性や格別の快感をもたらすものとしての男女に共通する男根(ペニス)への関心である(男根期)。なお吸乳時において乳首を嚙むこと,ならびに排便時における貯留と排泄とには,サディスティックな満足がからむ。…
※「男根期」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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