最新 心理学事典 「発達段階」の解説
はったつだんかい
発達段階
developmental stage,stages of development(英),stades de de´veloppement(仏)
【発達の法的区分】 伝統的に用いられてきた発達区分として「子ども/おとな」がある。かつてわが国では,男児の元服や女児の裳着(もぎ)という儀式が子どもからおとなへの移行の節目の確認として行なわれた。今日の成人式もたしかに子どもからおとなへの移行の確認の儀式であるが,その前後で姿かたちや身なりや生活様式が変化することはほとんどないので,かなり形骸化している。
発達区分として重要なものに,法的区分がある。子ども/おとなの法的区分は,民法第4条において「年齢20歳をもって,成年とする」と規定されている。未成年者は,法定代理人(通常は親)の同意を得なければ法律行為を行なうことができない(同法第5条1項)。
非行や刑事事件での取り扱いに関しては,少年法第2条において「この法律で『少年』とは,20歳に満たない者をいい,『成人』とは,満20歳以上の者をいう」と定義している。刑法に触れる犯罪を犯した場合,少年と成人では刑事上の手続きが異なることはよく知られているが,同じ少年といっても,14歳未満と14歳以上では刑事上の責任能力が異なる者として扱われることはあまり知られていない。すなわち,刑罰法令に触れる行為を行なった場合,14歳未満の少年では責任能力が問われず「触法行為」という扱いを受けるが,14歳以上では責任能力が問われ「犯罪行為」とみなされる。
子どもが心身ともに健やかに生まれ,育てられることをめざす法律に児童福祉法がある。同法第4条では,「児童」を満18歳に満たない者と規定し,さらにその時期の中を,満1歳に満たない「乳児」,満1歳から小学校就学の始期に達するまでの「幼児」,小学校就学の始期から満18歳に達するまでの「少年」の三つに区分している。
学校教育法および学校教育法施行規則では,学校の種別により,幼児(幼稚園),児童(小学校),生徒(中学校と高校),学生(大学など)とよび分けている。
「幼児」「児童」「少年」の定義が法律によってまちまちであるが,発達心理学の発達区分の定義は,以下に見るように,法律の定義とは微妙に違っている。
【発達心理学の区分】 発達心理学では,人間の生涯にわたる発達を⑴出生前期,⑵新生児期,⑶乳児期,⑷幼児期,⑸児童期,⑹青年期,⑺成人期,⑻老年期の8期に分けるのが一般的である。
出生前期prenatal periodは,胎児が胎内にいる期間をいう。産科医学では,最終月経の初日を妊娠0週0日とし,40週280日間を標準的な妊娠期間とし,とくに妊娠満22週から出生後満7日未満の時期を周産期perinatal periodとよんでいる。
新生児期neonatal periodは,生後28日間の時期をいう(母子保健法第6条5)。母親の胎内から出て,自力で呼吸,体温調節,摂食,消化を行ない,周りのおとなとの新たな社会関係を築いていく時期である。
乳児期infancyは,発達心理学では生後1年半までの時期と定義している。なお,医学領域や母子保健法第6条2では乳児を「1歳に満たない者」と定義している。発達心理学の年齢区分は,乳児期を「言語と歩行の準備期」ととらえる見方に基づいている。乳児の発声は,泣き声から始まり,生後6~8週から半年にかけて頻繁に聞かれる「クー,クー」という発声のクーイングcooing,その後「バババ」「バブバブ」のような喃語babblingが見られ,やがて周囲のおとなが最初のことばと判断する初語が現われる。歩行については,生後6ヵ月以後に,お座り,寝返り,つかまり立ちを経て,自分で立ち上がり,1歳3ヵ月ころまでに歩行を開始し,1歳半になるとかなり歩けるようになる。
幼児期young childhoodは,1歳半から就学前の時期をいう。就学とは小学校に入ることであり,その意味から幼児は就学前児preschoolerともよばれる。幼児期の主要な発達課題は身辺の自立であり,起床,着替え,食事,歯磨き,トイレ,入眠といった日々の生活リズムがこの期間に形成される。また,幼児期は,話しことばの基礎が形成され,描画の表現が豊かになっていく時期でもある。
児童期childhoodは,小学生の時期をいう。運動能力と行動半径が広がるとともに,学校での学習の位置づけが高まる。この時期にとくに重要な発達課題として,読み書きの能力であるリテラシーliteracyと,計算の能力であるニュメラシーnumeracyがある。また,小学校の最終段階から始まる時期(12~17歳くらい)を思春期pubertyということがある。思春期は児童期と一部重複しながら青春期へと移行していくが,この時期に顕著になる性的な成熟と,それに伴う身体的・心理的変化に着目する概念である。
青年期adolescenceは,中学生から高校生,そして一般的には20代後半までの時期をいう。青年期は,伝統的には,職業の選択(就職)と配偶者の選択(結婚)という「人生の二大選択」との折り合いをつける時期であった。しかし,価値観が多様化した現代社会では,人生の目標も多様化し,人生の重要な事柄についての決定の時期が先送りされる傾向にある。豊かな社会と高学歴化,少産少死社会と晩婚化は,青年期の延長に拍車をかけている。
成人期adulthoodは,前述のように民法第4条では「年齢20歳をもって,成年とする」と規定されているが,20代後半までを青年期とみなすならば,30代以後ということになる。多くの成年は,職に就き,結婚して家庭をもち,子どもを育てる時期を過ごす。なお,中年期middle ageは,学術用語とみなさないという考え方もあるが,青年期と老年期の狭間の時期という意味であり,成人期とはかなり重なっている。
老年期senescenceは,老人福祉法の定義に従えば65歳以上ということになる。また,60歳ころからを初老elderly,65歳以上を老人agedと規定する考え方もあるが,医学的に老化の進行が顕著になるのは75歳以上とされる。
【エリクソンの発達区分】 ドイツに生まれアメリカで活躍した心理学者エリクソンErikson,E.H.(1950)は,フロイトFreud,S.のリビドーの発達段階説を発展させて,達成すべき発達課題によって発達段階を以下のように区分した。
乳児期(基本的信頼 対 不信):保育者への信頼
幼児前期(自律性 対 恥・疑惑):自由な活動
幼児後期(積極性 対 罪悪感):行動の自己決定
児童期(勤勉性 対 劣等感):他者との比較
青年期(同一性 対 役割拡散):自己への問い
成人初期(親密性 対 孤立):仕事と家庭
中年期(世代継承性 対 停滞):次世代への貢献
老年期(自我統合性 対 絶望):業績への反省
これは,生涯発達の段階説として最も典型的なものといえよう。 →児童期 →周産期 →性格発達 →成人期 →青年期 →乳児期 →発達過程 →幼児期 →老年期
〔子安 増生〕
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