コンプレックス(読み)こんぷれっくす(英語表記)complex

翻訳|complex

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コンプレックス」の意味・わかりやすい解説

コンプレックス(心理学)
こんぷれっくす
complex

辞書的にいえば、深く絡み合ってつくりあげられたものという意味であるが、精神分析では、強い情緒的反応を引き起こすような一群観念とか記憶のことをいい、観念複合体と訳されることもある。ほとんど意識されるようなことはない。スイスの精神科医ユングの連想実験においては、刺激語に対して反応語が答えられるまでに時間がかかるような場合には、コンプレックスの存在が推論される。刺激語が特殊な強い情緒をもつ語と結び付いているため、反応が遅れると考えられるからである。連想実験は、こうした強い情緒をもつコンプレックスを明らかにしようとする。ユングは、彼の分析心理学においてコンプレックスを重視し、その深層に元型(アーキタイプ)を想定することになった。フロイトは、夢や神経症、また日常生活の精神病理的研究から意識の背後にあって意識の流れを決定している無意識の観念群があることを明らかにした。

 コンプレックスという用語は日常的には劣等コンプレックスの意味で使われているが、専門的な意味でコンプレックスといわれるのは、エディプス・コンプレックスと去勢コンプレックスである。父親コンプレックス、母親コンプレックス、カイン・コンプレックス(兄弟コンプレックス)などは、エディプス・コンプレックスの一側面をとくに強調したものである。

[外林大作・川幡政道]

『C・G・ユング著、林道義訳『連想実験』(1993・みすず書房)』『河合隼雄著『コンプレックス』(岩波新書)』


コンプレックス(地学)
こんぷれっくす
complex

地層岩石の集合体を表わす地質用語。名称は「複合体、集合体」を意味する英語に由来する。地層、変成岩火成岩などで、構造が複雑で細かく区分することが困難なものをひとまとめにした岩石の集合体。複合岩類とよばれることも多い。単に「コンプレックス」とするのではなく、その成因を表すことばを冠して、付加コンプレックス、変成コンプレックス、火山‐深成コンプレックスなどと称されることが多い。

 付加コンプレックスは、海洋プレート上に堆積(たいせき)した地層が、海溝トラフから陸側プレートの下に沈み込み、最終的に陸側のプレートに付け加わって形成された岩石の集合体である。変成コンプレックスは、形成される際の変成作用に伴って褶曲(しゅうきょく)作用も複雑であることから、一般的にこのようによばれることが多い。火山‐深成コンプレックス、あるいは火成コンプレックスは、マグマの活動が盛んであった地域で、花崗岩(かこうがん)などの深成岩や、岩脈、そして流紋岩などの火山岩類が複雑に分布する岩石の集合体をいう。

[村田明広]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コンプレックス」の意味・わかりやすい解説

コンプレックス
complex

精神分析で使われる概念。無意識のなかに抑圧され,凝固し,そのために意識された精神生活に影響を与え,ときに強い感動を誘発する観念の複合体をいう。さまざまな解釈があり,性的抑圧を重視する古典派のほかに,優越感や劣等感を重視する学派などがある。エディプス・コンプレックスエレクトラ・コンプレックスは性心理の発達にかかわるひずみであるから,単に両親との関係にとどまらず,多くの場合,対人関係の障害を伴う。コンプレックスは日常生活のなかにも現れるが,また神経症の症状を形成する。

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