フロイトの精神分析の性心理的発達の第2段階で、口唇期と男根期の中間に位置し、およそ1歳半から4歳までの時期のことをいう。肛門期は、排泄(はいせつ)や清潔のしつけが行われる時期であり、排泄物の保持と排泄に密接に結び付いた対象関係がつくられる。排泄物は、象徴的には贈り物と考えることができるので、排泄することは母親に贈り物をすることになり、排泄せずにためておくことは母親のしつけに反抗することになるからである。アブラハムによれば、肛門期は二つの時期に分けられ、前期は対象を排泄し、破壊することに喜びを感じる時期であり、後期は対象を保持し、所有することに喜びを感じる時期である。
未熟な幼児にとって、排泄行為をコントロールすることは簡単なことではなく、失敗して母親の愛情を失う危険にさらされたり羞恥(しゅうち)心がおきたりする。母親の要請に応じてうまく排泄できるようになると、自分は母親を喜ばすことのできる贈り物を所有する価値ある存在であると感じるようになり、自律性を獲得することができる。トイレット・トレーニングがあまりに過酷であると、そこからおきてくる葛藤(かっとう)を解決するために吝嗇(りんしょく)、頑固、きちょうめんといった肛門性格がつくられる。
[川幡政道]
『フロイト著、懸田克躬・吉村博次訳「性格と肛門愛」(『フロイト著作集5』所収・1969・人文書院)』▽『フロイト著、田中麻知子訳「欲動転換、とくに肛門愛の欲動転換について」(『フロイト著作集5』所収・1969・人文書院)』▽『カール・アーブラハム著、下坂幸三・前野光弘・大野美都子訳『アーブラハム論文集――抑うつ・強迫・去勢の精神分析』(1993・岩崎学術出版社)』
S.フロイトのとなえたリビドー発達理論における第2段階。大便の通過による肛門部への粘膜刺激が性感刺激となりうるが,このような快感の獲得が支配的となる年齢は,およそ2歳から4歳までである。幼児は,この快感を高めるために排便をできるだけ延期しようとするであろう。このころは,排便のしつけが行われる時期にも一致しているので,親との間に従順と反抗とをめぐる抗争が生じる。また幼児は,腸の内容物を自己の身体の一部として認知しているので,排泄した便は,子どもの外界への最初の贈物という意味をもつ。さらにフロイトによれば,贈物=子ども=金という象徴的・無意識的な等式が成り立つ。この時期の対象関係は貯留と排出との二極構造であり,対象を保持しながら同時に破壊する性質をもっているためにフロイトによって〈肛門サディズム期anal-sadistic stage〉とも名づけられた。
執筆者:下坂 幸三
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…上のようなフロイトの心的装置論は,今日の精神分析においてもおおむね継承されているが,新生児が混沌たるエスの塊であるという見方は疑問視されており,自我はきわめて早期に形成されてくるという見方が有力となった。 〈口唇期〉にはじまり〈肛門期〉〈男根期〉〈潜伏期〉を経てついに〈性器期〉に統合されるというフロイトの唱えた精神性的発達理論は,性愛の発達を核心に据えた一つの発達心理学である。フロイトは,口唇や肛門が対象――精神分析用語で人間対象を意味し,一個の人間全体は全体対象であり,乳房やペニスは部分対象である――との接触(たとえば授乳時の口唇)において,ないしはそれ自体の機能(たとえば便をためこんで排出するさいの快感)として,エロティックな機能を本来そなえていると同時に,これらの器官の機能を通して養育者に対する陰陽種々の感情がはぐくまれることに着目した。…
…また大便の通過による肛門部への粘膜刺激も快感となる。この快感獲得をめざす幼児は,便をぎりぎりまでためこみ一挙に排出するので,親のトイレット・トレーニングの意のままにはならない(肛門期)。3,4歳から5,6歳になると男女ともに性器への興味をはっきり示すようになるが,それは性交を表象する興味ではなく,積極性や格別の快感をもたらすものとしての男女に共通する男根(ペニス)への関心である(男根期)。…
※「肛門期」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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