白血球の動態と機能

内科学 第10版 「白血球の動態と機能」の解説

白血球の動態と機能(総論2:血球の動態と機能)

(1)好中球の動態と機能
a.動態
 好中球の産生は顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)によって制御されている.マクロファージ,血管内皮細胞などがG-CSFを産生する.G-CSFの作用により,好中球系前駆細胞は骨髄芽球,前骨髄球骨髄球,後骨髄球,杆状核(好中)球,分葉核(好中)球と分化・成熟する.骨髄球までは分裂能を有しているが,後骨髄球になると分裂能を失う.骨髄芽球が増殖・分化して,成熟好中球が末梢血液中に出現するまでに7~14日必要である.1日に産生される好中球は約0.85×109/kgである.骨髄で成熟した好中球は巨大な骨髄プールを形成している.感染初期に認められる好中球増加は主として骨髄プールからの動員による.血管内の好中球は流血中に存在する循環プールと辺縁プールからなっている.流血中に存在する好中球の半減期は約6.7時間であり,組織に移行した好中球は2~3日以内に組織内や感染巣アポトーシスを起こして死滅する.
b.血管外への遊出
 好中球のおもな機能は生体に侵入した病原微生物貪食殺菌して排除することにある.流血中に存在する好中球が炎症局所に動員されるためには,まず血管内皮細胞に接着することが必要である.好中球膜上にはL-セレクチンやβ2インテグリン(CD11/CD18)などの接着分子が存在する.L-セレクチンは血管内皮細胞膜上のシアル酸を含む糖鎖とゆるく結合し,好中球のころがり運動を制御している.炎症局所においては,主としてマクロファージから産生されたインターロイキン1β(IL-1β)や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor α:TNF-α)の作用により,E-セレクチンやICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)などの接着分子が血管内皮細胞膜上に強く発現している.ICAM-1は好中球膜上のβ2インテグリンと強く結合し,好中球を炎症局所にとどめる作用を果たしている.接着した好中球は炎症局所で産生された走化性因子に導かれて血管外へ遊出し,炎症局所に向けて遊走する.C5a,IL-8,ロイコトリエンB4,血小板活性化因子などが重要な走化性因子である.これらの走化性因子に対する受容体は細胞膜を7回貫通しており,GTP結合蛋白質を介して細胞内にシグナルを伝達する.好中球の運動は,受容体の活性化により生じた細胞内Ca2+濃度の増加,MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase),ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase),収縮蛋白質(アクチン,ミオシン)などによって制御されている.
c.貪食
 被貪食粒子表面に免疫グロブリンや補体(C3b,C3bi)が結合することをオプソニン化とよぶ.オプソニン化された粒子は,IgGのFc部分に対する受容体(Fcγ受容体)や補体に対する受容体(CR1,CR3)を介して好中球に貪食され,貪食空胞が形成される.
d.活性酸素の産生と殺菌
 好中球が貪食を開始すると好中球の酸素消費(呼吸)が急激に増加する.この現象を呼吸の爆発(respiratory burst)とよぶ.消費された酸素のほとんどは細胞膜に局在するスーパーオキシド産生酵素により1電子のみ還元されてスーパーオキシド(O2)になる.スーパーオキシドから過酸化水素(H2O2)やヒドロキシルラジカル(・OH)が産生される.これらの酸素代謝産物を総称して活性酸素とよび,単独でも強い殺菌作用を示す.スーパーオキシド産生酵素は細胞膜および細胞質に局在する複数の構成要素からなっている(図14-3-9).細胞膜に局在するチトクロームb558はgp91phoxとp22phoxからなる二量体であり,細胞質にはp47phox,p67phoxおよびp40phoxが存在する.食作用に伴いp47phoxがリン酸化されると,p47phox,p67phoxおよびp40phoxがともに細胞膜に移行して,チトクロームb558と複合体を形成することによってスーパーオキシド産生酵素が活性化される.活性化されたスーパーオキシド産生酵素はNADPHから電子を受け取り,フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)およびgp91phoxに存在する2分子のヘムを介して分子状酸素に電子を渡し,スーパーオキシドを産生する.食作用に伴い産生された過酸化水素は,ハロゲンイオン(Cl,I)およびアズール(一次)顆粒に含まれるミエロペルオキシダーゼと共同して菌体成分をハロゲン化したり,次亜塩素酸(HOCl)を生成することによって強い殺菌能を発揮する.アズール顆粒に含まれるアズロシジンやデフェンシン,特殊(二次)顆粒に含まれるラクトフェリンなども殺菌作用を示す.死につつある好中球から放出されるneutrophil extracellular trap(NET)も殺菌作用を示す.顆粒が貪食空胞と癒合することによって顆粒内容物が貪食空胞内に放出される(脱顆粒).貪食・殺菌された微生物は顆粒に含まれるライソゾーム酵素により消化される.G-CSFやTNF-αなどのサイトカインは好中球機能を亢進することにより生体防御能を増強する.一方,さまざまな炎症性疾患においては,活性化された好中球によって組織傷害が生じる.[北川誠一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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