百姓林(読み)ひゃくしょうばやし

改訂新版 世界大百科事典 「百姓林」の意味・わかりやすい解説

百姓林 (ひゃくしょうばやし)

百姓山百姓持山百姓控林百姓抱山ともいう。いずれも近世農民占有に属した山林で,その多くは居屋敷続きまたは控え田畑などの周辺に点在した。大部分は自家の植栽買得にかかるもの,数代にわたって私有した実績のある山林であるが,村持山の分割によって取得した百姓山も少なくなかった。百姓林が領主の山林台帳や村明細帳に個別に登記されるようになるのはおおむね中期以後で,公認された百姓林には地積と立木数に応じた山運上が課されるほか,有用樹木の無断伐採が禁じられた。また営利目的で成木を伐採した場合には相当の収益税が徴され,伐採跡への植樹を義務づけるのが一般的であったから,個人の占有とはいっても,領主の林野統制外にある完全な私有林ではなかった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「百姓林」の意味・わかりやすい解説

百姓林
ひゃくしょうばやし

江戸時代の農民個人の私有林。また、ときには村持ちもしくは村々共有の入会(いりあい)山をさすことがある。地方によっては、百姓持林、地付(じつき)林、居久根(いくね)林、抱(かかえ)山、符人(ふにん)林、百姓証文山などととなえる所もある。

 百姓林の多くは、肥料飼料燃料など農業および農民生活を支える目的に供されたが、経済の発展とともに、消費市場の近くや搬出至便な地域などの地理的条件に恵まれた所では、土木建築用材および薪炭材などの林産物の商品化を図る例もみられた。しかし、私有林であっても、良大木のある場合は領主の山林台帳に登録され、持ち主は領主の許可を得たうえでなくては伐採できず、また格別の大木や、領主の指定した杉・檜(ひのき)などの特定の樹種は伐採を禁止されるといったなんらかの制限を課せられるのが通例であった。

[飯岡正毅]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「百姓林」の意味・わかりやすい解説

百姓林
ひゃくしょうばやし

江戸時代,農民の所持した林野。百姓山,百姓持山,百姓控林など名称は多様であるが,入会山 (いりあいやま) と呼ばれる山林や御林と呼ばれる領主の直轄山林に対し農民の私有林的性格が強かった。普通,屋敷や耕地周辺の小規模なものが多く,肥料,薪炭,用材の採取源,防風林などとして利用された。 (→入会権 )

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世界大百科事典(旧版)内の百姓林の言及

【村中入会】より

… そこでの林野利用の実態は,各地の農業生産の発達水準と,それに対応する小農自立の進展度,村落構造の特質などに規定されている。経済発展が低く,小農自立の弱いところでは,村落上層の有力農民によるかつての個別的占有・利用がそのまま百姓持山,百姓持林(百姓林)となり,小農自立の進展したところでは,小農村落の管理下にある入会地となり,制裁措置(村法)をもつ惣百姓の村中入会が成立する。関東地方に分布する個人所持の百姓林や,東山,東北地方に多くみられる地付山,分付山は前者に属する。…

※「百姓林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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