日本大百科全書(ニッポニカ) 「盛土規制法」の意味・わかりやすい解説
盛土規制法
もりどきせいほう
宅地造成、盛土、土石の堆積による崖(がけ)崩れや土砂の流出などによる災害を防止するための措置と規制を定めた法律。土地の用途にかかわらず、危険な盛土を全国一律で規制する。2021年(令和3)7月に静岡県熱海(あたみ)市でおきた土石流災害(死者・行方不明者28人)の教訓を踏まえ、宅地造成等規制法を抜本改正して制定した。正式名称は「宅地造成及び特定盛土等規制法」(昭和36年法律第191号)。2023年5月までに施行する。所管は国土交通省と農林水産省。従来、盛土は宅地造成等規制法、森林法、農地法、自治体条例など複数法令でばらばらに規制されていたが、規制の緩い地点を選んで建設残土などを無許可・無届けで処分する事例が全国で相次いでいた。このため盛土規制法では、宅地、森林、農地、放牧地などの用途にかかわらず、全国一律にすきまのない規制をかけるため、都道府県や政令指定都市、中核市、特例市が、人家などに被害が及ぶおそれのある区域を規制区域に指定。同区域内で盛土のほか、土砂を削り取る切土(きりど)、一時的な土石堆積などの造成工事をする場合、都道府県知事(ただし、政令指定都市、中核市、特例市ではその市長)の許可が必要と定めた。また、造成工事の安全性を確保するため、施工状況の定期報告、中間検査、完了検査の実施を義務づけた。すでに盛土が造成された土地の所有者には、安全性を維持する責務があることを明記。危険が生じた場合、土地所有者だけでなく、造成事業者や過去の所有者などの原因行為者にも是正措置などを命令できるようにした。無許可造成や命令に違反した法人には、最高3億円の罰金を科す。個人への罰則も旧法の「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」から「3年以下の懲役または1000万円以下の罰金」に強化した。熱海市での土石流災害を受けた国土交通省の調査では、全国で盛土の点検が必要な箇所は約3万6000か所に上り、このうち728か所は無許可・無届けの盛土であった。
[矢野 武 2022年11月17日]