盛場(読み)さかりば

精選版 日本国語大辞典 「盛場」の意味・読み・例文・類語

さかり‐ば【盛場】

〘名〙 飲食店商店や娯楽施設が集中していて、人が多く集まる、にぎやかな場所繁華街歓楽街
滑稽本浮世風呂(1809‐13)四「盛場(サカリバ)小児(こども)だとて、鳴物におびえぬもあれば、おびえる子もあらうし」
其面影(1906)〈二葉亭四迷〉三〇「本郷夜毎の熱鬧場(サカリバ)といへば」

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改訂新版 世界大百科事典 「盛場」の意味・わかりやすい解説

盛場 (さかりば)

飲食店,商店,娯楽施設等が集中し,恒常的に人が多数集まる都市の一地域。個人の地位や役割が定められ,拘束性が強い住居空間や職場空間と異なり,盛場は互いに名前も知らない人々が集まる匿名性の高い空間である。それゆえ,自己の日常性や個性,身分上下等とは離れて,平等で自由な人間としてふるまうことができる。これは,ある意味では,だれもが他人でありかつだれひとりとして自分自身ではない状態を指したハイデッガーの〈ダス・マンdas Man,ひと〉にふさわしい世界である(《存在と時間》)。

 拘束性がなくなることから,欲望がストレートに表現され,盛場にはそれらを満たす施設が集中する。大別すれば,(1)文化施設(ホール,美術館等),(2)商業施設(デパート,スーパーマーケット,専門店等),(3)飲食施設(レストラン,食堂酒場等),(4)社交施設(ホテル,クラブ,喫茶店等),(5)娯楽施設(映画館,劇場キャバレー,ゲームセンター等。このなかにはストリップ劇場等の性的享楽施設も含まれる)になる。さらに開放された場所として,多種多様な人々が集まることから,高度の情報機能をもち,服装,音楽,ことば等の流行も生まれる。だが一方で,快楽の追求,匿名性という性格から非行,犯罪に結びつく面もある。

 市(いち)のように特定の日に集まるのではなく,恒常的に人が集まる盛場は江戸時代にはすでにみられ,江戸の両国広小路,浅草の浅草寺周辺,上野山下,大坂の難波新地,京都の四条河原町などがにぎわった。平賀源内の《根南志具佐》(上巻,1763)によると,両国橋周辺には,軽業,講釈などの見世物,興行をはじめ,化粧品店,硝子細工などの商店,茶店,餅屋,鰻かば焼などの飲食店が並び,武士,町人,農民などの多くの人々が集まったという。また平出鏗二郎の《東京風俗志》(1901)では上野,浅草のほか京橋銀座通,神田小川町通,麴町の通筋,牛込神楽坂を盛場所(さかりばしよ)としてあげている。このように盛場には変遷があり,現在では新宿,渋谷等のターミナル駅周辺から郊外へ,盛場は広がりつつある。
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世界大百科事典(旧版)内の盛場の言及

【文化文政時代】より

…それは,従来の文化生産における需要と供給の関係に大きな変化を強いるものであった。ことに化政期に顕著となった盛場の繁栄は,都市大衆文化の新たな表象とみなすべきものである。より具体的には,伝統的な遠隔地の芝居町の興行より市中の盛場の演芸に関心が集中し,高価な大芝居が不況をかこつ一方で簡便な小芝居・宮芝居が繁盛し,歌舞伎・人形浄瑠璃に対して安易な見世物・寄席が人気を集めるといったぐあいであった。…

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