軽業(読み)カルワザ

デジタル大辞泉 「軽業」の意味・読み・例文・類語

かる‐わざ【軽業】

綱渡り・はしご乗り・玉乗りなどの曲芸。また、その見世物アクロバット
危険を伴う事業や計画。「資金もないのに融資だけで事業を興すという軽業をやってのけた」
危険な動作をからだを軽快に動かしてやりこなすこと。
悪七兵衛が力業、早業、―、神通業じんづうわざ」〈浄・出世景清
[類語]曲芸芸当アクロバット離れ業曲技サーカス軽業師

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精選版 日本国語大辞典 「軽業」の意味・読み・例文・類語

かる‐わざ【軽業・軽技】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 身軽に高く跳躍したり、難しくて危険を伴う動作を軽快にやりこなすこと。また、その技。
    1. [初出の実例]「ココロワ タケケレドモ caruuazaga(カルワザガ) ヲトラレタカ ツヅイテモ コエサセラレズ」(出典:天草本平家(1592)四)
  3. 綱渡り、梯子(はしご)乗り、玉乗り、籠抜(かごぬ)けなどの曲芸を見せる興行見世物。もと猿楽の一技から起こったといわれ、江戸時代に興行として演じられるようになった。曲芸。曲技。軽業芝居。
    1. [初出の実例]「川原に連飛(れんとび)とて太り責めたる大男の、わげものを飛びくぐるを見たまへ。かやうのかるわざはとてもなるまじ」(出典:舞正語磨(1658)中)
  4. かるわざし(軽業師)」の略。
    1. [初出の実例]「軽技の家あり。その群の一家族高き棚の上に立ちて客を招けり」(出典:即興詩人(1901)〈森鴎外訳〉旅の貴婦人)

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百科事典マイペディア 「軽業」の意味・わかりやすい解説

軽業【かるわざ】

見る人を驚かすような危険な動作を,文字どおり身軽に演ずる業(わざ)をいう。演ずる人を軽業師という。軽業の主なものとして,綱渡りや竿(さお)のぼり,倒立回転,籠(かご)抜け(輪抜け),空中ぶらんこなどがあげられる。軽芸,軽技とも書く日本の造語である〈軽業〉は,江戸時代延宝年間(1673年−1680年)から使用されるようになった。その契機は,歌舞伎にも取り入れられていた蜘蛛舞(くもまい)にあった。蜘蛛舞は,奈良時代に中国から伝えられた散楽(さんがく)を集成した綱渡り系の業である。これに,籠抜けという跳技や剣の刃渡り,梯子(はしご)乗り,紙渡りなど文字どおり身軽さを誇示するような演技が加わり,軽業の名で総称されるようになった。軽業の源流である散楽は,漢代以来,百戯雑芸の一部として,そのルーツは,インド(天竺(てんじく))さらにはエジプトにさかのぼることができる。つまり,軽業系技能は,エジプトや小アジアを経てギリシアに伝播(でんぱ)し,綱渡りを意味するアクロバットという近代語を生んだ。これらのルートから西域を経て中国,日本へと伝えられたといえる。 奈良朝期にもたらされた綱渡りや弄玉(品玉),重立などの技芸の様子は,《信西(しんぜい)古楽図》や正倉院御物の〈弾弓(だんぐう)添画〉からもよくうかがえる。この時期,散楽は,格式のある舞楽伎楽と異なる世俗的芸であったが,〈散楽戸〉といわれる公の教習所が設立され,技能も教えられた。10世紀ころになると,朝廷の保護を失い,楽戸の民は大部分賤民(せんみん)化し,大道芸人となったという。彼らは,いつの時代にも,寺社祭礼の見世物として人びとの目を楽しませてきた。散楽雑技から発展した日本の軽業は,江戸時代末期には,見世物として独立して興行されるようになる。幕末期(1864年)に,西洋からサーカスがやってくることによって軽業師も海外巡業するようになり,曲馬団(曲馬参照)やサーカスと軽業芸は一体となって発展する時代を迎える。→曲芸
→関連項目雑芸

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軽業」の意味・わかりやすい解説

軽業
かるわざ

曲芸と同義語であるが、主として綱渡りをさすことばとして、近世に入って用いられた。奈良時代に渡来し、『洛中洛外図(らくちゅうらくがいず)』などにも描かれた「蜘舞(くもまい)」から出て、綱渡り、乱杭(らんぐい)渡り、剣の刃渡り、提灯(ちょうちん)渡り、籠(かご)抜け、人馬(ひとうま)の術、梯子(はしご)乗りなどといったものや、古態を残して近世に伝えられた蓮飛(れんとび)、曲鞠(きょくまり)、綾織(あやおり)、品玉(しなだま)といった多くの芸種を含む。そのいずれもが、身の軽さを身上とする芸人による見せ物、あるいは曲芸団による興行という形態をとることが多かった。

 享保(きょうほう)(1716~1736)には座頭(ざとう)の軽業や女軽業が流行し、天明(てんめい)・寛政(かんせい)(1781~1801)ごろには小屋掛けも大々的なものになって劇的構成をとるようにもなった。幕末の1866年(慶応2)には日本の軽業師が海外公演を行い、人気を博した。1864年(元治1)には西洋から渡来した「中天竺(ちゅうてんじく)舶来之軽業」が横浜で興行されている。明治以後は西洋曲芸団の影響が大きいが、日本的なものもサーカスや寄席(よせ)芸にいまだ多くを残している。

[織田紘二]


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改訂新版 世界大百科事典 「軽業」の意味・わかりやすい解説

軽業 (かるわざ)

身軽さを誇示するように,とんだり,跳ねたりしながら危険を伴う動作を軽快に演じる業をいう。近世以後,見世物の主要な部分を占めるようになった。その源流は奈良時代に大陸から伝来した散楽(さんがく)の中に求めることができる。〈綱渡り〉〈竿登り〉〈とんぼ返り〉などがあったが,それを集成したのが室町時代から江戸中期にかけて盛んに興行された〈蜘舞(くもまい)〉であった。蜘舞の呼称は,蜘が巣をかけて心やすく軒から軒を行くごとき軽き業をなす所業から起こったといわれる。江戸時代に〈乱杭渡り〉〈剣の刃渡り〉〈提灯渡り〉〈籠抜け〉〈ぶらんこ〉〈梯子(はしご)乗り〉〈紙渡り〉などの演技が加わり,江戸中期以後〈軽業〉と総称されるようになった。その技術は早くから歌舞伎芝居の中にもとり入れられた。〈綱渡り〉を中心にその芸の多くは明治以後サーカスの演目にとり入れられた。
曲芸 →サーカス
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軽業」の意味・わかりやすい解説

軽業
かるわざ

軽妙な動作で危険なわざを見せる芸。曲芸の一種。奈良時代,中国から渡来した散楽の蜘舞 (くもまい) に発し,江戸時代は主として綱渡りの芸をさした。一本綱,一本竹,籠抜け,蓮 (れん) 飛び,刃渡り,人馬 (ひとうま) ,ぶらんこなどがあり,その技術は歌舞伎のなかにも流れている。大道芸,見世物芸として演じられた。天明年間 (1781~88) に劇的な内容をもつ軽業が生れ,江戸時代末期には,種々の趣向を凝らす座が出て人気を博した。明治以後,馬術と結んだ曲馬団として各地の祭礼などに巡演したが,1930年代以降はサーカスに吸収されている。

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世界大百科事典(旧版)内の軽業の言及

【大道芸】より

…【織田 紘二】
[西洋]
 西洋では都市と群衆が成立するギリシア・ローマ時代に,各地を渡り歩く職業芸人が隆盛を示した。軽業(かるわざ),動物芸,奇術,音曲をはじめとして路上美術に至る,あらゆる種類の大道芸がこの時期に演じられている。その特徴は,見物人から金銭を取るという点で,オリンピック競技や剣闘試合のような公的行事がほぼ無料であったことと対比される。…

※「軽業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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