神経系疾患における新しい展開

内科学 第10版の解説

神経系疾患における新しい展開

 神経内科学の分野ではこの数年足らずの間に分子遺伝学の進歩などに支えられて病態解明が進み,発症機序に基づく治療法の開発が行われ非常に大きな進歩があった.まず,脳血管障害では,急性期脳梗塞に対してt-PAによる血栓融解療法が認可され,最初は発症後3時間以内であったが,最近4.5時間に延長された.また,経口抗血小板薬としてはアスピリンに加え,クロピドグレル,シロスタゾールの効果が証明され承認されている.また,経口抗凝固薬はワルファリンしかなかったが,新規に,ダビガトラン,リバーロキサバン,エドキサバン,アピキサバンの4剤が発売され,よりきめ細かな対応ができるようになった.てんかんは人口の約1%が罹患するといわれるほど頻度の高い疾患である.従来はフェノバルビタール,フェニトイン,バルプロ酸,カルバマゼピンがずっと使われ続けてきたが,近年,ガバペンチン,ラモトリギン,トピラマート,レベチラセタムの使用が可能となり,てんかん診療は大きく前進した. 免疫性神経疾患の治療でも大きな進歩があり,たとえば多発性硬化症ではインターフェロンβの2剤目が市販され,リンパ球のリンパ節からの移出を阻害するフィンゴリモドがより有効性の高い免疫抑制薬として利用できるようになった.また,多くの生物学的製剤が市販されるようになり,たとえば抗CD20モノクローナル抗体のリツキシマブなどが神経疾患にも使用されるようになるとともに,抗α4インテグリンモノクローナル抗体のナタリズマブが高率に進行性多巣性白質脳症(PML)を発症することが判明して注目を浴びている.
 また,自己抗体が関与する疾患に関しては,新しい抗体や新しい病態が続々と判明し診断・治療法の進歩がもたらされた.たとえば,若い女性に多く,特有の不随運動をきたす脳炎は,抗NMDA受容体抗体に関連することが判明し,奇形腫の合併も多い.かつて多発性硬化症の1型とされていた視神経脊髄炎(NMO,Devic病)は抗アクアポリン4抗体に関連するアストロサイト障害が本態の別の疾患と見なされるようになった.
 神経難病の代表である変性疾患の多くで分子病態が解明されつつある.筋萎縮性側索硬化症(ALS)については,孤発型ALSと同じ臨床病理所見を呈する遺伝性ALSの原因遺伝子が同定され,同時にそれは前頭・側頭葉変性症の原因ともなることがわかり,かつて認知症を伴うALSとよばれた病態が分子レベルで理解できるようになった.さらに運動ニューロン疾患の1つである球脊髄性筋萎縮症については,原因である変異アンドロゲン受容体の核内移行を阻止するという根本的治療が既存の前立腺癌治療薬で可能であることがわかり臨床試験が行われている.
 急増する認知症の最大の原因疾患であるAlzheimer病では,脳内に老人斑として異常に蓄積するアミロイドβ蛋白(Aβ)を除去する治療が試みられたが,Aβそのものを減少させてもすでに発症してしまった認知症を元に戻すことは困難であることが明らかとなり,神経変性疾患の治療法開発にとって大きな教訓となった.より早期あるいは発症前の治療を視野に入れた研究が始まっている.[水澤英洋]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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