アメリカ合衆国で1920年から33年まで,酒精飲料の醸造,販売,運搬,輸出入を禁止した法律。第1次大戦期に禁酒運動と道徳意識が著しく高まる中で,1917年連邦議会は禁酒を規定した憲法第18修正を可決,19年10月法案提出者の名をとってボルステッド法Volstead Actと呼ばれる禁酒法が制定され,翌年1月発効した。だが〈平常〉に戻ったアメリカ社会で飲酒の習慣を一掃することは非現実的であり,需要が引き続き強く存在したため,アル・カポネをはじめとしてギャングがこれに目をつけ,酒類の密造や密販を手がけて巨利を博し,それにより縄張りの拡大を図った。こうしてきわめて道徳的な政策と不法な世界との共存という奇妙な事態が生じたが,大都市を中心に禁酒法を批判する動きが高まり,1928年の大統領選挙戦ではそれが一つの争点となった。ついで大恐慌が勃発するや,財政的理由からもその撤廃が望ましくなり,33年禁酒条項を無効とする憲法第21修正の採択を経て,同年12月アメリカ社会は正式に禁酒法から抜け出した。
→ジャズ・エージ
執筆者:新川 健三郎
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アメリカ合衆国における酒類の製造、販売、運送を禁じた1919年1月成立の合衆国憲法修正第18条およびその細則の通称ボルステッド法(19年10月成立)。アメリカにおける禁酒運動は、20世紀に入ると急速に高まり、すでに1917年初頭には26の禁酒州を数えた。その運動は、一面で福音(ふくいん)主義的プロテスタンティズムに依拠する宗教的教化運動であったが、また他面では、禁酒によって労働者の工場規律、生産能率の改善を求める実業的利害がかかわるなど、政治的、経済的な20世紀初頭の社会規制運動の一環でもあった。17年の第一次世界大戦への参戦は、生産能率向上の声をさらに高め、同年12月、憲法修正第18条は議会を通り、19年確定公布された。しかし、連邦法としての禁酒法の成立はかえって法の尊厳を傷つけただけであった。すなわち、同法成立後、密造、密売が横行した。このため、30年代に入ると同法廃棄の声が高まり、33年、議会はこれを廃棄する憲法修正第21条を可決し、ここに禁酒法の時代は終わった。
[紀平英作]
『Norman H. ClarkDeliver Us from Evil : An Interpretation of American Prohibition (1976, W. W. Norton & Company, Inc., New York)』
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アメリカで1919年に成立した酒類の製造,販売,運搬を禁止した憲法修正第18条と,その実施を定めたヴォルステッド法とをさす。アメリカには19世紀前半から社会改革運動として節酒・禁酒運動があったが,20世紀初頭には禁酒の立法化をめざす運動が盛んになり,第一次世界大戦中の不寛容な雰囲気に助けられ,憲法修正による禁酒が実現した。しかし酒類の密輸入,密造密売がギャングの資金源になるなど社会悪を助長したので,33年憲法修正第21条により同18条は廃止された。州単位での禁酒は存続したが,それらもやがてしだいに撤廃された。
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…その後は飲酒問題は政治の表舞台からは姿を消した。【見市 雅俊】
[アメリカ]
ピューリタニズムの伝統の強いアメリカのニューイングランド地方では早くから酒精飲料に対し社会の風習を損なうといった批判が強く出されていたが,1826年にボストンで禁酒協会が設立され,46年にはメーン州で最初の禁酒法が制定されるなど,禁酒運動は盛り上がりを示した。それに伴い北部の他の地域や西部にも拡大し,56年までに13州で禁酒法の制定をみ,さらに69年には20州からの代表の参加の下にシカゴで禁酒大会が開催され,禁酒党Prohibition Partyを結成,72年の選挙戦では大統領候補をたてるまでになった。…
※「禁酒法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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