改訂新版 世界大百科事典 「ジャズエージ」の意味・わかりやすい解説
ジャズ・エージ
Jazz Age
第1次世界大戦終結から1929年の大恐慌にいたる,戦後の繁栄のなかにあったアメリカの代表的一面を指す言葉。ローリング・トウェンティーズとも呼ばれる。
ジャズは,その当時から白人社会にも流行し出した音楽の一形式だが,ほかにセックス,そしてダンスの意味ももち,神経の一般的興奮状態を暗示している。繁栄と,戦後の解放感から,とくに若い世代が,前代までの保守的な道徳律に反抗して,一般的に享楽的になり,風俗やマナーが急激に変わった時代である。《ジャズ・エージの物語》(1922)という短編集を出し,この言葉をさらに一般化した小説家F.S.フィッツジェラルドも,当時は〈一つの民族全体が享楽的になり,快楽を追い求めていたのだ〉と言っている。それはまず,若い女性の服装の革命的な変化に象徴的に現れている。スカートの裾がアメリカ史上初めて膝まで上がり,腕はまる出し,断髪,濃い口紅,アイシャドーなどが,当時フラッパーと呼ばれた女性たちのシンボルとなった。おとなしい旧来のダンスではなく,脚を上げて跳ねまわるような,〈お行儀の悪い〉チャールストンが流行,未婚女性の,付添いなしの異性交遊も初めておおっぴらになり,異性間のペッティングさえ一般的になってくる。そして禁酒法の施行(1920-33)にもかかわらず,女性でアルコール飲料を飲む者も増えてきている。
風俗的には革命的だったとしても,政治的にはそうではなく,これもフィッツジェラルドによると,〈完全な政治的無関心が,ジャズ・エージの特徴だった〉という。時代は,〈革命的〉であるより,むしろ〈シニカル〉だったのである。とにかくこの時代は,禁欲と勤倹を尊ぶピューリタンの伝統が,史上初めてまっこうから挑戦され,勤倹に代わって消費,禁欲に代わって享楽が,新しい価値となった時代であった。フィッツジェラルドの前記短編集や長編《楽園のこちら側》(1920),そしてヘミングウェーの《日はまた昇る》(1926)などは,この時代の享楽的でシニカルな若者たちの,典型的な生態を描いている。30年代の不況時代を迎えて,この浮かれ気分は消滅したが,以後なにかにつけて,アメリカ人の胸のなかに宿るノスタルジーとして,この時代のことが懐かしく思い出されるらしいのは興味深い。なお同時代のパリやベルリンについては〈ローリング・トウェンティーズ〉の項を参照されたい。(表)
執筆者:金関 寿夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報