改訂新版 世界大百科事典 「穀耕」の意味・わかりやすい解説
穀耕 (こくこう)
cereal cultivation
粗放的・大規模に,主として穀物を栽培する農耕方式をいう。集約的に行われる園耕などとの対比で,しばしば使われる用語である。その栽培法は,耕起した耕地に種子をばらまきにした後は,ほとんど手を加えることなく収穫に至るというものである。多くの穀物は特定の気象条件下においては,このような栽培法によっても一定の収穫をあげうる性質をもっており,この点で,園耕の対象となる作物が,周到な管理を必要とすることと対照的である。古来,ヨーロッパ農業においては,集落近辺に設けた園地gardenで野菜や果樹を栽培し,外側の広い耕地fieldでは,粗放な栽培法によって穀物を主とした作物の栽培を行い,休閑期には放牧を行うなどして家畜を養うのを一般とした。両農地における農耕方式は,集約度において著しく異なるため,園耕と穀耕とに区別されてきたのである。近代ヨーロッパにおける農村共同体の崩壊と,これと並行して進行した農業機械を中軸とする農業技術の発展は,当初の地割り制を解消し,作物別の農地利用方式を一変させてきたため,農地区分による園耕と穀耕との区別は,必ずしも明確にはなし難い。しかし大規模な穀物栽培の方式には穀耕の用語が使われる場合も少なくなく,ヨーロッパはもとより,北アメリカやオーストラリアにその代表的事例が見出される。ただし,技術的には必ずしも粗放とはいい難く,播種法はばらまきからすじまきに変わり,各種の機械力の導入により,極めて能率的なものとなっている。日本のように高温多雨の農業地域においては,雑草の繁茂が著しいことなどの理由のために,穀物であっても放任栽培では所期の収穫が期待できない。また経営規模が小さいことも関係して,集約的技術の導入により高収量をあげることが,穀物栽培でも一般に行われている。したがって,同じ穀物栽培であっても,穀耕とはいい難い側面をもっている。
執筆者:山崎 耕宇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報