改訂新版 世界大百科事典 「園耕」の意味・わかりやすい解説
園耕 (えんこう)
garden cultivation
周到な栽培管理のもとに集約的に行う農耕方式をいう。粗放的に行われる穀耕などの農耕方式との対比で,しばしば使われる用語である。対象とする作物は,野菜,果樹,花類などの園芸作物を中心とするが,必ずしも作物の種類は問題とされない。栽培法としては,すじまきや点播(てんぱん),移植,間引き,補植,中耕,培土,除草,整枝,剪定(せんてい),摘心,追肥など,各種の手作業を中心とした諸技術が,作物の特性に応じて適宜に採用される。また栽培される作物は,このような周到な管理によって,はじめて量質ともにすぐれた収穫をあげうるような性質をもっている。古来,ヨーロッパ農業においては,集落近辺の農地を柵などで囲って園地gardenとし,ここで野菜や果樹の栽培を行うのが一般であり,外側の耕地fieldで行われる穀物栽培とは集約度という点で著しく異なり,このため,園耕と穀耕とがとくに区別されてきたのである。近代ヨーロッパにおける農村共同体の解体と,これと並行して進行した農業機械を中軸とする農業技術の発展は,農地の地割り制を変化させ,作物別の土地利用方式を一変させてきているが,園芸作物を中心とした集約的な農耕方式に対しては,依然,園耕という用語の使用される場合が少なくない。日本のように,ヨーロッパとは気候風土も異なり,経営規模も小さい農業地域においては,園耕と穀耕との区別は必ずしも明確ではない。イネやムギ類などの穀物栽培においても,周到な管理が行われているのが一般的であるから,この点で日本の農業が,穀物栽培をも含めて,すべて園耕的であるといわれるゆえんである。
執筆者:山崎 耕宇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報