貝殻、卵の殻、食器、容器のように、曲面状の薄い外壁で外力に抵抗して所要の機能を果たすものをシェルといい、シェルの力学的特性を利用した曲面状薄壁構造物をシェル構造という。建築物の屋根用のシェル構造としては、鉄筋コンクリート構造が用いられるほか、曲面板状立体トラス構造とすることも多い。航空機の機体、潜水艇、液体貯槽には金属板製のシェル構造が用いられる。
子午線)という平面曲線を回転軸の周りに回転させたときに描かれる曲面で、ドーム状曲面、円筒面、一葉双曲面、円錐(えんすい)面などがこれに属する。種々の平面曲線を別の平面曲線の方向に、それに沿って平行移動させることによって描かれる曲面を推動曲面という。それを用いたシェル屋根の一例を 下段右に示した。同一平面上にない一直線と一曲線をガイドとして、 上段右のように直線を移動させた場合にも、屋根用曲面を構成することができる。 のように、ねじれた四角形を辺とする曲面のうちで、Z=xy(cは定数)の式で記述される曲面をハイパボリック・パラボロイド曲面(HP曲面)という。これは、隣接2辺の決定する平面に投象したときに直交するような2群の直線で形成されているとみなせるので線織面(せんしきめん)ともいう。種々の曲面を組み合わせると、 の例のように種々の形状のシェル屋根と、変化に富んだきわめてダイナミックな建築空間を構成することができる。
には種々の曲面と、その用途を示した。回転曲面は、経線(シェル構造の力学的特性は、その曲面形状、縁梁(ばり)の有無、支持方法によって大きく異なる。球形シェルでは経線方向のアーチ作用と、緯線方向輪状要素のフープ作用の複合によってシェルに加わる荷重が支持される。アーチ作用によって生じる経線方向力と、フープ作用によって輪状要素に生じるフープ力を同図に示した。縁の輪状要素や縁梁は、桶(おけ)や樽(たる)の「たが」の役割を果たす。その引張りフープ力に対しては、緯線方向鉄筋量を多くすることによって対抗する。もしその鉄筋量が不十分であったり、縁梁がない場合には、 (3)のように縁に沿ってひび割れが生じ、さらに大きな荷重が作用すると、 (4)の破線に沿って折れ曲がるような曲げ変形が顕著になる。適当な縁梁を設け、シェルの力学的特性を生かした設計をすると、10センチメートル余りの厚さの鉄筋コンクリートシェル構造でも、内部に柱のまったくない、数十メートルの大スパンの建築空間を構成することができる( )。その力学的特性を解析する理論をシェル理論といい、構造力学や応用力学の一分野である。
(2)の[中村恒善]
『Colin FaberCandela/Shell Builder (1963, Reinhold Publishing Corporation,New York)』▽『Anton TedeskoShells 1970‐History and Outlook;Concrete Thin Shells SP‐28 (1971, American Concrete Institute, Detroit)』
殻構造,曲面板構造ともいう。薄い曲面板によって構成した構造。シェルとは貝殻の意味であり,貝殻が高い水圧に耐えることができるように,シェル構造はその形態,つまり曲面の曲りぐあいを利用して荷重に抵抗する構造であり,形態抵抗構造の範疇(はんちゆう)に入る。曲面の曲りぐあいは,ガウス曲率,つまり曲面上の点における最大,最小の曲率の積で評価される。このガウス曲率を用いると,シェルの形態は次のように分類することができる。(1)正のガウス曲率をもつシェル ドーム,球形シェル。(2)零のガウス曲率をもつシェル 筒形シェル,錐形シェル。(3)負のガウス曲率をもつシェル H.P.シェル,鞍形シェル。(4)正,負のガウス曲率をもつシェル トロイダルシェル,波板シェル,折板。
鉄筋コンクリートや鉄が登場する以前には,石,木材,煉瓦などが建築材料として用いられていた。ドームはもっとも安定したシェル構造であり,そこに発生する応力は圧縮応力が支配的で,曲げや引張応力は比較的小さい。そのため,石や煉瓦のように圧縮に強く,引張りに弱い材料を用い,ドームやボールトによって大スパン構造がつくられてきた。その歴史は,ギリシアやローマ時代にさかのぼることができる。当時の代表的な建物として,ローマのパンテオン(スパン43.3m)とイスタンブールのハギア・ソフィア大聖堂(スパン43.2m)をあげることができる。現代におけるシェル構造の建設は,1923年,イェーナに建てられたプラネタリウム(スパン25m)に始まる。
シェルの特徴は板厚と曲面の曲率半径の比が小さく,軽量であるところにある。ちなみに,パンテオンでは1:24(重量は約9t/m2)で,プラネタリウムでは1:200(150kg/m2以下)であった。この差は,19世紀において開始されたシェル構造の力学理論の展開と鉄筋コンクリートの発見に負っている。現在,最大のスパンをもつシェル構造は,パリ工業技術センター(1953年,スパン218m)である。
シェル構造は曲面のもつ幾何学的な美しさと軽快な表現で人々をひきつけている。また,コンクリートの可塑性を利用して,自由かつ大胆な造形をつくることも可能であり,その代表として,T.W.A.エアターミナルがあげられる。シェル構造は,使用材料の重量に比して荷重に対する抵抗能力が高いところから,タンク,圧力容器,飛行機や宇宙ロケット,船舶,海中構造物など多方面で利用されており,またシェル構造のもつ形態抵抗構造の原理は,スペースフレーム,空気膜構造,ケーブル構造の発展の基礎となっている。
執筆者:半谷 裕彦
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…フランスの建築家A.ペレは,1903年パリのフランクリン通りの集合住宅で,陶板で覆われた鉄筋コンクリートの骨組み,大きい窓,屋上テラスなどで外観を構成,鉄筋コンクリートの造形の可能性を示した。彼は23年にはル・ランシの教会で,鉄筋コンクリートの打放し仕上げ,架構の間をうめる色ガラスはめ込みプレキャストコンクリート格子,鉄筋コンクリートシェル構造の屋根などを採用,さらに鉄筋コンクリートの表現可能性を追求した。煉瓦造,石造に比べ壁面に大きい開口部をとることが容易なこの鉄筋コンクリートによる構法は,ガラス工業の発達とあいまって,ガラス張りの明るい室内や1階を吹き放ちにするピロティを可能にし,新しい芸術運動ともからんで,鉄骨造建築とともに近代建築の主流を占めることとなる。…
…ボールトやドームは石材で屋根を作るときに,アーチの原理を利用することから発達した屋根形式であり,アラブやヨーロッパのような石造建築の伝統をもつ国では普及しているが,日本ではあまり見られない。シェル構造の屋根は,膜のもつ力学的性質を利用して,薄くて強い屋根を作ろうとするものであり,屋根面自体が自分を支える強度をもっているから,小屋組みが不要になり,体育館や講堂などの大梁間の屋根に使われる。 同じ屋根形式であっても,こう配の大小,破風の大きさ,軒の出の寸法,軒先回りの納め方によって,屋根の印象は大きく異なる。…
※「シェル構造」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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