空気圧を利用して膜面に張力を与え,それによって形を安定化(剛性を付与すること)させるとともに,雪や風などの外力に対する抵抗能力をもたせた構造。ニューマチック構造とも呼ばれる。空気を閉じ込める方法の違いにより一重膜構造と二重膜構造に分けられる。前者は,床上に膜を張り,床と膜との間に空気を閉じ込めるもので,ドーム型のものはエアドームair domeと呼ばれる。一重膜構造では建物内外の気圧差を保持する必要から大きな開口を設けることは不可能で,閉鎖型の内部空間となり,温室,展示場,ホールなどの屋根として利用される。膜で空気を包み込む形式としたものが二重膜構造で,空気の気密性は膜で保たれる。そのため,膜構造が構造物の部品としての性格をもつことも可能となり,チューブやマットなど用途に応じた形をとることもできる。二重膜構造は開放的な空間を必要とする構造体に利用され,倉庫,工場,車庫など用途は広い。
このような空気圧によって構造物を作る試みは,18世紀後半の熱気球の研究に端緒があり,飛行船も二重膜構造の利用であった。本格的な建物への適用は1957年W.バードによるプール用のエアドームに始まる。70年の大阪万国博覧会は空気膜構造の一大展示場となり,アメリカ館はケーブルによって補強された一重膜構造,また,富士パビリオンはエアビームを並列に配置した二重膜構造として,その後の発展へ大きな影響を与えた。
膜は引張力を伝えるが圧縮力を受けるとしわが発生して力の伝達能力は失われる。つまり,膜面には引張応力(テンション)は存在するが圧縮応力は存在していない。引張応力のみが存在している構造はテンション構造tension structureと呼ばれ,空気膜構造はケーブル構造とともにその代表である。目的とする形を得るためには,その形が膜構造として形成可能曲面(膜面上にしわのでない曲面)でなければならない。このため,一重膜構造としては球や円筒などが用いられる。形の自由度を増すために,同じテンション構造であるケーブルと組み合わせる場合もあり,また,ケーブルを薄い膜に対する補強材として用いることも多い。空気膜構造における空気圧としては,外圧との差で,0.003~0.015kgf/cm2(一重膜構造),0.1~10kgf/cm2(二重膜構造)程度が用いられるが,積雪時や強風時には内圧を一時的に高くする必要や開口部からの遺漏量を補う必要もあり,維持管理の考察が要求される。膜の材料としては,合成繊維やガラス繊維がおもに用いられているが,耐久性と耐火性に欠けることから仮設的な構造となっている。これらの欠点を克服するために金属膜の利用も試みられており,その一例として,1962年にR.B.フラーが提案した都市を覆うエアドームがあり,生活環境も含めて大きな問題を投げかけた。
執筆者:半谷 裕彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
のレンズ状二重膜、 のチューブ状の膜、 の周辺構造をもつ一重膜のように、内外の圧力差で膜を二方向予張力状態とし、それに基づく剛性を利用できるように形成した構造物のことをいう。
キャンバスや薄いステンレス膜などの膜材料は、そのままでは圧縮剛性をもたないが、あらかじめ張力を与えた状態にしておくと、その張力が失われるまでは張力減に相当する付加圧縮応力を負担できることになり、それに対応する圧縮剛性を利用できる。
の直線空気膜チューブでも、内圧が与えられた状態では、その要素は母線方向にも円周方向にも引張り応力状態にある。したがって、母線方向の張力相当分だけ、全体的な曲げによる圧縮応力を負担できることになる。膜の張力は差圧と膜面の曲率半径に比例する。そこで大スパンの空気膜構造では、 の一重膜の膜面に沿って多数のケーブルを網目状に張り渡し、 のように膜面を縛り付けることによって、多数の曲率半径の小さい区分膜面を形成する。また、内外の圧力差を実現するために膨張装置を設置する。この方法によれば、スパン数百メートルの柱のない大空間を比較的廉価で実現することができる。1970年(昭和45)に開かれた日本万国博覧会のアメリカ館はこのような空気膜構造である。その後多数の全天候型の野球場や競技場が、この方法で建設されている。[中村恒善]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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