日本大百科全書(ニッポニカ) 「竜宮童子」の意味・わかりやすい解説
竜宮童子
りゅうぐうどうじ
昔話。異郷から得た不思議な力をもつ生き物を主題にした宝物譚(たん)の一つ。男が正月の門松をとりに行く。淵(ふち)にカモがいるので門松を投げ付ける。淵から女が出てきて門松の礼をいい、水の中の家に案内する。男はそこで馳走(ちそう)になり、帰りに醜い顔をした子供を土産(みやげ)にもらう。子供は陰に置いてくれという。その日から米櫃(こめびつ)には米が、財布には銭がいっぱいになる。婆(ばば)が子供をみつけて箒(ほうき)でたたくと、泣きながら出て行く。またもとの貧乏になる。正月の行事と結び付いている例が多い。新年は現世と異郷との境がなくなり、自由に往来ができるときで、この世の人が死者の世界に招かれることもあるという信仰を背景にしているらしい。
宗教性の強い昔話で、岩手県には、この子供の顔を仮面像につくって祀(まつ)ったのが竈地蔵(かまじぞう)(火の神)であるという伝えもあり、一方では座敷わらしの伝説とも重なり合ってくる傾向がある。海の神を「少童命(わたつみのみこと)」と書く例は『日本書紀』(720)にもあるが、日本には海神を幼い子供とする信仰の証跡は乏しい。中国では海神を「海童」と表現し、童形とする信仰があった。九州を中心にして、西日本には犬をもらってくる話が多い。全体の物語の展開は「花咲爺(はなさかじじい)」とその朝鮮・中国の類話「兄弟と犬」の中間の形式をとっており、「花咲爺」の形成の一段階を示している。竜宮からもらってきた犬が美しい女に変身するという話はモンゴルにもあり、「竜宮童子」の犬型の源流は、大陸部にあったと推測できる。
[小島瓔]