昔話。動物の力で富を得ることを主題にした致富譚(たん)の一つ。外枠は「隣(となり)の爺(じじ)」型で、「動物報恩譚」の要素もある。善い爺がイヌを飼う。イヌが畑を掘る。そこを掘ると小判が出る。悪い爺がイヌを借りてまねると汚い物が出る。悪い爺はイヌを殺す。善い爺はイヌを葬り、墓にマツの木を植える。マツはすぐに成長する。善い爺がマツで臼(うす)をつくり、餅(もち)を搗(つ)くと小判が出る。悪い爺が臼を借りて搗くと汚い物が出る。悪い爺は臼を焼く。善い爺がその灰をまくと、枯れ木に花が咲き、殿様から褒美をもらう。悪い爺がまねをすると、殿様の目に灰が入り、とがめを受ける。赤本の『枯木花(かれきにはな)さかせ親仁(じじ)』をはじめ、江戸中期以後の文献にみえ、江戸時代の五大童話の一つになっている。明治以後も絵本や読み物で広く親しまれている。昔話には、ほかに、結末が善い爺が灰をまくとガンの目に入って、ガンがたくさんとれたとか、墓から生えた竹が天の金蔵を破って金が降ってきたとかという「雁取(がんとり)爺」もある。
これらの昔話の類話は、朝鮮や中国にもある。2人の兄弟が財産を分ける。弟はもらったイヌで畑を耕して富む。兄はイヌを借りるが失敗して殺す。弟がイヌを葬ると、その墓から竹が生え、それで弟は富む。兄はまねるが失敗する。細部まで「花咲爺」や「雁取爺」とよく共通しており、明らかに同源である。「花咲爺」や「雁取爺」には、主題の核であるイヌは、「桃太郎」と同じく川上から箱に入って流れてきたという語り方があるが、これは昔話の語り始めの「語りの様式」で、この昔話の本質ではない。つまらない遺産として得たイヌの力で富を得る「兄弟と犬」のイヌがキツネにかわった類話は、モンゴルや新疆(しんきょう)に住む民族ウイグルにもある。キツネは、フランスのシャルル・ペローの昔話集の「長ぐつをはいた猫」のネコのように、人格的に活動して主人を富ませるものもある。これは、「花咲爺」型のイヌが、行動上は現実的でありながら、内面的には転生によって主人を富ます宗教性を示しているのに対して、「長ぐつをはいた猫」型のキツネは、行動そのものが人格的で、宗教性を前面に出しており、宗教性が外面的か内面的かだけの違いである。
キツネが、サル、ジャッカルに変化した類話は、インド、インドネシアにもある。「長ぐつをはいた猫」型は、トルコを通って、ペローの昔話集をはじめ、ヨーロッパ全域に分布している。これが「花咲爺」型と分化したのは、二つの型が接している中国大陸であろう。この二つの型の違いは、現実的な東アジアの昔話と、空想的な西アジア、ヨーロッパの昔話の質的な差異の現れでもある。
[小島瓔]
昔話。川から拾ってきて育てた犬をめぐって,次々と幸運を得る善良な爺と,それをうらやむ隣の爺の失敗を語る物語。五大お伽噺の一つ。題名は,枯木に花を咲かせる主人公の行為から付けられた。江戸時代の赤本に〈枯木に花咲かせ爺〉とあるのが,本来の呼称であろう。同じ時代《燕石雑志》には〈花咲翁〉,《雛廼宇計木(ひなのうけぎ)》には〈花咲老夫〉と,漢籍風に記されている。〈花咲爺〉と後々呼ばれるようになったのは,これらの影響によるものであろう。主人公の爺は,無欲な正直者である。これは日本の昔話の主人公に共通する善良な人柄であり,いわゆる“神の好む者”として,神から幸運を与えられる資格である。主人公は,犬を拾うことに始まり,土中から宝を掘り,宝の出る臼を造る。臼を燃やした灰までが,枯木に花を咲かせる不思議を表す。すべて神が与える幸運であり,どのような場合にもそれが失われることはない。しかし,主人公を真似する隣の爺は,たいそう不運で,宝に代わって石や汚物を手にし,臼を燃やした灰をまいても枯木に花は咲かない。殿様の目に灰が入って懲戒を受けると語られる。それは,神が主人公の邪魔をする者に与える,冷淡かつ残酷な仕打ちである。これは,日本の昔話形式の中の,最も基本的なもので〈本格昔話〉〈完形昔話〉と呼ばれる。中国,朝鮮には〈狗耕田〉〈兄弟分家〉など,花咲爺の伝承を考える上で注目すべき民間故事がある。
執筆者:野村 敬子
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…体長は4.5m(雌)~6m(雄)で,胸びれは体長の22~27%と前種よりも長い。ハナゴンドウ(全長3m),オキゴンドウ(全長5.5m)なども暖海性のマイルカ科の仲間で,頭部が大きくまるいので,ゴンドウクジラ類とも称されるが,それぞれ別属の種類である。クジラ【粕谷 俊雄】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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