精製米を一時貯蔵しておくための容器。「櫃」は古代から食物、衣類、武具などを収納する具を表し、なかでも唐櫃(からびつ)は食料品を貯蔵したり、あるいは収納して運搬する場合に常用され、中世以降になると、小袖(こそで)櫃のように用途別に名称が付されるようになって多様な展開を示した。同様にこの唐櫃から派生した米櫃も、とくに近世に入ってから当用の貯蔵のものとして普及し始めた。弥生(やよい)時代にはすでに土製の甕(かめ)が米櫃として使われていたが、その後、長持形の箱や樽(たる)、桶(おけ)などのいろいろなものが使用されるようになった。とくに規格はないが、一般に横型の2斗(約36リットル)入りから2升(約3.6リットル)入りのものが好まれ、白木製や塗り物もあった。地方によって呼称が異なり、江戸時代中期の『物類称呼(ぶつるいしょうこ)』には、江戸周辺で「こめびつ」、京都では唐櫃の音便変化から「からと」、大坂・堺(さかい)周辺では「げぶつ」、仙台周辺では「らうまいびつ」と記されている。また庶民の生活に密着するにつれ、「米櫃は物淋(さび)しく」「夕に米唐櫃をかすり、朝に薪(まき)絶えて」などというように、生活のシンボルともなって貧富を表現するまでになった。明治時代以降も常用され、昭和30年代まではおもに木製に加えてブリキ製のものが使用されたが、パンなどの粉食の普及とともにやや廃れた。現在では、中の量が見えて蓋(ふた)を開閉する手間の要らないワンタッチレバー式の、プラスチック製計量器付き米櫃が普及している。
[森谷尅久]
食用の米を入れる容器。木櫃,甕,樽,桶などの容器が使われ,食糧を意味する各種の名称と使用されている容器名との組合せによる多数の呼名がある。このうち最も広く分布している呼称はリョウビツ,リョウマイビツなど粮米櫃の系統で,東北,中国,四国,九州の各地方で使用されている。近畿地方のゲブツ,ゲビツ,東北・北陸地方のケシネビツは,雑穀を意味するケシネから出た言葉で,この地方の民衆の主食が雑穀であったことを推測させる。北陸・近畿・九州地方のカラト,コメガラトは長持・唐櫃を意味するカラトから出ている。米櫃の管理は一家の主婦の権限に属し,炊事は嫁にまかせても飯米は椀や枡で主婦が米櫃からはかって出す習俗が近年まで広く行われた。米櫃が主婦権の象徴となっている地域もあり,主婦権の譲渡を〈コカビツ(米櫃)を渡す〉とか〈鍵を渡す〉などという。
執筆者:大島 暁雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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